めるまがアゴラちゃんねる、第086号をお届けします。
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コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(97)
アメリカからのゲーム業界最前線報告(3)続くインディゲームの隆盛
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(98)
ゲーム産業のあり方を変えたゲーム開発の基幹技術「Unity


3月7日〜8日、都内でUnity Technology Japan主催による「Unite Japan 2014」が開催された。ゲーム開発用ツールとして10%近いシェアを持つゲームの統合オーサリング環境で、基幹技術の「ゲームエンジン」のUnityのための専門カンファレンスだ。参加者は1200名を超え、その勢いを物語っていた。


■基幹開発ツールを極端に低価格化

Unityは、今では非常に強力な市場的な立場を築き上げたゲームエンジンとして知られている。独占的な地位を作りつつあると言ってもいい。Unityが革命的だったのは、ゲームエンジンを利用するためには、数千万円かかることが当たり前だったのを、無料から数十万円へと落とすことに成功したのだ。

開発ツールとして、一定の機能に制限があるが、提供されている無料版を利用しても、PCやiPhone(iOS)やAndroid向けのゲームを開発することができる。有償版のツールを購入したとしても、1ライセンス約15万円程度で、格安といってよい値段だ。多くの大手ゲーム会社にとっては、この費用は全体の開発費として、人件費に比べて無視できる金額だ。

この価格によって、急激に人気を得たことで、世界全体への急激な普及が進んだ。特に、インディペンデントゲーム(独立系)開発者では、Unityの環境は、基本ともいっていい存在になっている。

ゲーム教育の現場でも、急激に普及が進んでいる。正確なシェアを把握することは難しいが、iOS向けのゲームのうち50%のシェアを持っている時期もあった。


■iPhoneの登場がベンチャー企業の成長を支えた

Unityは、04年にデンマークのコペンハーゲンで、3人で創業(現在はサンフランシスコが拠点。コペンハーゲンは現在も開発拠点の1つ)。元々は、ゲーム開発をするためにスタートした企業だが、途中でゲームの開発環境を整備する方向に力を注ぐようになり、ゲームよりも、ゲームエンジンの開発に注力するようになった。

05年に、Mac OS X向けのゲームエンジンとして、Unityをリリース。しかし、当時は、パソコンとしては、5〜7%程度のシェアしか持たない、Mac向けにゲーム開発を行う企業はほとんど存在しておらず、ゲームエンジンとしての利用者はほとんど皆無に近かった。その後、任天堂の「Wii」に対応し、利用者を増やすために無料に近い条件で提供をしていた。

しかし、それでも利用者は増えず、ベンチャー企業としての限界に、絶えず直面していた。

大きく状況が変わったのは、08年のiPhone 3GとAppStoreの登場だ。Mac OS Xをベースにしたゲームエンジンは存在しておらず、特に3Dグラフィックスを処理できるものは存在しなかった。そこで急激に広がったのが、Mac向けという特殊な環境で開発が行われ、無料に近い価格で公開されていたUnityだ。Unityは急激にシェアを広げ、現在のような強力な立場へと急成長をしていく。

ライバルである家庭用ゲーム機向けゲームエンジン「Unreal Engine」や他のゲームエンジンは、プレイステーション3やXbox360といったハイエンドグラフィックスを表現することに焦点を置いており、また、数十億円の予算規模のゲームに向けて企業に数千万円以上のライセンス販売されることが普通だった。

そのため、ゲームエンジンをめぐる市場を有利にする条件が変わってしまい苦しい立場に置かれることとなった。ハイエンドのゲーム機向けに開発を行っていたために、相対的に性能が低いスマートフォンに合わせてゲームエンジンの性能を引き下げなければならなかった。

しかし、コンピュータ性能やメモリなどを潤沢に使う環境の制限を落とすことは容易ではない。ローエンド製品が、ハイエンド製品を苦境に追いやる典型的な「イノベーションのジレンマ」にEpic Gamesは直面した。


■Unityを大きく発展させることになったAsset Store

Unityは、本格的な家庭用ゲームや、2Dのグラフィックスを開発することは難しいと、この数年は一般に言われてきた。ところが見事な解決策を提示することで、この問題を乗り越えつつある。

Unity Asset Storeだ。

これはユーザーが開発したプログラムや3Dグラフィックスのデータ「Asset」を販売するための仕組みだ。ゲーム開発者向け専用のAppStoreだとイメージをしてもらうとわかりやすい。

例えば、Unityで、2D向けゲームを開発する上で使いにくい機能を、あるプログラマーが開発し、30~50ドル程度で販売するということが行われている。

また、宇宙船、椅子、人間などのグラフィックスデータも、様々な価格設定で販売されている。

こうした個別に開発されたデータは、これまで開発するユーザーもお金に換える仕組みを持っていなかったが、Asset Storeの市場を使うことで、換金する仕組みを提供できている。Unityの持つ弱みをユーザーが関わることで、Unityに不足している機能を補填する仕組みが成り立っているのだ。

これらの仕組みはイノベーションを加速化しており、少額の資本しか持たないインディ開発者にとっては、本格的なゲームを作る上で、使いやすい環境として広がっている。

過去、バンダイナムコゲームズやスクウェア・エニックスで、Unreal Engineが採用されたケースはあったものの、それらのプロジェクトは失敗に終わっており、製品として大きく成功しているケースは限定的だ。

Unreal Engineは、開発しているEpic Gamesが自社のゲームを開発するために、作った開発環境を一般に販売しているため、非常に癖がある。一人称シューティング(FPS)を開発することは比較的行いやすいが、日本で人気の高いRPGなどを開発する場合には、使いやすいとは言えない。また、ゲームエンジンとして数十人規模のゲームとしては大きな開発チームで使用することが前提となっているため、小規模開発には向いていない。


■低価格化戦略を採らざる得ないライバル

ただ、Epic Gamesも危機感を募らせている。3月には、ライセンスの価格を改定し、1ライセンス月額18ドルに、ゲームの販売金額の5%のライセンス料にするという大幅な値下げを発表した。インディ開発者向けの開発は、1ライセンス当たりの収益が低いため、どうしても薄利多売にならざる得ない。価格競争に巻き込まれれば、これまでの収益性を維持できない可能性が高い。

しかし、当初はインディ開発者しか利用していなかったUnityは、だんだんと上位市場でのシェアも伸び始めてきている。これまでゲームエンジンは、特に家庭用ゲーム機会社では自社で開発するのが当たり前だった。

ところが、マートフォン向けのソーシャルゲームで登場してきた新興企業にとっては、自社開発でゲームエンジンを持つメリットはそれほど大きくない。導入価格も安く、標準化されている環境を、最初から導入した方が有利だと考えられるようになったのだ。この数年、何が企業の競争力の源泉と考えるのかという、ゲーム開発の常識は大きく変わった。

例えば、日本で、大きく成功している例は「クイズRPG 黒猫のウィズ」(コロプラ)がある。それ以外の企業への普及も広がっており、スマートフォン向けのゲーム開発ではUnityが一般的になっている。

Unityは、世界的に見ても、独占的な地位を築くのに成功しており、その勢いは止まらない。

ただ、一方で、一社にこうした技術が集中することは、リスクでもある。創業者でありCEOのデビット・ヘルガソン氏は筆者のインタビューに、現在は、同社はどこかに買収を受けるといったことは、「ありえない」、と答えた。

しかし、将来的な戦略転換はあり得るだろう。同社には、セコイヤキャピタルなどベンチャーキャピタルの資本が複数入っている。彼らはどこかにイクジットを求めるだろう。

3月に3DヘッドマウントディスプレイのOculus VRが、Facebookに20億ドルで買収されたのは、誰もを驚かせたが、すでに具体的な収益と顧客とシェアを持つ、Unityに仮に時価総額が付くとしたら、同等か、もしくはそれ以上の時価総額が付いても全く不思議ではない。

「Evilになるかもしれないよ」と、ヘルガソン氏は茶目っ気を持ちながら筆者にも語ったが、それが現実にならなければいいが、という気持ちを幾ばくかは感じている。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin