プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回は新日本プロレス真夏の祭典「G1クライマックス」がテーマです! イラストレーター・アカツキ@buchosenさんによる昭和プロレスあるある4コマ漫画「味のプロレス」出張版付きでお届けします!



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――今回のテーマは「G1クライマックス」ですが、名古屋+両国3連戦だった1991年第1回と比べると、最近のG1はロングシリーズになってますよよね。

小佐野 参加人数が多くなってることもあって日程も長くなってますよね。一時期は両国7連戦でまとめてやったこともあったんだけど。

――冷静に考えると、おかしなことやってますね(笑)。

小佐野 同じ会場で毎日試合をするのは精神的にもつらいと思うけど、ツアー形式もそれはそれで大変。今回はAブロックBブロックでそれぞれ10名参加。9試合もシングルマッチをやるんだからねぇ。注目度が高いから、極端なことをいえば、9試合連続でタイトルマッチをやるようなもんだから。

――肉体的にも精神的にもハードですよねぇ。今年はケガ人が出ず無事に終わりましたけど。

小佐野 表に出さないだけで、どの選手も何かしらケガは抱えてるとは思うんだけど。去年は中邑真輔が途中でケガをして欠場したけど、なんとか戻ってきた。本当は復帰できないくらいのケガだったはず。

――ケガがG1最大のライバルかもしれませんね。

小佐野 G1はケガをしてしまったら問答無用で脱落だからね。第7回で健介が優勝したときの決勝戦が天山との試合だったんだけど。天山はその前の試合でコーナーからダイビングヘッドバッドをやるとき足を引っ掛けてケガをしてしまった。肉離れをして歩けないような状態だったんだけど、当時現場監督だった長州から「絶対に足を引きずるな!」と言われて。

――肉離れなのに! たしかに突然足を引きずって現れたらファンは戸惑いますけども。

小佐野 天山は何事もなかったように決勝戦を戦い抜いたんだよね。ケガしてることを知ってるマスコミは、勝った健介よりも戦い抜いた天山に感情移入しちゃって。

――肉離れしてるのにそこまでやるんですねぇ。

小佐野 今年のケニー・オメガも相当ヒザが悪いはずなのにムチャな試合をする。だから新日本でずっとヒールをやってるのに「ケニー!」コールが起きた。ファンはキャラを超えたレスラーの真の姿を見るから、そうすると応援せざるを得ない。G1ってそのときの新日本プロレスのリング上の流れに関係なく、選手が横一線に並んで勝負するものではあるよね。

――レスラー個人の資質にスポットが当たるわけですね。

小佐野 今回の天山のG1最終戦はSANADAとの試合だったんだけど、まるで天山の引退試合かのような盛り上がりだったし(笑)。

――天山選手は本来不出場だったところをゴネていたら、小島聡選手から出場枠を譲ってもらいましたね。そこまでして出たいのがG1(笑)。

小佐野 やっぱりこれだけシングルマッチが並ぶわけだから、アピールするのは絶好の機会になるよね。馳浩なんかはこのG1のために日々練習して、1年の成果を試す大会だって意気込んでいたし。越中(詩郎)さんも両国連戦のときは家に帰らずに会場近くのホテルに泊まって集中力を切らせないようにしていた。

――そこまで環境を整えていた!

小佐野 たとえ戦績が悪くてもG1でインパクトを残せば「この選手はこのあと上に行くかも」とファンも思うわけだから。当時の現場監督だった長州力は試合内容を重視してたから、ヘタな試合をやったら会社からも見放されるからG1後もチャンスをもらえない。優勝者を決めるだけじゃなくてダメな奴を落とす大会でもあるんだよね。だから緊張感が凄くあった。

――こういうリーグ戦って白星配給係が出てきがちですけど、G1って最後の最後までどうなるかわからないですよね。

小佐野 最終的にはダンゴになるもんね。今回だって結果的に3敗までは決勝進出のボーダーだったから。なのでひとつひとつの勝った負けたはそんなに残らないけど、試合内容は記憶には残る。「やっぱりあの選手はいい試合をしていた」って思わせたレスラーが勝ちなんだよね。

――だからトップ扱いではなかった越中さんも両国近隣のホテルに泊まりこむほど意気込んで。

小佐野 あの当時の越中詩郎は「頑張ってるのに報われないレスラー」だってみんなが思ってた。普段はそんなにチャンスはもらえないから、G1で活躍するとファンは大喜び。武藤に勝ったときなんかは平成維震軍のメンバー全員がリングに上って、平成維震軍の旗を振り回して、まるで優勝したかのような大騒ぎで(笑)。

――ハハハハハハハハ! 第1回G1が盛り上がりすぎてファンが座布団を投げまくったことで、座布団貸出が禁止になったんですよね。

小佐野 決勝前日に武藤がベイダーに勝ったときに座布団が飛んで、決勝戦で蝶野が武藤に勝ったときも飛びまくった。そこまでファンは大興奮したということなんだけど。

――あの第1回は新日本プロレスだけではなく、闘魂三銃士にとってもエポックメイキングな大会になりましたね。

小佐野 じつは現場で見れてないんですよ(苦笑)。

――あら(笑)。

小佐野 あのとき私は『ゴング』のSWS担当だったんですよ。ちょうどG1の中日が龍原砲復活SWS1周年記念の横浜アリーナと被ってしまって。

――え、あれって被ってたんですか! そんな記憶がない。

小佐野 それに私は高熱を出していて、とても会場取材には行けない体調だったんだけど。私としては(阿修羅)原さんを探しだしてまで(嗚呼、阿修羅・原……修羅ごときそのレスラー人生!!)復帰にこぎつけたわけだから、気力を振り絞って横浜アリーナを取材したんですよ。そこまでやって復帰戦を見なかったらバカみたいでしょ?(笑)。

――たしかに(笑)。

小佐野 無理をしたもんだから、その翌日のG1決勝は家に寝込んでいて会場に行けなかったんです(笑)。現場では盛り上がりを味わっていないけど、凄い大会だったよね。

――Aブロックはベイダー、スコット・ノートン、藤波辰爾、武藤敬司。Bブロックは長州力、ビガロ、蝶野正洋、橋本真也。武藤がAブロック代表、Bブロックは橋本と蝶野の代表決定戦。

小佐野 途中で長州力が欠場して、当時IWGP王者だった藤波さんは武藤敬司に初めて負けるし、外国人エースのベイダーも脱落。闘魂三銃士が主役になって完全に世代交代がなされた大会で。

――あのときの新日本って人気爆発前夜だったこともあって、スポーツ新聞の扱いも悪かったんですよ。日刊スポーツも試合結果だけしか載ってなかったんですけど、まさかの蝶野優勝の文字に震えた記憶がありますね。

小佐野 一番地味な蝶野正洋が優勝したことで、それまで地味だったSTFが必殺技として認知された。

――三銃士の出世レースでいえば、蝶野さんは大穴でしたね。前年に長州さんが三銃士とシングル3連戦やって、唯一勝ったのは橋本さんで。

小佐野 そうそう。

――その夏の後楽園ホール7連戦も主役は橋本さんでしたけど。

小佐野 あの7連戦が成功したからG1をやることなったんだけどね。あの7連戦の途中で橋本がケガをしちゃって、無理をしたことでスランプになったところはあるよねぇ。

――第1回が大成功に終えたことで第2回も凄く楽しみにしてたんですけど、NWA王者決定トーナメントという形式の開催で。まあ、ちょっと、なんというか(苦笑)

小佐野 WCW勢が参加したトーナメントだよね。G1は何度かトーナメント形式をやったけど、リーグ戦と比べてしっくりこなかった。それは一回勝負で終わっちゃうからだろうけど。あのNWAトーナメントのときは外国人レスラーが多かったし、ファンも試合に入り込めなかったかもしれない

――いま振り返ると、そうそうたるメンバーなんですけどね。

小佐野 藤波さんが優勝した第3回もトーナメント形式だったんだけど、あのとき両国7連戦で、決勝は最終日ではなく6日目。最終日は天龍vs橋本の一騎打ちがメインだった。

――ああ、決勝戦が最終日のメインじゃなかったんだあ。

小佐野 長州は大会直前にアキレス腱を切って不出場。この頃はWARとの対抗戦をやり始めた年だから、WAR勢が全面的にゲストで出てきたというなかなか凄いG1で(笑)。このときも全大会超満員札止め。

――その企画力で7連続超満員札止めって、とんでもない勢いがあったんですねぇ……(笑)。


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