[本号の目次]
1.特別展「パール」
2.大騒動のニュース・メディア
3.日本のニュース・メディア
4.ナショナルジオグラフィックの嬉しい評価
特別展「パール」
英国の生物系学術誌、ロイヤルソサエティー、シリーズBからダイオウイカ論文が公表される予定の2005年9月27日の前夜、私は特別展「パール」の開催に向けて、上野の国立科学博物館・地球館地下3階にある特別展会場準備室でその準備に忙殺されていた。10月7日(金)に関係者内覧会とセレモニー、そして10月8日(土)からは一般公開が始まるのだ。特別展担当責任者として、各々の展示品と解説パネルなどの確認、配布する資料や図録の準備、会場整備とオープニングに向けた最終調整など、やらなければならないことが山ほど残されていた。
その時、交換台から英国から国際電話が入っていると連絡があった。何事かと受話器をとると、よく聞き取れないがロンドンのラジオ局のスタッフと名乗る男からインタビューをお願いしたいとのことのようである。何のことかと聞き返すと早口の英語で、ジャイアントスクイッド・ファーストタイムを何度も繰り返した。どうも論文公表の前に内容が漏れたようである。適当にごまかして電話を切ったが、また直ぐにかかってきた。仕方がないので、脂汗をかきながら拙い英語で質問に答えてなんとかその場を凌いだ。自分で聞くことは出来なかったが、深夜のロンドンでラジオから私の声が流れたのかもしれない。取材解禁前のフライイング気味だが、彼にとっては大スクープになったに違いない。その後も何度か交換台から国際電話の知らせがはいったが、交換手さんに「クボデラはこちらにはいない」と伝えるようにお願いして、二度と受話器を取ることはなかった。
「パール」展に出品する美術品を事前に調べる。
ジョー・ディマジオがマリリン・モンローに贈ったといわれる伝説のパールのネックレス。
大騒動のニュース・メディア
翌、9月28日は朝早く新宿分館の研究室に立ち寄った後、直ちに上野本館に出向いて特別展の開幕に向けての追い込みにかかった。本当に開幕が差し迫っていたのである。ところがその日は午前中からいち早く、ダイオウイカ撮影のインタビューをしたいと、準備室にいた私のところにAP通信とロイター通信の外国人記者がカメラマンを連れてやってきた。その後にもドイツテレビ局のスタッフ、英国BBCの記者、フランス人のジャーナリストなど海外ニュース・メディアが次々とやってきて、その対応に追われて「パール」展の準備どころではなくなった。「パール」展の最終的な詰め作業は、一緒に準備を進めてきた海生無脊椎動物研究室の齋藤さんと長谷川さんにお願いせざるを得なかった。この日は午後になっても取材攻勢が続き、日本の各新聞社の記者やテレビ局の報道関係者が次々と訪れてきて、対応に追われた。
そして、9月27日付けでニューヨークタイムズの1面に “It’s the catch of the day, giant squid filmed in wild for 1st time” 「ダイオウイカが世界で初めて撮影されたその日」のタイトルで記事が載せられた。また、ナショナルジオグラフィック・ニュースがインターネットを通じて “Holy squid! Photos Offer First Glimpse of Live Deep-Sea Giant” 「驚異のダイオウイカ!世界初の写真が深海で撮影される」と発信。9月28日には英国BBCや米国MSNBCのインターネットでも大きくとりあげられ、その反響は想像をはるかに超えて世界中に広がった。その後調べてみると、この研究成果はヨーロッパ各国や中国・韓国などアジアの国々、さらに中東のサウジアラビアでもニュース・メディアを通じて広く紹介されていた。
そして、9月27日付けでニューヨークタイムズの1面に “It’s the catch of the day, giant squid filmed in wild for 1st time” 「ダイオウイカが世界で初めて撮影されたその日」のタイトルで記事が載せられた。また、ナショナルジオグラフィック・ニュースがインターネットを通じて “Holy squid! Photos Offer First Glimpse of Live Deep-Sea Giant” 「驚異のダイオウイカ!世界初の写真が深海で撮影される」と発信。9月28日には英国BBCや米国MSNBCのインターネットでも大きくとりあげられ、その反響は想像をはるかに超えて世界中に広がった。その後調べてみると、この研究成果はヨーロッパ各国や中国・韓国などアジアの国々、さらに中東のサウジアラビアでもニュース・メディアを通じて広く紹介されていた。
日本のニュース・メディア
ニュース・メディアの騒ぎが一段落した後、国内や海外の頭足類研究者仲間のみならず多くの一般の方々から、おめでとうの祝福とよくやったとの称賛のメールを頂いた。中でも前述したダイオウイカの生きている姿を追い続けている米国スミソニアン自然史博物館のクライド・ローパー博士から「コングラチュレーション!奇跡を引き寄せたね」との嬉しいメッセージを受け取った。ローパー博士からは、翌年の2006年、オーストラリアのホバートで開催された国際頭足類研究集会で特別にデザインされたT-シャツと博士手作りのダイオウイカ・トロフィーまでいただいた。そのほかに少数ではあるが、「一本の触腕を失ったあのダイオウイカはどうなるのか」、「なにも害をなさない生き物に危害を加えていいのか」といったお叱りのメールも受け取った。いずれにしても、ダイオウイカの生きた姿を撮影したことは世界中を驚かす大事件であったことは間違いない。
毎年、その年の10大ニュースを選んで発表しているナショナルジオグラフィックのランキングによると、2005年の第三位はインドネシアを襲った大地震と大津波、第二位はアメリカ南部を襲った巨大ハリケーン・カトリーナ、そして第一位はなんと我々が世界に発信した“Holy squid! Photos Offer First Glimpse of Live Deep-Sea Giant” 「驚異のダイオウイカ!世界初の写真が深海で撮影される」が選ばれた。ダイオウイカを追い続けてきた研究者にとって、なんとも誇らしい評価を頂いた。
2006年、国際頭足類研究集会でロパー博士よりT-シャツと祝福のメッセージをいただく
ローパー博士からいただいた博士自作のダイオウイカトロフィーと触腕が一本ちぎれているT-シャツのダイオウイカ
日本ではやや遅れて、9月28日に読売新聞が夕刊で「ダイオウイカ深海の生態撮った」、朝日新聞が10月1日の夕刊に「ダイオウイカのお食事 撮影に成功」のタイトルで紹介した。さらに10月3日には日経新聞が「ダイオウイカの生態を撮影」のタイトルで、産経新聞が「巨大イカパクリ」のタイトルを付けて各々の朝刊のコラムで紹介したほか、テレビでもNHKニュースや民放のニュースで放映されたので、ご覧になった方もあるかと思う。とにもかくにも日本の反響に比べ、海外での反響のすごさに驚かされた。
その中では東京新聞の女性記者が何度か私のもとを訪れて取材を重ねて、10月7日に夕刊の裏面1ページを割いて「伝説のダイオウイカ現る」の大見出しで詳しく解説、報道した。そして「ダイオウイカは世界最大の軟体動物。これまで海岸に死体が漂着したり、クジラの胃から見つかったりしているが、海中で生きて動く姿をとらえた写真はなかった。世界中の研究者が挑んでいただけに、今回の快挙は日本より海外メディアが殺到しているのだ」と正に当を得た指摘をした。また、「(巨大なイカは)日本では、『鮨何人前か、イカ焼き何人前か』という発想になる。海の魔物として恐れる伝統を持つ欧米人と食べ物としてみる日本人の違いですね」と私のコメントも引用してくれた。
ナショナルジオグラフィックの評価
ニュース・メディアの騒ぎが一段落した後、国内や海外の頭足類研究者仲間のみならず多くの一般の方々から、おめでとうの祝福とよくやったとの称賛のメールを頂いた。中でも前述したダイオウイカの生きている姿を追い続けている米国スミソニアン自然史博物館のクライド・ローパー博士から「コングラチュレーション!奇跡を引き寄せたね」との嬉しいメッセージを受け取った。ローパー博士からは、翌年の2006年、オーストラリアのホバートで開催された国際頭足類研究集会で特別にデザインされたT-シャツと博士手作りのダイオウイカ・トロフィーまでいただいた。そのほかに少数ではあるが、「一本の触腕を失ったあのダイオウイカはどうなるのか」、「なにも害をなさない生き物に危害を加えていいのか」といったお叱りのメールも受け取った。いずれにしても、ダイオウイカの生きた姿を撮影したことは世界中を驚かす大事件であったことは間違いない。
2006年、国際頭足類研究集会でロパー博士よりT-シャツと祝福のメッセージをいただく
ローパー博士からいただいた博士自作のダイオウイカトロフィーと触腕が一本ちぎれているT-シャツのダイオウイカ
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