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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その32

2021/09/06 18:23 投稿

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【本号の目次】

1. 実験の算段:氷温麻酔をかける
2. 実験の算段:バネ秤の目盛りを記録する
3. 実験の結果:曳力と噴水のサイクル
4. 実験の結果:吸水と噴水の時間 


実験の算段:氷温麻酔をかける

 翌朝6時30分起床。メンチカツサンドと牛乳、コーヒーで朝食を済ました後、紅葉の山々に囲まれた臼尻港を散策した。港を囲む山々は紅葉の盛りを少し過ぎた感じ。実験所に戻って、飼育水槽の設置してある研修棟床下小屋で実験のスタンバイを始めた。9時過ぎには、高原君が漁協の製氷所から海水氷をバケツに一杯持ってきた。二年前の9月、スルメイカの吸水量を測定した時と同じように氷温麻酔をかける支度である。私は、ビデオカメラ2台と三脚、200gと500gのバネ秤、渓流用の釣針と0.5号テグス数m、サルカンなどを用意した。

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  実験の算段はこうだ。水槽の水位を調節する排水パイプに∞型のサルカンを縛り付けて、その真上に天井からバネ秤を吊るした。ビデオカメラを三脚につけてバネバカリの目盛りが撮影できるように設置した。高原君と大島さんは、海水と海水氷を入れた37x45x6㎝のプラスチック・バットを十数枚用意してスルメイカの氷温麻酔を開始した。大島さんが、飼育水槽から状態のよいスルメイカをたも網で掬い、両手を海水氷で冷やした高原君がそっと掴み、海水と海水氷を入れたプラスチック・バットに入れる。スルメイカは漏斗から一吹き海水を吐き出すと、氷点下に近い海水を外套内に吸い込んでびっくりしたようにおとなしくなり、数回海水を吐き出したり吸い込んだりした後、ほとんど動かなくなる。

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      2年前にスルメイカの吸水量を測定した時の氷温麻酔の作業風景
  


実験の算段:バネ秤の目盛りを記録する

 
  その状態のスルメイカをメジャーで外套背長、メトラーで体重を測定してから、外套膜の背側前端に渓流用の釣針をかけて2mほどの道糸を繋いだ。バットに入れたまま水槽の縁まで運び、道糸の端を輪にしてバネ秤の鉤にかけてから排水パイプに付けたサルカンに道糸を通してスルメイカをバットから静かに水槽に入れる。すこし経ってスルメイカは、気が付いたように大きく海水を吸い込こんでから後方に向かって泳ぎ始める。すると、外套膜背面前端にかけた釣針につないだ道糸が引っ張られて、バネ秤の目盛りが動くことになる。その目盛りの動きを三脚に付けたビデオカメラで撮影・記録した。同時に手持ちのビデオカメラで水槽に戻したスルメイカの動きを撮影・記録した。何度か道糸を引っぱり動きが緩慢になるまで撮影したのち、スルメイカの釣針をはずして「ごくろうさんでした」と声をかけて水槽に戻した。

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 実験に供したスルメイカは7個体で、外套長は222-268 mm、体重は259-495 gの範囲であった。その内2回はビデオカメラの操作をミスり、残りのうち2回はしっかり道糸を曳くことをせず記録が取れなかった。結局1日がかりの実験で、ほぼ満足のいく実験結果が得られたのは3回だけであった。が、予備実験もせずになんとか結果が得られたのは、高原君と大島さんの献身的な協力があったからこそであり、二人には深く感謝している。


実験の結果:曳力と噴水のサイクル

 まずは実験の様子を撮影した1回目の手持ちビデオ映像を見ていただきたい。バネ秤にかけた道糸がサルカンを通りスルメイカに繋がり、スルメイカが水を吹きだすたびに道糸を曳く様子が撮影されている。

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ビデオカメラは1秒間に30フレームが撮影されるので、この映像から道糸を曳いた秒数と間隔を求めて横軸 (sec) に、バネ秤の目盛りを記録した画像とシンクロさせて引っ張ったときの曳力 (g) を縦軸にしてグラフを描いた。

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                 実験1の曳力(縦軸)と時間(横軸)を示したグラフ

 このスルメイカは外套長268㎜、体重495gで実験に供した7個体の中で最も大きい個体であった。最初の2回は50gほどの曳力で、その後3、4、5回と力を出し始め、5回目に365gの曳力を記録した。その後の3回も250-300gの曳力を記録して、水槽に戻してから11秒間に8回水を吹きだしたことになる。その後の24秒はあまり活発に曳くことはなく、1回だけ300gを超える力を出した。最初の10秒間で噴水は7回前後、1回の吸水・噴水のサイクルは約1.4秒かかることが示された。

実験の結果:吸水と噴水の時間

 もう一つの例として、実験4回目の映像も見てもらおう。比較的長く曳き続けた外套長250㎜、体重332gの個体で、1分半ほど道糸を曳く動きを記録できた。

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                実験4の曳力(縦軸)と時間(横軸)を示したグラフ

  この個体は最初から200gほどの曳力を示し、13.6秒後の6回目に350gと自身の体重よりも大きい曳力を記録した。少し休んだ後、20秒から85秒にかけて28回、弱く曳いたり強く曳いたりを繰り返し、高い値は200-250gの曳力をキープした。曳力0からマックスまでの噴水時間は0.30~0.43secで、最大を記録した6回目が0.43sec であった。
 二回の実験結果からスルメイカは遊泳にあたり、外套膜内に約1秒かけて海水を吸水し、0.3~0.4秒で海水を噴出して推進力(≒曳力)を得ることが分かった。推進力は最大で自分の体重とほぼ同じ力(曳力)をだせるが、通常は体重の60~75%の力を使うことが推定された。二年前の吸水量を推定した実験では、スルメイカは平均で体重の40%の海水を吸い込むことが計測されている。

 さて、新たに得られた推進力(曳力)の値をどのようにシミュレーションに活かしていくのか、そこが問題となった。なにせ数式は大の苦手である。

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