片岡義朗ブログ

再掲「タッチ特番」杉井ギサブロー監督2010/12/25@NHK-BS2

2016/10/22 12:39 投稿

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2010/12/25

8:23 am

本日、NHKに出演します。
「タッチ」特番がNHKBS2で本日20:00~22:00で放送されることになり、
総監督の杉井ギサブローさんと対談した。
レギュラー番組「マグネット=漫画アニメネットの現場」の特番と言うことで
「タッチ」の第1話と最終回の第101話を放送すると言う。
収録は11月の末にすでに済ませ、僕はもうこの番組をただ観るだけなのだけど、
その機会に改めてTVシリーズを観なおした。
観直しながら、いろいろな議論をした1984年の当時を懐かしく思い出した。

議論で言えば、製作スタッフとの激論があったし、
企画提案をする前の旭通信社(現ADK)の部内の議論もあった。
僕は企画プロデューサーと言う立場でこの番組に参加した。
当時のCXの日曜19:00からの枠は旭通信社の営業的な完全買いきり枠となっていて、
企画提案も旭通がすることになっていた。
もちろん編成権は放送局にあるので相談しながらやるわけだが、
社内にはCXの当時のすでに破竹の勢いが付いた状態をわからずに、
いわゆる商品化キャラクターがもっと売れるアニメを企画しようと言う動きが大きかった。
CX社内では「うる星やつら」「北斗の拳」などのように、
ティーンからF1,M!1分類の視聴率を取れる企画が待ち望まれていた。
その空気を肌で感じていた僕は確信を持って「週刊少年サンデー」連載、
あだち充先生の「タッチ」のアニメ化を企画した。
ただ企画会議で「この企画が外れたら、会社辞めてもらったらどうか」とか
「企画通すなら辞表書いてから」など冗談とは思えない会話があり、
社内ではどうせ取れて(当時は高視聴率時代)15%だろう、
スポンサーも付きにくい早くやめてほしい企画みたいに言われていた。

そんな背景は製作スタッフ打ち合わせではもちろん語れない。
第1話を作る前、
打ち合わせでは杉井監督、僕とCXのOプロデューサーの意見が常にすれ違い東宝のFさんが調整役だった。
食い違ったのはどういう風に視聴率をとるのか、の違いだった。
ゴールデンタイムのTVで視聴率をとるために、
幅広く視聴者をとる=見やすく判りやすく作ろうとするOさんと僕と、
漫画原作のもつドラマ性を映画的に表現しようとする=狭く深く作ろうとする杉井さん、という図式だろうか。

たとえば、空の色。今でも思い出す杉井さんの一言「空が青いって誰が決めたんだッ」
意見の食い違いは、いつも従来TVアニメの基本とされていたことと、
杉井さんが立てた演出プランの違いだった。
たとえば空はきちんと青く塗る、
これに対し、杉井さんは空は無色にしたい、なぜならこの作品に必要な透明感を出したいから。
でも空が無色だったら、手抜きしたと思われる。
僕が髪の毛の黒、学生服の黒はNG、なぜなら画面が重く暗くなる、そうなると視聴者が離れる。
それに対し、杉井さんは髪の毛は黒髪が基本、学生服も黒が基調、と譲らなかった。
なぜならアニメといえど、日常的なリアリティーを大事にしたいから。
杉井さんが登場人物の心情をじっくり伝えたいから、
キャラクターがたとえば考え込んでいるときなど、無音の時間を長くしたい、
TVでの無音はチャンネルを切り替えられるか放送事故だと思われるからNG。
音楽が鳴っていれば眼は画面に来るからBGMは常に流すべき・・・。
音楽のつけ方、テンポ感、物語の進展度合い=一話に入れる物語の量=脚本の速度、
サブタイトルのつけ方、なんでも議論になった、でも声優のキャスティングでは不思議に一致した。
杉井さんは、空の色は画面の真ん中は無色にするが周辺は青く塗る、
など妥協もしたけどほとんどは彼の演出プランを貫いた。
それが正解だった。

その結果、TVアニメ「タッチ」は最高視聴率で30%を超えた。
第一話のCX社内試写で
「こんな古臭いドラマっぽいアニメで数字取れると思ってるのか、受け取れない、作り直せ!」と
当時の編成部長から強烈にしかられた。
高校の先輩だったので、つい激しく叱ってくれたのだったが、
でももう一話の完成時には杉井さんの演出を理解していたし、
僕なりにこれは小津映画のTVアニメ版なんだという変な」割り切りをしていたのでひるまなかった。
「絶対これで数字を取ります、やらせてください」、と譲らず、放送に持ち込んだ。
一話の視聴率は確か、22%ぐらいだったと思う。20%を超えれば成功だった。

杉井さんが貫いたのは、キャラクターの心情をカットの積み重ね、切り替えしで表現すること、

時間経過に、踏み切りの遮断機の音をかぶせ、木の葉を舞い散らせ、夏の太陽の木漏れ日を使う。
原作漫画の持つ独特のせりふのやり取りとテンポ感を、
映画的表現で、時間の流れをコントロールすることで再現した。
原作の持つドラマ性、キャラクター性、リズム感、扱う題材を突き詰めて考え、
映像表現のコンセプトを狭く深くとり、忠実に実行する。
行き着いた表現が作品世界なりの生活のリアリティを大事にする、というものだった。

僕はこの作品で杉井さんからものづくりに際し、もっとも大事なことを学んだ。
それは固定観念化した既成概念は悪だ、ということだった。
作品は一つ一つみな違う。
その作品にはその作品に似合う作り方がある、
それはスタッフが真剣にその作品に向き合えば必ず見つかる、ということだった。
この感覚は 今でも僕のものづくりだけでなく、物事に接する時の基本になっている。
いつまでたっても杉井さんに感謝しすぎることはないくらい感謝している。

こうしてあの名作TVアニメ「タッチ」が誕生し、
僕は今でもカラオケに行くと必ず、
あの康珍化・芹澤廣明さんコンビの名曲、岩崎良美さんの「タッチ」を歌う。

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