2014年6月第4週号
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めるまがアゴラちゃんねる、第097号をお届けします。
配信が遅れまして大変申し訳ございません。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(108)
フィンランドゲーム産業報告:フィンランドから見える世界の資本の動き
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(108)
フィンランドゲーム産業報告:フィンランドから見える世界の資本の動き
6月8日から13日まで、北欧のフィンランドのヘルシンキにメディアツアーで参加した際の取材の話を続けたい。私自身は、世界的なフィンランドへの着目は、今後さらに高まっていくだろうと思っている。
■ソフトバンクのフィンランド企業の大型買収に至るまで
フィンランドの存在が、日本で大きく注目されるようになったのは、昨年10月に、ソフトバンクとガンホー・オンライン・エンターテイメントが、スーパーセルを買収したことによる。10年創業で、戦略ゲーム「クラッシュ・オブ・クラン(COC)」の全世界で大成功を納めた企業だ。
2社は、特に当時のガンホーの株高を上手く利用する形で、15億3000万ドルで株式の51%を取得した。買収にどの程度の現金が含まれているといったことは発表になっていないが、株式交換による買収だろうと思われる。
そして、昨年2月にベンチャーキャピタルが追加出資をした際には、企業評価額を7億7000万ドルと算出していたと報じられていたために、それが買収時の評価額は、その4倍にも跳ね上がっていたことが驚異と受け止められたのだ。
特に、「COC」は、アメリカ市場でトップゲームの地位を獲得することができており、「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」の海外進出を行いたいと考えていたガンホーと利害が一致したようだ8月にCOCの日本語版のサービスが開始した際に、交換広告を行ったのが、二社の付き合いの始まりだった。
交換広告とは、ゲームを起動した際に、バナーとして「パズドラ」の日本語版は「COC」のバナー広告を、「COC」のアメリカ版は「パズドラ」のバナー広告を表示させる仕組みだ。
日米のトップのゲームを使って、わずかに広告を行うだけでも、その効果は絶大なものがある。毎日遊んでいるユーザー数が、数百万人いるため、その数%が広告に反応するだけでも、通常のウェブサイトへのバナー広告といった宣伝よりもはるかに影響力が大きいためだ。
これにより、「COC」は日本でもブレイク。日本国内で、iPhoneのコンテンツ流通サービス「アップストア」で、常にトップ売り上げランキングで30位以内に位置付けるという安定収益を出せる立場を生み出すことに成功した。一方で「パズドラ」はアメリカ市場で、初めて100位以内に入ることに成功している。
■キーマンは孫正義の弟の孫泰蔵氏
この交換は、結果的には、スーパーセルの方が、メリットが大きかったとみられている。しかし、ソフトバンクがグループとして買収に踏みだすために、スーパーセルの将来性など詳しい情報をこの段階で獲得したと考えてもいいだろう。
今年2月に明らかにされたスーパーセルの13年1〜12月の売上は8億9200万ドル、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益)は、4億6400万ドル。12年1〜12月の売上は、1億0100万ドル、EBITDAは5100万ドルであったことと比較すると、13年は爆発的ともいえる急成長だ。
この利益が維持できるのであれあば、4年あまりで、買収の投資額を回収できる計算でもあるため、ソフトバンクにとっては買収の勝算はあったとも言うべきだろう。
ソフトバンクグループが、投資に対して敏捷であることには驚かされる。昨年10月には、スーパーセルのイルッカ・パーナネンCEOは、孫正義氏と一緒に移った写真をアップロードし買収を受けた報告を行っている。しかし、今回パーナネン氏へのインタビュー時には、正義の弟の孫泰蔵氏の名前が、何度か出た。泰蔵氏はガンホーの会長であり、重要な経営上の戦略を決めているとみられる。
ガンホーの森下一喜社長は、他企業への投資などの資金についての意思決定を持っていないというのは、非公式な場で認めている。また、スーパーセルをソフトバンクの子会社化を行った後も、ガンホーとの経営的な直接的な統合戦略を組み立てることはほとんど行われておらず、それぞれの企業の独立性は維持されているとも言われている。
私自身の解釈では、ソフトバンクは速度を優先し、M&Aを行う場合があるが、今回のケースはその典型的なもので、2011年に、すでにスーパーセルに1200万ドル出資していた、IT系の有力なベンチャーキャピタルのAccell Partnersの言い値に近い金額で買収を行ったのではないかとみている。そうでなければ、これほどの高い買収額が、突然決まるとは考えにくいためだ。
ベンチャーキャピタルの様々な企業の買収案件は、常に情報として大手企業には提案されている。ソフトバンクには大量の投資案件が持ち込まれていると思われる。アメリカの企業の内部で、条件の良いものが決まると言われ、それ以外の地域の企業にはチャンスがないとも言われるのだが、ソフトバンクは例外的な地域を築いているという印象がする。
ソフトバンクは、急激に伸びそうなIT企業に早めに投資し、キャピタルゲインを得て、資金を得て、自社が電話事業を展開する等の際に、不足するキャッシュフローを補うことを過去に何度も行ってきている実績があるからだ。
今回も同じように、企業としてパートナーシップで現場の情報を得つつ、持ち込まれていた情報から、条件面を詰めることよりも、意思決定の速さを優先したのだろう。
■日本で無名のスタートアップイベント、しかし日本人投資家の姿も
フィンランドでは、スタートアップの機運が高まっているという。ノキアが厳しい状況に追い込まれてから、大手企業に就職したいという指向性が、だんだんとこの5年あまりで変化して来ているという。
毎年11月に、フィンランド企業のスタートアップ(ゲーム以外も含まれる)のイベント「Slush」が行われる。企業だけでなく、投資家などが一同に介したカンファレンスイベントだ。昨年は7000人を越えたという。昨年は、孫泰蔵氏と、DeNAの創業者の南場智子氏の姿があったようだ。このイベントの知名度は日本ではゼロに近い。
フィンランド取材を通じて感じたのは、よりフィンランドのスマホゲームへの投資を行いたがっている海外の投資家は多いということだった。海外のニュースを日常的に見ていると、投資家の動きはなかなか見えない。
しかし、特にスマホゲームなどの今の国境に縛られないで動く世界では、通常のニュースでは容易には捉えきれない資本の動きが存在することをまざまざと感じさせる。
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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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