2014年8月第1週号
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めるまがアゴラちゃんねる、第103号をお届けします。
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コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(114)
出口の見えない任天堂の苦戦
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(114)
出口の見えない任天堂の苦戦
任天堂の迷走状態が続いている。30日発表した2014年4〜6月期の連結決算は、売上高は746億9500万円で、営業利益は94億7000万円の赤字に転落した。この5年間の同時期で最も売上が低く、苦戦に歯止めがかかっていない。据置型ゲーム機のWii Uは、黒字転換に成功したようだが、ヒットしたタイトルが、「マリオカート8」282万本(日本59万本、海外224万本)だけに留まっている。
これゲームの販売本数としては、売れていない数字ではないが、08年に発売された「マリオカートWii」が最終的に1500万本に達したことを考えると、大成功した結果とは言いがたい。「マリオカート8」は年末まで、Wii Uの普及に合わせて売れていくタイトルになると思われるので、最終的な販売本数はまだまだ伸びるとは考えられるにしても、今年中に1000万本といった任天堂に常に求められるような大ヒットにまでつながるとは、現時点では考えにくい。
■見えない年内のヒットタイトル
また、Wii Uの年内の発売タイトルも見えない。今回の決算で主要タイトルとして上げられているのは7タイトルのみで、その中で確実にヒットが見込めるのは「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」のみに留まる。その他のタイトルは軒並み、15年発売に予定されているが、その中でも、大ヒットが予想できるタイトルが見えないという厳しさがある。
今年の年末は、Wii Uと3DSの両方に出る「スマッシュブラザーズ」のヒット頼みということにならざる得ないだろう。
この状況は、「ニンテンドー3DS」でも変わらない。前年同月期に比べ、販売台数が82万台と約4割減少している。米ゲーム調査サイトのVG Chartzによると、14年に入って、販売台数は前年度を越えた月はない。
日本では7月に発売になり150万本を超えるヒットになった「妖怪ウォッチ」などがけん引しているが、特に、海外では有力なゲームの発売が年末にかけても明確ではないため、世界全体ではタイトル不足は否めない。スマホに押される形で、11年に発売になった3DSも、ハードとしては商品寿命を迎えつつあると考えられる。
任天堂は新型ゲーム機を用意しているようだ。Wii U、3DSの後継機について、噂が出てくるようになってきた。ただし、どちらのハードも発売は来年以降で用意が進んでいるようで、今年は厳しい状態が続くと思われる。
また、Wii Uの後継機は、開発が始まったのが、Wii Uの発売よりも前であったために、コンセプトは、WiiやWii Uのように、任天堂の独自のハードウェア機能を何らかの形で付与する形で、スマホやタブレットなどと差別化を測るという戦略を検討していると考えられているようだ。
まだ、サードパーティには具体的な情報はまったく降りてきていない状態でもあり、仮に発表が行われたとしても、現状のソフトウェア不足の状態が改善される見込みは薄いと考えられる。
■真相の見えない流れる経営陣の対立の噂
「経営陣で混乱が起きているのではないか」という噂も出るようになってきた。岩田聡社長と情報開発本部・本部長の宮本茂氏が、スマホ展開をめぐり意見が対立しているという意見がある。スマホの展開に積極的になりたい岩田氏を宮本氏が反対をしているというものだ。
逆の噂もある。ハードとソフトを一体にして販売する戦略を採っている任天堂の優位性を崩したくないと岩田氏が、スマホに進出したいとしている意見に強靱に反対しているというものだ。岩田氏は、アイテム課金モデルに極めて否定的な意見を持っていることを、過去の決算説明会などで、表明している。そのため、任天堂が選択できる自由度が小さくなっているという意見だ。
どちらの噂も信憑性の点では、私自身はすべてを信用することはできないと感じている。私自身が把握している情報は、ハードとソフトを一体にする戦略の維持を支持しているのは、ハードの責任者の統合開発本部・本部長の竹田玄洋氏で、宮本茂氏も同調しているというものだ。宮本氏は、アイテム課金モデルに否定的であるのはどうも事実であるようだ。
どちらにしても、任天堂は大胆な改革が必要で、特に外部の投資家や、メディアからは、スマホに参入するべきだとする声が強まっているが、任天堂は、それらの声に積極的に耳を傾けるというつもりはないようだ。
一番あり得る選択肢は、ひたすら耐える、というものだろう。
任天堂には耐えているときの成功体験もある。「ゲームキューブ」時代には、ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション2」に押されて、ハードが売れなかった。ハードの出来はよかったもののゲームが売れない。宮本茂氏も、当時は、そのためにかなり悩んだといわれる。大ヒットが出ても世界で100数十万本に留まったのだ。
ただ、当時は「ポケットモンスター」を中心に、ゲームボーイの世界的なヒットが任天堂を救っている。そして、Wiiや3DSの時代を迎え、一気に市場を取り返す。
その成功体験は、任天堂の経営陣に固着しているのではないかと思われる。
ただ、ゲームキューブの時代に比べて、任天堂が苦しいのは、そうした「ポケモン」的な耐えるための材料が現在なく、また、190億円を投じて、1100人の開発人員が新たに働ける場所を作ったものの、その人件費は固定費として乗り続けるということだ。それだけ、利益を出すことが難しい状態になっているのだ。
年内、任天堂の業績が急激に改善する見込みは薄いように思える。経営陣を仮に刷新したとしても、効果が短期で出るのかも見えない。厳しい迷走状態にあることは、間違いないだろう。
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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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