めるまがアゴラちゃんねる、第106号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(117)
高いOculus Rift DK2への関心と産業化への課題
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(117)
高いOculus Rift DK2への関心と産業化への課題

8月23日に、渋谷でOculus 勉強会が開催された。会場となった、DeNAの会議室には100人以上の人が押しかけた。勉強会の予約段階では、150人に達し、参加のキャンセル待ちも100名に達するほどだった。

バーチャルリアリティを実現するヘッドマウントディズプレイ「Oculus Rift DK2」へのゲーム開発者や、建築用のデモとして利用する用途が明快な建築関係者など幅広い関心を集めていることを明らかにすることにもなった。

まだ、7月下旬に予約者に対する配布が始まったOculus DK2は、まだ開発キットが世界に2万台程度出荷されているに過ぎない。DK2は開発者向けのキットであり、一般のユーザー向けに販売が始まるのは来年以降だ。

本当に新しい産業を生みだすまでに至るのかは、まだ未知数の部分も多い。それでも、この高い関心を集めている背景には、DK2で導入された性能の高いヘッドトラッキング技術など、ハードそのものが、将来の可能性を感じさせる部分は大きいためだろう。

13年3月に販売が始まったDK1と、DK2では大きく違いが存在する。DK2では、大幅に画素数が増え、ハイビジョン画質を実現している。

その分、映像をストレスなくDK2に出力するためには、「ゲーミングPC」と呼ばれるような、特にグラフィックス演算能力に特化しているGPUの性能が高いものを搭載したパソコンが必要になる。DK1は、MacBook AirといったインテルのCPUとグラフィックスチップが統合されているような、ハード性能が低スペックなマシンでも動作させることができていたが、DK2ではそういうわけにも行かないようだ。


■Oculus Rift DK2を快適に動作させるには高い性能を必要とする

勉強会では、初音ミクなどのデモを開発してきたことで知られるエクシヴィの近藤義仁氏は、「Oculus Rift DK2の開発時に注意すべき10の点」という講演を行った。

それによると、今後、OculusはハイエンドのPCを持っているユーザーが中心になって開発することになるのは間違いないと思われることだ。来年以降に発売されるOculusの一般ユーザー向けバージョンは、まず、PCゲームのユーザー向けに発売されることになるのではと予想される。上げられていた注意点のうち、今回の話題に関係する3点をピックアップして紹介しておきたい。

(1)75FPSのキープを優先
DK2で使用されている有機ELはサムスンの「Galaxy Note」のパネルを利用し、通常のモニターのリフレッシュレートの60Mhzだったものを、75Mhzにまで画面の更新速度をアップさせている。この更新速度は、1秒間に画面を書き換えることができる速度を示し、この数値が高ければ高いほど、人間にとっては自然な映像に見える。ゲームでは、1秒間に映像を書き換える速度をfps(Frame per Second)と呼ぶが、ハード性能一杯の75回の更新が行われることが望ましい。もちろん、これを実現するためには、高いPC性能が要求されることになる。

(2)DK1と違い、DK2ではGPU付きPCが必要
ハイビジョン化したDK2では、高いコンピュータ性能が求められるようになっている。DK1よりも、GPUを搭載したハイエンドなゲーミングPCを使うことが望ましい。性能は高ければ高いほど、改善が望まれる。ノートPCでは、15万円前後以上のゲーミングPCが望ましいと考えられるようだ。

(3)映像効果よりもfps優先で調整する方が快適
爆発などの映像効果や、水面の反射などは、ゲームを豪華に見せるための重要なテクニックだが、そうした映像的な美しさを追求して、fpsを優先してデモやゲームを開発することが望ましい。美しい映像よりも、75fpsで維持して映像を表現されている方が、人間が体験する場合には気持ちよい。


■先端のPCで最先端のゲームが遊ばれ、やがてコモディティ化する

コンピュータゲームの歴史では、まず、ゲームのグラフィックスの最先端技術が、パソコンで実現されニッチな市場を形成してきた。

GPUの概念が登場した2000年前後には、一人称シューティングゲームの「Quake 3」(米id Software)がキラーソフトとなった。対戦をテーマにした、このゲームで、なめらかな映像を楽しむには、当時のハイエンドPC性能が求められたのだ。そこでまず、PCゲーマーが市場を先導するように形成する。

その後、1年半〜2年でコンピュータチップ性能は2倍になっていくという「ムーアの法則」によって、コンピュータ性能の向上の恩恵を受ける。やがて量産化され、劇的にハードの値段が安くなり、3〜4万円程度の家庭用ゲーム機や、スマートフォンでもその技術が搭載されるようになる。

Oculusも、早速、過去のパソコンなどのハードが直面してきた限界にぶつかったわけだが、同じパターンをたどるだろう。来年以降に発売される一般ユーザー向けのものが要求するパソコンのスペックは、DK2で求められる性能よりも高いかもしれない。

しかし、5年後には、「プレイステーション4」以降の新しい家庭用ゲーム機では、十分に実現できるような時代に入っていくだろう。

筆者自身は、VRは、DK2でもニッチとはいえ、確実に新しい市場をつくって行くと考えているが、本格的に新しい産業として姿を現すには、もう少し時間がかかりそうだと感じている。


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin