めるまがアゴラちゃんねる、第085号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(97)
アメリカからのゲーム業界最前線報告(3)続くインディゲームの隆盛
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(97)
アメリカからのゲーム業界最前線報告(3)続くインディゲームの隆盛

3月にサンフランシスコで開催されたGame Developers Conference(ゲーム開発者会議)では、インディペンデントゲームの躍進はとどまらないというのも、今年も再び感じた印象だった。SCEの「プロジェクトモーフィアス」やOculus VRの「Oculus Rift」の話題に隠れてしまったので、「今年はあまり盛り上がっていなかったのでは? という質問を受けることがあった。

今年のGDCは争点が多かったので、見えにくかっただけで、現実にはインディゲームの成長はさらに大きな勢力となってきていると言ってよい。

特に、今年のGDCではインディの資金調達の選択肢が広がってきていることで、新しい成長が感じられ始めた。インディゲームの成長は、大きく3つ理由がある。

(1)インディゲームは、開発者が1人から多くても10人ぐらいまでと少ないスタッフで、十分に質の高いゲームを開発できるようになるほど、ゲーム会初のためのハードウェア環境に、ソフトウェア環境が揃った。

(2)開発したゲームを、ネット上で販売するコンテンツ流通サービスが登場してきたことも大きい。スマホではiPhoneのApp Store、GoogleのGoogle Play、家庭用ではXbox Live、プレイステーションネットワーク(PSN)、PC向けではValveのSteamといったものだ。「Minecraft」のスウェーデンのMojangのように自分のウェブサイトで直接販売していることも少なくない。

(3)PayPalなどの安定的な決済システムが整備されたことで、世界中にどこにいても、デジタルデータの取引であっても、安全に取引をできるようになった。

■日本でも注目を集め始めたクラウドファンディング
これらの動きを、資金面から後押しするように登場してきたのが、Kickstarterに代表されるクラウドファンディングの仕組みだ。

ゲームを製品として購入する場合には、家庭用ゲームであれば50〜60ドルが基本であり、それ以上の支払いを行う必要がない。実際には、ユーザーの中には、より多額の資金を負担できる可能性を持つユーザーが含まれているが、一律の価格体系しかないという弱点を抱えている。

クラウドファンディングでは、ユーザーが好きな金額を支払うことを認めているために、多額の費用が集めることができる可能性がある上に、実際のゲームが出来上がる前に、資金調達をすることができるため、特にインディペンデントゲームの開発者にとってはメリットが大きい。

日本人としては、昨年9月に「ロックマン」シリーズの開発を行ってきた元カプコンの稲船敬二氏が、新しいアクションゲームの「マイティナンバーナイン」の資金募集を開始。90万ドルの目標額に対して、67000人から384万ドルの出資を受けることに成功しており、大きな話題となった。

単に資金調達をするだけでなく、広告宣伝としても十分以上に機能している。今年は、さらに日本のゲーム開発者が、Kickstarterに挑戦するべく用意を始めているようだ。

 ■プロジェクトの成功率は低いが、累積金額は高い 
ただし、クラウドファンディングで資金を集めることは決して容易なわけではない。過去にKicksterterで資金調達を行うために開始されたプロジェクトは合計で55000。映画やアート、ファッションや、社会活動など、多様な分野を扱っているが、そのうちゲームは8600で、その内、ビデオゲームは4000だ。

一方で、ビデオゲームのプロジェクトの中で、設定された募集金額に達することに成功できたプロジェクトは900にすぎない。

Kickstarterの場合、目標とした設定金額に達しない場合は、プロジェクトが成立しなかったことになり、お金は支払われない。成功率は22%で、決して容易に成功できるものではないのだ。

この成功率は他の分野に比べると少ないという。ただ、ビデオゲーム分野だけで、過去に集めることができた金額の累積金額は120万ドルに達しており、この金額は逆に他のプロジェクトと比較して、突出して高いという。
 
ちなみに、残りの3100のゲームは何かというと、多くがボードゲームやカードゲームだ。日本ではボードゲームを遊ぶ習慣がなくなっているが、欧米圏では、まだまだ人気のある分野だ。Kickstarterの成長は、ボードゲームコミュニティとの結びつきが深く、新作ゲームや、絶版になってしまった古いゲームの復刻などが行われている。ビデオゲームなどに比べて、比較的安価に製作を行うことができるため、プロジェクトの成功率も高い。「2013年はボードゲームの年」とKickstaterの関係者は述べている。

昨年、Kickstarterはユーロやポンドにも決済が対応し、欧州圏でも利用できるようになってきている。しかし、実情は、アメリカのサービスに留まっている。「マイティナンバーナイン」の成功は、日本でも大きな話題となったが、「実際にお金を支払ったのは、ほとんどがアメリカからのもの」(Kickstarter関係者)で、日本からの投資者はごく少数だと言う。

■インディにとってのクラウドファンディングの限界
プロジェクトの設定された資金額に達しなくても、受けた投資資金を得られるIndieGoGoなど、別のクラウドファンディングサービスも存在しており、サービス間の競争も激しくなってきている。それでも、知名度の低い企業にとっては、簡単に資金調達をすることができないということは想像が付くだろう。

Kickstarterで成功するためには、ゲーム開発が、ある程度進み完成が見えてくる段階まで進んだところで、資金募集を開始すると成功すると言われているが、そこまでたどり着く間の資金調達が難しい。

Kickstarterの中では、ビデオゲームは花形の投資分野といえるが、高い金額の成功例は稲船氏のようなすでに高い知名度がある人が関わるプロジェクトに集中していると考えられる。インディにとっては、すでにKickstarterは使いやすいプラットフォームと言えなくなっているのが実情だ。

だからこそ、新しい動きが、今年はより具体的な形で登場してきていた。特に象徴的なのが、プリオーダー販売だ。これはゲームが完成する以前から、ユーザーにゲームを売るという戦略だ。これはゲームというコンテンツだからこそできる面があるように思える。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin