めるまがアゴラちゃんねる

2014年9月第2週号

2014/09/08 12:12 投稿

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めるまがアゴラちゃんねる、第108号をお届けします。
配信が遅れまして大変申し訳ございません。


コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(119)
ゲームカンファレンスCEDECに見るゲーム産業の勢い
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(119)
ゲームカンファレンスCEDECに見るゲーム産業の勢い

9月2日〜4日まで、横浜パシフィコ(横浜市)にて、CEDEC(コンピュータエンタテインメントデベロッパーズカンファレンス)が開催された。これは日本国内のゲーム開発者を対象としたカンファレンスで、3日間の会期中に行われる講演やパネルといったセッションの数は、200を超える。

今年参加者数が、過去最高を記録したという。公式な発表は行われていないので、現地の運営事務局から非公式な数値であるが、参加者は5500〜6000人の間で、昨年から1割強増加したという。


■今年は財政面で苦戦するとみられていたCEDEC

実は今年は、集客では苦戦するだろうとみられていた。目玉となるセッションが不足していたためだ。

このカンファレンスを主催しているのは、家庭用ゲーム機の業界団体のCESA(コンピュータエンタテインメント協会)であるため、公募により参加者は募集が行われるのだが、全体的に、講演も家庭用ゲーム機向けの技術解説を行う内容が中心的であることが多い。

現在の日本のゲーム市場を牽引しているのは、昨年5000億円前後に達していると思われるスマホゲームで、2000億円台の家庭用ゲーム機ではない。家庭用ゲーム機の技術解説は、今ゲーム開発者が求めているニーズとずれている面があるのだ。

CEDECは、毎年薄氷を踏むような運営体制で行われている。

モデルとしている毎年3月にサンフランシスコで開催される米Game Developers Conference(ゲーム開発者会議)との最大の違いは、参加費用の違いだ。CEDECは3日間で3万円が基本価格だ。GDCが3日間で900ドルもすることに比べると格安と言ってもいい値段だ。技術カンファレンスとしては、かなり安い方と行ってもよい。その分、赤字化するリスクが高く、カンファレンス全体へのスポンサー費用によって補ってきた部分がある。

過去には、DeNAやグリーが競うようにスポンサードをして多数のセッションを提供し合うということも行われてきた。これがCEDECの財務的な安定性を提供していた時期もある。ただ、そうした自社のステイタスをあげるためにセッションを提供するというのは続かない傾向がある。

実際に、両企業とも、勢いを失ったことで、スポンサードセッションを行わなくなった。

一方で、LINEや、ガンホー、RPG「白猫プロジェクト」を成功させているコロプラといった、今ゲーム市場で最も勢いのある企業は、全く講演を行わないということもあり、開発者が求めるニーズとずれており、集客が厳しいのではないかと、ということが考えられたのだ。


■ゲーム産業には新しい仕事が生まれていると思われる

ところが、蓋を開けてみると、参加者数は増加していた。これは、運営事務局側は全く予期していなかった事態だったようだもちろん、財務的な危険性はほとんどないほどの収益につながったようだ。

さらには、多くのセッションが満席となり、立ち見となる場合も少なくなかった。(私自身が担当した2つのセッションも、広い部屋ではなかったが、どちらも満席立ち見となった) そうなった要因を、「携帯電話向けにソーシャルゲームを開発していた企業が、危機に直面しているからではないか」という説明をするベテランの開発者もいた。

今のスマホゲームの開発に求められるノウハウは、家庭用ゲームに近づいてきている。すでに携帯電話向けのブラウザゲームで求められたカードバトルゲームの作り方のノウハウは、全く通用しない。異なったユーザーインターフェイスの設計や、ゲーム自身の作り込み方法が求められるようになっている。

そのため、講演としては、今の社会的な旬のセッションがないとしても、家庭用ゲーム機のノウハウを学びたいというニーズが多数存在したのではないかと言うのだ。

特にゲームデザインを扱う講演が、満席になる数は多かった。

CEDECといった技術を扱うカンファレンスは、どうしても参加者がプログラマ中心になる傾向がある。そのため、ゲームデザインを扱う講演の量そのものが、決して多くないのだが、そのセッションに人気が集中し、どのセッションも立ち見になるほどの人気を集めた。今のスマホゲームを開発する上で、参考になることを求める開発者は実際に多かったと考えられる。

ただ、私自身は違う見方を提供しておきたい。CEDECへの参加者数が増えたのは、そもそも、ゲーム業界全体の産業従事者の人口が増えたためではないかと思える。

ほんの5年あまりの間にスマホゲーム市場は、ゼロに近いところから年間5000億円への市場に成長した。家庭用ゲーム機のソフトウェア市場は年間3000億円から縮小し、今年も2500億円を切ると思われる。しかし、両方を合計すると、日本のゲーム市場の規模は大きくなっている。

日本のゲーム産業への従事者数について、正確な統計データは存在しないが、市場規模の拡大に伴い、増加していると推計するのが妥当だろう。新しく生まれた開発会社が、ほんの少しCEDECへと参加人数が増えたことで、数百〜千人単位の増加は起こったのだろうと考えている。

スマホゲームがバブルであるかどうか、という点を予測するのは難しく、この状況が継続するのかということも予測が難しい。ただ、肌感覚として、会場は熱気にあふれていたという点を述べておきたい。20代を中心に、若い世代の開発者が非常に増えたという印象もした。

少なくとも、CEDECを見る限り、ゲーム業界には若い才能が流れ込んでいるようであり、それが、スマホゲームの成長をさらに押し上げる要因にもなっていくように感じられた。



□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin

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