めるまがアゴラちゃんねる、第107号をお届けします。
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コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(118)
Oculus DK2を取り込むことを狙うコンテンツ配信プラットフォームSteamVR
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(118)
Oculus DK2を取り込むことを狙うコンテンツ配信プラットフォームSteamVR


相変わらず、Oculus VR(カルフォルニア州)のOculus Rift DK2(以下、DK2)を触ることに熱中している。

様々なデモアプリを触ってみたり、完成途中のα版の開発の販売を始めてみたりしているところもあり、そうしたゲームをいくつか購入して試して性能の持つポテンシャルを探る作業を続けている。段々と見えてきたのは、DK2にハリウッド関係者などが強い興味を持ち始めている理由がよくわかってきた点だ。

DK2は、これまで苦戦してきたテレビ向けの3D立体視映像の販売の限界を一足飛びに飛び越え、映像産業も変化させてしまう可能性を垣間見させるほど、ハードに力がある。また、すでにDK2が実際にユーザー向けの製品として来年以降に発売される、CS1(コンシューマ版1)をにらんだ動きも出てきている。まずは、ゲームをめぐる争いだ。


■Oculus VRは配信システムを持っていない

Oculus VRは、今後ゲームコンテンツなど販売・配信するコンテンツ流通プラットフォームを整備しなければならない。Oculus VRでは、現在、登録している開発者が、作成したタイトルを紹介することができる「Oculus Share β」という仕組みを整えているが、サイト内で課金システム用意されていない。

配信先も開発者が独自にリンクを張る仕組みになっているなど、アップルの「App Store」に比べると、まだ仕組みとしては非常に未熟だ。現状では開発者間で情報を交換する以上の目的を達成できる機能を搭載していない。

ところが、すでにDK2向けも含めたコンテンツ流通プラットフォームを構築できている企業がある。Valve(ワシントン州)が展開するパソコン向けのプラットフォームの「Steam」だ。

Steamは、パソコン上でゲームが提供され、アカウントに紐付ける形でゲームを安全な環境で購入することができ、一度購入したゲームは認証を経れば、どのパソコンでも自由に遊ぶことができる。

販売されているゲームは、通常の家庭用ゲーム機で販売されているもののパソコン版であったり、少人数のインディ開発者が登録して販売しているゲームだったり、多種多様なものが販売されている。

おおむね、スマートフォン市場では1〜3ドル程度しか値段を付けることができないために利益を生みだしにくい状態であるのが、10ドル前後で販売しても売れるために収益を出しやすい。特に、インディ開発者が、販売先として最初に検討するサービスになっている。

ただValveは売上高といった業績など、徹底した秘密主義をとっているため、正確な情報が出ていないのだが、パソコン向けの配信プラットフォームとしては独占に近いほどの市場シェアを持っていると考えられている。


■Valveが配信を始めたSteamVR

そのValveが、DK2に対応した「SteamVR β」を8月18日にリリースした。

Steamは家庭用ゲーム機への進出を目指しており「Steam Boxというゲームの専用コントローラーとセットにした高性能パソコンと組み合わせて販売することを想定したハードの開発を押し進めている。

Steam OSと呼ばれるOSを搭載したLinuxベースのこのハードは、OEM方式で採用する各社から販売が開始することが、今年の春に予定されていたが、PCのキーボードやマウスと同じような感覚で動作させることができるという触れ込みの専用のコントローラーの開発が難航しており、まだ、ハードは登場していない。

ただ、Valveは自社でハードを生産してリスクを負うことを嫌っているようだ。

それでも、リビングルームに置かれるパソコンとなる可能性は模索したい。そのために「BigPicture」モードという新しいモードの提供を開始している。このモードでは、既存の家庭用ゲーム機と同じように画面一杯にインターフェイスが表示され、パソコン向けに販売されているコントローラーで操作することが基本となる。β版ではあるが、インターフェイスとしては一定の完成度を見せており、動作は軽快に動く。

SteamVRはこのBigPictureモードを、DK2内で3D立体視に切り替えて里オウできる仕組みを持っている。表示される3D映像は眼前をすべて被うほどの広いサイズだが、前面に湾曲しており、大きな映画館にいるような感覚を疑似体験させる。DK2のモーショントラッキングにより、操作は軽快だ。

すでに、DK2の販売を非常に意識しているように思えるのが、ゲームにより、既存の2Dとして遊ぶか、ゲーム自身が3Dに対応しているのかが、各ゲーム事に表示されるモードが付いている。

Valveは、現在、07年にサービスが開始されながらいまだに人気のある多人数オンライン型の一人称シューティングゲーム「Team Fortress 2」と、04年に販売された一人用一人称シューティングの名作「Half-Life2」をDK2に対応させている。「Team Fortress 2」は昨年3月のDK1リリース時には、早々と対応したために、DK2で遊んでも、3D酔いといった問題がすでに解決済みでかなり軽快に楽しむことができる。

SteamVRではこうした3Dに対応しているゲームはゲーム開始画面で「3D対応」が表示され、ユーザーは、DK2を操作する際についてまわる現時点では煩雑な設定をまったくすることなしにゲームをすることができるためストレスがない。今後、Oculus以外のVR機器が登場しても、適宜対応してくるものとおもわれる。これは様々な示唆を与える。


■Oculus VRとValveは戦略的に全面的に衝突することになる

SteamVRが、他のゲーム会社が利用するためにはどのようにプログラム側で設定すれば良いのかは明確になっていないが、DK2に対応したゲームをリリースした場合に、自動で切り替えてくれるのであれば、ゲーム会社にとってはこれほど便利なこともない。

すでにインディ開発者のなかには、DK2に対応したゲームも現れ始めており、決済などを統合的に管理してくれるSteamにメリットを感じ始める企業は今後も出てくるだろう。

Valveはハードウェアを自社のリスクを抱え込んでリリースしない方針を維持しているが、DK2で形成されるであろうVR対応のゲーム市場は自社のエコシステムのなかに取り入れてしまおうという、したたかな意図が感じられる。

7月、Oculus VRはValveの配信プラットフォームの開発に長年携わってきたJason Holtman氏を雇用したと発表した。新規で整えなければならないOculus VRは、コンテンツ流通プラットフォームは後発となると思われるが、ベテランの雇用によって乗り越えようという戦略意図を持っているのだろう。Oculus VRは、将来的にOculus向けコンテンツを独占とするようなことが起きるのだろうか。

どちらにしても、すでに両企業の前哨戦は始まっている。


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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