めるまがアゴラちゃんねる

2014年6月第3週号

2014/06/16 14:51 投稿

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めるまがアゴラちゃんねる、第096号をお届けします。
配信が遅れまして大変申し訳ございません。


コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(107)
フィンランドゲーム産業報告:世界のゲーム産業の姿を変えた「アングリーバード」
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(107)
フィンランドゲーム産業報告:世界のゲーム産業の姿を変えた「アングリーバード」

6月8日から13日まで、北欧フィンランド政府が主催した、日本のメディア向けツアーに参加してきた。首都ヘルシンキを訪れ、Games First Helsinki Conferenceや現地のゲーム会社を訪問するゲームを対象としたツアーだ。

近年、ゲーム産業のフィンランドへの注目度は高まっている。今週はその理由はなぜなのかをご紹介したい。


■ノキアの成功から急激な業績悪化に

フィンランドは、日本と同じぐらいの面積の国土である一方、北極圏に近いということもあり、農業などに適した地域が少ないため、人口密度は低い。人口は530万人という小国だ。ただ、冷戦時に、西側と東側の緩衝地帯として、ソ連への貿易を通じて、経済成長することに成功し、IMFのデータでは、08年に国民一人当たりGDPは36217ドルと、日本の37135ドル(データは12年)と大きく違わない。

資源を持たない国だが、携帯電話会社のノキアに代表されるハイテク産業の成長によって、経済成長を押し進めてきた。ノキアは、90年代に世界最大の携帯電話メーカーへと成長していた。ところが、世界で使われる携帯電話端末でトップのシェアを握っていたが、08年にアップルが「iPhone」を発売、グーグルのアンドロイド端末も登場後、スマホへの切り替えに完全に失敗。シェアは一気に奪われ、現在は世界シェアの5位以内にも入っていない。業績不振から、ノキアは昨年9月に、マイクロソフトのハードウェア部門として71億7000万ドルで売却されることを発表、今年4月に売却が完了している。

今後は、Windows Phoneの開発に注力する事業部として存続される。フィンランドでは国内最大のブランドが、業績悪化によってダメになっていくという過程は「ノキアショック」として、現在でさえ、まだフィンランド社会のなかでしっかりと総括されているわけではないようだった。「フィンランド人はあまりにショックな出来事が起きると、黙り込んでしまうという性格なんだよ」という人もあった。


■スマートフォン市場の自由さで登場したロビオ

そうした状況の中で、突然、新しい勢力として登場してきたのが、スマートフォン向けのゲームだった。特に、09年12月にiPhone向けに登場したユーモラスな赤い鳥を操作して、飛ばし、緑色の豚をやっつけるというパズルゲームとして登場したロビオ・エンターテインメントのアクションパズルゲーム「アングリーバード」が突然ヒットしたことによって、注目度を集めることになった。

アングリーバードは、1ドルで販売された格安のゲームでありながらユーモラスなゲームが人気を得て、欧州で広がった後に、米国で高い人気を得る。日本でもインターフェイスなどが翻訳されていない状態でも、ゲームのシンプルさから急激に知られるようになった。

次々にシリーズを展開し、また、アンドロイド版では、広告を入れる代わりに無料で提供されるバージョンも発表されたことから人気に拍車がかかり、14年1月までには全世界でシリーズ累計20億ダウンロードという結果を生み出し、スマホゲームで、世界で最もダウンロードされたゲームシリーズになるほどの成功を収めている。

ロビオの成長は決して平坦なものではない。03年に創業した同社は、ノキアの携帯電話向けにゲームを開発する企業としてスタートしたが、ノキア向け携帯でゲームを出すためには、バラバラの性能であったノキアの携帯に合わせてゲームを開発しなければならず、また、どのジャンルのゲームを作ることを認めるのかといったこともノキアが決めていた。

現在のAppStoreやGoogle Playのような、全世界に誰でも容易に配信できるコンテンツ流通システムは存在しておらず、経営的には厳しい状態が続いていた。

起業から51番目のタイトルが、脱ノキアによってビジネスチャンスを探った「アングリーバード」だった。その成功は、的確なタイミングにゲームをリリースすることができた運の部分も大きかったと思われる。


■1つのゲームのヒットから総合エンターテインメント企業に

しかし、ロビオはアングリーバードを一発屋で終わらせないために、総合的なエンターテインメント企業を目指し始める。11年には、今後は「ディズニーになる」と創業者が記者会見で話したりすることで、失笑を買っていたが、圧倒的なダウンロード数から来るブランド構築力は強力なものだった。

各国の企業へのライセンス形式によるマーチャンダイジング展開を積極的に開始。12年の売上は、1億5200万ユーロ(約2100億円)、純利益は5550万ユーロ(約77億円)だったが、そのうちの半分は、キャラクターのぬいぐるみ、トレーナー、炭酸飲料などのマーチャンダイジングによる売り上げが占めている。

ヘルシンキ市内から車で20分ほどのエスポー市のハイテク企業が集積している地区にある本社が入ったビルの1階にはアンテナショップが存在し、釣り竿など、とにかく大量のアングリーバードグッズが所狭しに並んでいる。

社員数も増加し、09年頃には50名以下の企業だったのが、昨年は400人。さらに、現在では850人に達すると倍増している。アングリーバードとスターウォーズがタイアップした「アングリーバードスターウォーズ」シリーズの成功、さらにキャラクターを使ったレースゲーム「アングリーバードGo」の展開、他社ゲームのパブリッシングなど総合的なゲーム会社へと成長しようと戦略を広げている。

また、100人規模の欧州では最大規模のアニメーションスタジオを持ち、アメリカ向けにアングリーバードのテレビシリーズも展開を開始しており、またゲーム内でも視聴できる環境を整えている。来年以降に、映画公開も目指している。

先週リリースされたばかりの完全新作のRPG「アングリーバードエピック」は、リリース後、アメリカのAppStoreのダウンロードランキングで「トップ無料」カテゴリーで2位に付けており(1位はFIFAのオフィシャルアプリ、16日現在)、そのブランド力の強さをあらためて証明している。

ロビオの成功には、フィンランドならではの複合的な要因がある。

第一に、スマホゲームでの成功の前史として、ノキアで携帯ゲームの開発に慣れた人材が成長していたために、優れたゲームを作ることができたこと。

第二に、フィンランドは小国であるため海外に販売することが前提となっており、英語教育が優れているために、国際展開の必要性に迫られた場合に対応できる人材がいたために速い展開に成功できたこと。

第三に、規模化が必要な現在に、優秀な人材をEU圏全体から得ることができるようになっていること。実際に、現在の社員数は4割を外国人が占めている。

ロビオは、今年上場するものと見られている。そこで得た資金を使いさらに、企業の成長を押し進めようと考えているようだ。果たして成長ペースを落とすことなく、フィンランドの企業が、実際にキャラクターライセンスモデルで持続的に成功できるディズニーにまでなれるのか、ほんの数年間で変化してしまうスマホゲーム市場で成功した企業の代表例の姿を、ロビオからは感じ取れる。


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin

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