めるまがアゴラちゃんねる、第078号をお届けします。

ソチ五輪もそろそろクライマックスです。日本選手勢は海外での五輪メダルの新記録だそうです。頑張ってくれました。次回の冬季五輪は韓国。お隣なので盛り上がりそうです。今週号の新清士氏の連載は、ようやく日本でも発売されたPS4について。据え置き型ゲーム機の巻き返しが始まるんでしょうか。


コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(90)
「プレイステーション4」の世界的な優位性が明白に
新清士(ゲームジャーナリスト)


アゴラは一般からも広く投稿を募集しています。多くの一般投稿者が、毎日のように原稿を送ってきています。掲載される原稿も多くなってきました。当サイト掲載後なら、ご自身のブログなどとの二重投稿もかまいません。投稿希望の方は、テキストファイルを添付し、システム管理者まで電子メールでお送りください。ユニークで鋭い視点の原稿をお待ちしています http://bit.ly/za3N4I

アカシックライブラリー(旧アゴラブックス)は、あなたの原稿を電子書籍にして販売します。同時にペーパーバックとしてAmazon.comサイト上で紙の本も販売可能。自分の原稿がアマゾンでISBN付きの本になる! http://bit.ly/yaR5PK 自分の原稿を本にしてみませんか?



特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(90)
「プレイステーション4」の世界的な優位性が明白に

今週末の2月22日土曜日に、日本でもソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション4」が発売になる。1月に入っても、調査会社NPDの発表では、PS4の販売台数は28万台で、マイクロソフトの「Xbox One」の145000台を大きく話上回っている。12月末までの販売台数で合計すると、PS4は448万台、Xbox Oneは3345000台と着実にその差は広がりつつある。

このペースで販売が続くと仮定すると、欧米圏だけでSCEが、東京ゲームショウ時に明らかにした、今年度中に目標としていた500万台に到達することはほぼ確実になったと考えていいだろう。もちろん、この数字に日本での販売台数の数十万台が、さらに追加されることになるため、上振れする可能性も高い。また、PS4は任天堂の「Wii U」の世界の販売台数を抜いたようだ。

■PS4はソニーの業績を長期に支える可能性が高まってきた
別のシンクタンクによると、PS4は14年中に、1200万台に達するという予測も発表されている。今後、5年あまりの新しいゲーム機世代では、PS4が勝つ可能性が極めて高くなってきた。PS4は、一部のXbox360のユーザーの乗り換えユーザーの獲得にも成功しつつあるようで、これが販売台数を押し上げる要因になっている。

以前にも触れたが、月額支払い方式の、PS4の場合は「PS Plus」を、Xbox Oneの場合は「Xbox Live ゴールドメンバーシップ」に加入しなければ、オンライン対戦を楽しむことができない。

ユーザー数を多く抱えたハードは、当然、様々なゲームが出るために優位性が高まるうえに、ネット上での対戦相手を見つけやすくなるということから、雪崩的に片方のハードに流れ込むことになる。苦戦するソニーにとって、PS3世代ではゲーム機部門はお荷物部門として、赤字を出し続けてきたが、一転、PS4で安定して黒字化する重要な部門になりそうだ。

■大手ゲーム会社は切り替え期とみて慎重な姿勢も
こうした好調さは、欧米の大手ゲーム会社の動きにも大きな反応が出つつある。7日に一人称シューティングゲーム(FPS)の「コール・オブ・デューティ」シリーズを持つアクティビジョン・ブリザードの4半期決算発表で、シニアバイスプレジデントのKristin Southey氏が、これほどの販売台数の好調さに「驚いている」と述べている。おしなべて好意的に取られている。

ただ、CEOのEric Hirshberg氏は、「2014年については、新世代のゲームの成長の需要を期待しているが、既存のPS3やXbox360のゲーム需要が下がることで相殺されると、再度、予期している。長期的には新しいゲーム機は産業の成長を引っ張り、我々の機会を広げると予期している」ともしている。

同社が毎年発売するシリーズ最新作で、昨年11月に発売された「コール・オブ・デューティ:ゴースト」は、PS3とXbox360の合計で販売本数が1500万本に達しており、昨年も好調な結果を残している。同社は、家庭用については売上の多くをこのシリーズに依存しているため。この販売結果が、今年は落ち込むだろうという予測をしていると考えてよい。

仮にPS4が1200万台、Xbox Oneが800万台のヒットになっても、合計数は2000万台となるため、まだまだ数千万本の大ヒットが出るような環境が整っているとは言えないためだ。

家庭用ゲーム機の切り替え時期には、一度、ゲームのソフトウェア販売の需要が低下することが、過去にも繰り返されている。PS1からPS2への切り替えが行われた00年、PS3やXbox360世代が登場した06年には、市場はユーザーの買い換えが進むまで、一時的に縮小している。

その次の年からは成長が再び始まり、大手の大型ゲームはその恩恵を受けることができる。07年に回復が進み、特に、アメリカ市場では10年に、117億ドルにまで広がり、「ハリウッド映画の映画館のセールを超えた」ということが、当時は大きく話題になった。

ただ、その後は、市場はフェイスブックといったSNSや、スマートフォンに押される形で市場規模は急激に縮小し、12年には、67億ドルと半分近くにまでになってしまった。ただし、SNSとスマホは77億ドルの結果で、PCゲームも合算すると、148億ドルという結果で、ゲーム市場としては必ずしも縮小していない。むしろ、ゲーム機以外でのゲームの売上が市場の成長を引っ張り、毎年急激に縮小する家庭用ゲームが売上を下げている。

■既存の延長線のゲームしか現状は期待を集めていないリスク
家庭用ゲームの売上は、大手の大型タイトルに売上が集中する傾向が高まっており、ミドルレンジと呼ばれる、開発費が30億円以上の大型ゲームよりも予算規模の小さいゲームのヒットが起きなくなった。それが中小の企業の市場機会を失わせ、縮小をさらに加速化させる要因となった。

同じようなシューティングゲームや、ロールプレイングゲームがあふれた。家庭用ゲーム機の市場の成熟を物語っている。これが新ハードが登場しても、市場の成長に大きな期待をすることができないという大きな理由として考えられてきた。

昨年は、アクションゲームの「グランド・セフト・オート5」という世界で、3000万本を売り上げた、メガヒットゲームが登場しているため、家庭用ゲームの販売結果は、13年は回復している可能性が高い。ただ、上位タイトルへの集中傾向は変わっていないと思われる。上位企業にとっては、この急激な市場の立ち上がりは、成長の追い風になると思われるが、08年のような回復までが全世界で起きるのかを現時点で読むことは難しい。

今発表されており、ユーザーの期待の高いゲームも、FPSといった既存のシューティングゲームの延長線上にあるゲームということだ。エレクトロニックアーツが、3月に発売するXbox One向けの独占タイトル「Titanfall 」へ高い期待をユーザーから集めているが、SFのシューティングゲームで、コアゲーマー以外の人気を獲得することは難しいと思われる。

同様に、3月にSCEがPS4開発しているアクションゲームも「inFAMOUS: Second Son」も期待が高いが、やはり過去の分野の延長線のゲームだ。今のところは、アーリーアダプター層のコアユーザーを取り込むことには成功しているが、まだ、長期的な成功が約束されたとまでは言えない。

長期的には上位の大手企業にとっては、再び収益を出せる重要な存在になるだろうが、幅広いゲームが登場し、10年のような成長が起きるとまで考えるには、まだ、時期尚早だろう。特に、欧米に比べて、家庭用ゲームの販売が伸び悩むであろう、日本企業にとっては好材料となると判断するには、今の時点では難しい。その分、全世界での販売に成功できるタイトルの開発が難しくなっている、日本のゲーム会社がPS4への積極的な投資は遅れる可能性が高いと思われる。



□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin