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先月幕を閉じたリオ・オリンピックでも影を差し込んだドーピング問題。MMAシーンでは世界最大イベントUFCでは厳格な検査が導入されているが、先日アウトになったブロック・レスナーをはじめ使用者は後を絶たない。そしてアメリカで追放処分を受けたファイターが日本では大物として歓迎されてしまう有様。我々は心のどこかに引っ掛かりを感じながら闘いを見守っているのが今日の現状である。では、ほかの格闘競技ではどうなのか? 今回はブラジリアン柔術黒帯にして柔術専門ライターの橋本欽也氏に、無法地帯と囁かれる柔術界のドーピングの実態、悪魔と取り引きをしてしまう精神についてうかがった。



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――オリンピックでドーピング問題が話題になってますが、柔術専門ライターにしてブラジリアン柔術黒帯の橋本欽也さんも、じつはステロイドを使用する寸前だったとか。

欽也 Dropkickで大沢(ケンジ)くんが「どれくらい効果があるのか試してみたい」と言ってたでしょ。俺は実際に買ったからね。

――日本人格闘家でこんな告白は史上初だ(笑)。

欽也 詳しくはあとで話すけどさ、日本人格闘家はどんどん使ったほうがいいと思うよ!(ドン)。

――なんてことを言うんですか!(笑)。

欽也 だってMMAもドーピングの規制が厳しくなったとか言うけど、それでもほとんどの外国人格闘家はやってるわけでしょ。使ってない日本人選手が圧倒的に不利じゃん。

――おっしゃるようにMMAはグレーな状況なんですが、柔術の方面も検査がないからやりたい放題で真っ黒だと聞いたんですけど。

欽也 いや、年に1回だけ検査があるんです。

――年に1回?

欽也 いろんな柔術の大会がある中で、世界最高峰のムンジアルこと世界選手権で検査をやってます。ただし、アダルトの黒帯優勝者だけなんだよね。

――凄く限られてるんですねぇ。

欽也 ほかの柔術大会では「これから検査をする!」と発表したけど、ちゃんと行なわれてるかどうかは不明瞭。やっていない説が濃厚なんだよね。

――ムンジアルの優勝者にはちゃんと検査してるんですか?

欽也 やってる。実際、過去にはギャビ・ガルシアを含めて3人の陽性反応が出た(ブラウリオ・エスティマ、フェリッペ・プレギーサ、ギャビ・ガルシアの3人)

――ギャビ・ガルシアはいまでも検査したらアレしそう(笑)。

欽也 ムンジアルで検査をやるって決まったときは柔術界でも大ニュースになったんだよ。それくらいみんなやりたい放題だったから。で、検査を始めた年のムンジアルで、あの●●●●●が負けたんですよ。

――柔術ボンヤリ層」のボクでも知ってる有名な選手。

欽也 彼には昔からドーピングの疑いがあったから、検査をクリアするために抜いたことで負けたんじゃないか……っていう憶測もあって。

――優勝しちゃうと検査が待ってるわけですもんね。

欽也 ところがいざ蓋を開けてみたら尿検査だけだったという。血液検査はなし。●●●●●も「こんな検査ザルじゃないか!」って言い出して、その翌年から●●●●●はまたガンガン勝ち始めた(笑)。

――うわあ(笑)。  

欽也 極論を言っちゃえば、ムンジアルの黒帯の優勝者以外はやりたい放題なんですよ。「表彰台に上がるだけでいい」と高をくくってる選手はやってもいい。

――「ムンジアルには出ない」というのもひとつの手段になります?

欽也 なる。ADCC(アブダビコンバット)は検査をやってないし、2年に一度の開催でしょ。2015年のADCCは8月にあったけど、6月のムンジアルに出ないでADCCを選んだ選手がいっぱいいた。実力者は軒並みムンジアルを欠場ですよ(笑)。

――あからさまですねぇ(笑)。MMAは勝てば大金を手にできるということでドーピングに手を出すファイターが多いですけど。柔術もそこまでやるってことは稼げるということなんでしょうか?

欽也 多くの大会でチャンピオンになったある有名な柔術家が来日したときに、1週間で4回セミナーをやったんですよ。1回のセミナーで手にするお金は最低でも2500ドル。4回で1万ドルですよ?

――世界各地を回ればかなり稼げますね。

欽也 柔術の大きな大会って1月にはヨーロッパ選手権、3月にパンアメリカ、5月末から6月にムンジアル。それから半年間はセミナーの稼ぎ時。チャンピオンになっちゃえば1回2500-3000ドルを行く先々で稼げちゃうんですよね。それに柔術やグラップリングのスーパーファイトに出れば1試合で1万ドルは稼げる。メタモリスは5万ドルは出すし。

――ドーピングのメリットはある。

欽也 あとブラジル人がムンジアルを獲ったらアメリカで道場を開くというアメリカンドリームが待ってるんですよ。ブラジルには柔術黒帯なんて腐るほどいるから、単なる黒帯が道場は出せない。それにワールドチャンピオンがブラジルで道場を出すと言っても、向こうは柔術が根付いちゃってるから、わざわざワールドチャンピオンに習わなくてもいいし、みんながみんな競技志向じゃない。

――趣味程度でやりたい人間もいますよね。

欽也 そんなこともあってブラジルには道場を出す場所がないんだけど、アメリカはニューヨークとLA以外はガラ空きだから。いまサンディエゴやフェルディフィアに柔術道場が増えているのはそういうこと。ロシアやイギリス、ヨーロッパにも柔術の道場は増えている。そしてもうひとつはアブダビですよ。名のある黒帯がアブダビに行くと、学校の中で子どもたちに柔術を教えると月給5000ドルもらえる。

――それに加えてセミナーやスーパーファイトをやって稼げるわけですね。

欽也 日本人には性善説があるかもしれないけど、そこまでやる夢やビジネスが見えないってところがあるのかもしれない。たとえば、MMAでなりふりかまわず日本国内のチャンピオンを目指せばいいでしょ。検査してないんだから。

――使ってもバレない体制ではありますね。

欽也 誤解を招く発言だけど、UFCと契約するまでやればいいわけでしょ(笑)。

――まあ、ブラジル人ファイターなんてドーピング全力投球してPRIDEで名誉と富を掴んだわけですし(笑)。

欽也 やるべきだと思うよ。で、俺も実際ブラジルに行ったときにステロイドを買ったんだよ。

――買った!

欽也 ステロイドの副作用を抑える薬も買った。

――それも買った!


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