めるまがアゴラちゃんねる

2014年3月第1週号

2014/03/02 11:00 投稿

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めるまがアゴラちゃんねる、第079号をお届けします。

早いもので今年も1/6が終わりました。陽が長くなって、少しすると春分です。欧米先行だったソニーのPS4も2月22日に発売されました。もう入手された方もいるかもしれません。一方でソニーが創業地、品川の旧本社ビルを売却する、というニュースがありました。PS4の売れ行きは好調のようですが、いったいどうなってるんでしょう。今週号の新清士氏の連載にそのヒントが書かれているかもしれません。



コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(91)
PS3世代でPCゲームの開発能力の蓄積が生み出した日本と欧米との差
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(91)
PS3世代でPCゲームの開発能力の蓄積が生み出した日本と欧米との差

2月22日、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)から「プレイステーション4(PS4)」が、日本でも発売になった。昨年11月にすでに発売された欧米圏は2月8日には、販売台数は530万台を超え、非常に順調な滑り出しとなった。私自身も早速、PS4を購入して実際に触ってみたが、ハードの完成度が予想以上に良いと印象を受けた。

何度か説明しているが、PS4が既存のパソコンに近いハードウェア構成を取っていることが大きい。インテル系チップを製造するチップメーカーのAMDの製品のCPUとグラフィックを専門に処理するGPUと、両方の処理を可能にするGPGPUを搭載しており、感覚的には8万円程度のPCに相当するハードとみられている。

PS3と比較すると、PS4は4倍以上の性能を持っている。すでにパソコンのハードウェア構成は、それ以外の構成を選択することができなくなっている。

■SCEの独自の半導体路線の蹉跌
94年のPS1、00年のPS2、06年のPS3と独自のハードウェア構成でビジネスを展開してきたが、特に、PS3は大きな失敗ハードとなった。PS3はソニー、SCE、IBM、東芝の4社が共同開発を行ったCellチップを搭載しているのが、最大の売りだった。これはインテル系のチップとは全く違ったハードウェア構成だった。この半導体製造技術も、またソニーらしさを築いていた一因だった。

02年3月の米サンフランシスコで開催された「Game Developers Conference
で構想が発表された。PS1と比較して1000倍もの性能を狙っていた。Cellチップ構想には、大胆な戦略も組み込まれており、PS3だけではなく、テレビや電子レンジなど、様々な家電製品にCellチップが組み込まれ、それがインターネットで接続することで、お互いに計算力を補い合うというものだ。

個々のCellチップは作業を行っていない待ち時間の間には、他の所で計算しきれなかったデータを受け取り、計算を手伝う。それにより、さらにネットワーク全体を通じて、コンピュータ性能を引き上げることを目指した。製造のための半導体の工場設備には900億円も投入した。

ソニーとしてインテル系のCPUによって確立されていたディファクトスタンダードをひっくり返そうという大胆な試みだった。現在で言えば、個々のクライアントをネットワークで接続したクラウドコンピューティングということになる。ただ、発表当時から、計算を個々のハードに分散することが可能なのかということに、疑問が持たれた。プログラムが難解になることは間違いないと考えられたためだ。

また、Cellチップを搭載している家電は常に電源をオンにした状態になるのか、という疑問もついて回った。それに対しては、SCE自身も回答を出すことができず、06年のPS3の販売にまで至ってしまう。

■Xbox360世代のPCの技術で差が出る
Cellチップを採用したPS3は、非常にプログラミングが難解で、また、量産効果を起こすことができなかったため、欧米では600ドルで販売したことで、いきなりハードとして厳しい立場に置かれることになった。対抗馬となるXbox360は、PCに近いハードウェア構成であったために、PS3よりも開発が行いやすかった。

また、同じくPCに近いハードウェア構成を取りながら、1世代前のものを搭載し、価格を抑えて勝負に来たWiiには大きく負けることになる。PS3のあまりに難解なプログラムから、Xbox360向けにしか出すことができなかったゲームも多数登場した。例えば、日本では、07年の空戦ゲームの「エースコンバット6 解放への戦火」(バンダイナムコゲームス)は、結局、PS3版は発売されることはなかった。

PS3のゲーム開発環境が整うまでには、10年前後の時期までかかっている。PS3世代のゲームは、Xbox360を基準に開発されるのが一般的だった。PCの環境で開発を行い、それをXbox360へと移植し、また、より難解なPS3にも移植する。各ゲーム会社は、マルチプラットフォーム戦略という両方のゲーム機に、自社ゲームをリリースすることが当たり前になったが、常にゲームの開発で足を引っ張る存在だったのは、PS3だった。

PS3世代では、日本のゲーム開発力は、完全に北米に追い抜かれる時期でもある。米エレクトロニックアーツ、米アクティビジョンブリザード、仏UBIなどの大手は、Xbox向けの開発ノウハウを蓄積していた。それらの北米企業の多くは、元々はPC向けのゲーム会社だった。PCのゲーム市場は、90年代は家庭用ゲーム機より小さかったが欧米企業の主戦場だった。それらの企業は、97年頃のPS1の後期から家庭用ゲーム機に参入し、急激に売上を伸ばした。

それがPCのハードウェア構成に近い01年のXboxの登場によって、そのノウハウが活き始める。Xboxは日本では50万台しか売れていない失敗したハードだが、ワールドワイドでは06年には2400万台にまで達しており、特にアメリカを中心に売れたハードだった。これはPS2が世界で1億5000万台売れたことに比べると爆発的にヒットした台数ではなかったが、PCを使って蓄積された技術は、Xbox360世代には、欧米と日本企業の間に、大きな技術的な差を生むことになる。

■PS4はPC向けにゲームを作ってきた企業が有利
PS4では、ハードについては独自性を切り捨てた。すでにソニーが半導体技術で、ソニーらしさを作ることは不可能な時代になったことは明白だったからだ。

その代わりに、ゲーム開発を行う環境は劇的に簡易になった。PC上(Windows上)で開発したゲームを簡単に移植することができるからだ。SCEでゲーム開発を行っている内部関係者によると、「マイクロソフトが定義するグラフィックス映像のDirectX11世代ものを、そのまま使えることは大きい」と言う。この効果は、PS3やXbox360に、Windows向けにもゲームをリリースする企業にとっては恩恵が大きい。

代表格は、エレクトロニックアーツのシューティングゲーム「バトルフィールド4」で、元々がハイエンドPC向けに作られていたゲームだった。PS4ではハイエンドPC向けの環境をそのまま移植すればよく、PS3版と比較して容易にメリットをユーザーは受けることができている。画質の向上や、ネットワーク対戦がPS3版では24人だったのが、64人に大幅に増加させることができるなどだ。

しばらく、PS4はPS3、Xbox360向けのゲームが、PS4にリメイクされる形での移植が続くと思われる。欧米圏でPS4への高い期待があるのは、PCのハードウェア構成であるために、ゲームタイトルが揃うまでの時間が、PS3世代に比べて短くなり多数のゲームが登場するという期待もあるのだろう。

ただ、PCのゲーム開発の経験の少ない、日本企業にとっては決して有利になる材料ではない。多くの企業の反応が、欧米圏よりも鈍い理由でもあると考えられる。

一方で、期待できる部分もある。これまでPC向けにオンラインRPGを展開していたサイバーステップは「鬼斬」というゲームをPS4に発売日と同時に投入してきた。無料のアイテム課金方式だ。こうしたPC系で開発を主体としてきたゲーム会社の参入が、日本では相次ぐことが予想される。これらのゲームがどの程度の人気を得られるのかにより、日本の状況が変わってくる可能性がある。



□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin

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