2014年2月第3週号
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めるまがアゴラちゃんねる、第077号をお届けします。
太平洋岸は二週続けての大雪でした。読者の皆さまの地方は大丈夫でしたでしょうか。まだまだ春は来ないようです。インフルエンザも流行っているので、どうかご自愛ください。今週の「週刊アゴラ」、新清士氏の好評連載はアップルについてです。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(90)
「ドラゴンクエストスーパーライト」の返金問題で見えたアップルの強さ
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(90)
「ドラゴンクエストスーパーライト」の返金問題で見えたアップルの強さ
スクウェア・エニックスがスマートフォン向けに配信を開始した「ドラゴンクエストスーパーライト」(開発はサイバーエージェントの子会社のCygames)で起きたガチャ問題に対して、2月6日に謝罪をしなければならないところにまで追い込まれた。
このゲームは、1月23日に配信が開始されており、11日間でダウンロード数が200万人を超え、スマホゲームとしては、最短のユーザー獲得ペースとなったゲームでもある。しかし、「ガチャ騒動」によって、サービスの質に、ユーザーから大きなクレームの活動の声が起きたことで、対応を迫られることになった。
■ゲームシステム自体はスマホゲームでは一般的なもの
このゲームは冒険を通じて、「ドラゴンクエスト」に登場するモンスターを集め、育てながら、ゲームを進めていくというタイプのゲームだ。ゲームシステムの収益を得る方法は、すでにリリースされているスマホソーシャルと変わらない。ゲームはゲーム内で販売されている「ポイント」を購入し、そのポイントを消費する形で進められる。
通常のソーシャルゲームと同じように、フリーミアムでゲーム開始時は無料だが、「ガチャシステム」を通じて、強力なモンスターを獲得でき、「ダンジョン」を冒険しながらゲームを進めていく。ダンジョンは、だんだんと難易度が上がっていくため、簡単にはクリアできない仕組みになっている。
ダンジョンをクリアできないで、自分たちのモンスターが全滅した場合には、お金を払えば、続けることができる「コンティニュー課金」という、「パズル&ドラゴンズ」が誕生して以来、一般化してきたゲームシステムを搭載している。
ただ、国民的な人気のあるドラクエということで、注目は大きかった。しかし、問題が発生した時には、その注目度が裏目に出てしまったと言える。このゲームの場合、「ガチャ」は「まほうの地図ふくびき」という名称で提供される。
そして、レベルの高いレアモンスターを確立できる確率があまりにも低すぎたために、一部のユーザーが「アップルに対して返金するようにクレームを出し、その請求に対してアップルが応じてしまった。そして、その返金が行われた事実を「2ちゃんねる」に公開したことで騒ぎが大きくなり、多くのユーザーのクレームが殺到し、謝罪にまで発展することになったのだ。
■アップルはゲーム会社に伝えることなく返金に応じている
混乱を引き起こした要因は、アップルの返金対応と、スクエニとの対応が、ちぐはぐになってしまったことにある。
アップルは一部のクレームを強く主張するユーザーに対しては返金を行う場合があると見られている。ただし、アップルはその情報をゲーム会社の側に伝えない。どの程度の数のユーザーに返金を行ったのか、また、その金額はいくらなのかは、ゲーム会社側は掴むことができない。
国民生活センターにはアップルについてのクレームはほとんど来ないと見られている。返金を行うことで、問題が大きくなる前に、飲み込んでしまうのだ。この対応は、eShopを通じて一度ダウンロード販売で、購入したユーザーに対しては返金に応じない任天堂とは大きく違っている。
返金をすることによって、アップルの企業イメージを損なう方を嫌うのだ。ただし、これがドラクエのような多数の人数を抱えた場合、ユーザー間の対応でばらつきがでる。そのため、ユーザーの間で情報が共有されるようになってしまい、今回の様な大きなトラブルへと発展する可能性を引き起こしてしまった。
■ゲーム開始直後に多数のサービス利用者が生まれるトラブル
そして、ゲームのリリースから、すぐに、あまりにも大きな人数を抱えたことで、ユーザーたちは、スクエニ側が想定していたと思われるゲームを進める速度をはるかに超えるペースでゲームが消費されてしまったことも、問題となりやすかった別の原因でもあるだろう。それがユーザー間の不信感を生み出すことになった。オンラインゲームは大きな人数を抱えた場合には、同じようなことが起きるために、トラブルへと発展することが少なくない。
10年のMMORPG「ファイナルファンタジー14」では、ゲームそのもののクオリティに対してユーザータチが大きなクレームを付けたために、結局一度中止に追い込まれ、13年の「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」としてサービスを作り直す必要にまで追い込まれた。「ドラゴンクエスト10 目覚めし五つの種族 オンライン」でも、ユーザーが速いペースでゲームを進めすぎてしまい、すぐに用意していたコンテンツが消費され、「することがない」というクレームが生み出されることになった。
特に、サービス開始のシステムでは、ゲームバランスや用意しているコンテンツの量が足りないことが多い。それらのことが、不満の材料になりやすい。
今回のドラクエでも、同じことが別の形で、引き起こされていると考えてよい。この状況は12年にガラケー向けソーシャルゲームで起きた「コンプリートガチャ問題」を彷彿もさせる。
かなりのお金を使って「ガチャ」を回しても、ゲーム内で獲得できるキャラクターといったアイテムが極端に取得できないというユーザーの批判から、この問題が社会的に大きな問題とまでに発達するようになった。一部のユーザーが何万円も掛けて、ガチャでどれくらいでレアカードを獲得できるのかという、データの検証を行い、実際に獲得しにくい確率を導きだし、その結果を共有することで、現実に問題が認知された。
■ユーザーの検証と共有によって問題が明確化された
スマホソーシャルの場合には、ユーザーがゲーム内で使うことのできるお金は上限には制限がない。ドラクエと有名タイトルであるために、一部のユーザーはゲーム開始直後から、高額の多額のお金を使って「ガチャ」を回したユーザーは多数存在したと思われる。
それが、「レアアイテム」が極めて低い確率でしか手に入らないことが明らかにした原因となったと思われる。ユーザーがゲームを消費するコストが、スクエニ側が想定するよりもはるかに速いペースで行われ、また、アップルがスクエニに全く告知することなく返金に応じたことから、トラブルが広がった物と思われる。
スクエニは、当初、すべてのユーザーに対して、現金による払い戻しを検討していたようである。結果的に、ユーザーにはゲーム内の有料のポイントを返金するという形で決着をつけた。その中には、アップルより返金を受けながら、ポイントを獲得したユーザーも存在し、不公平な対応にもなったようだ。その対応の違いについても、虚実入り乱れながら、2ちゃんねるを通じた状況共有が続いている。
もちろん、サービス開始以来の収益の大半と、機会損失、さらにはブランドの毀損にまで発展したことになるため、スクエニにとっては大きな打撃となると言える。現在は、大きな利益を生む、ガチャ機能を停止している。それらが回復するには時間がかかるだろう。
元々の問題の発端は、返金に応じたアップルにある可能性が高く、問題発生後、現在では、スクエニ側もそれについては情報を得ていると考える事が適切だと思われる。ただ、アップルはこの問題について、一言も触れていない。ゲームのプラットフォームを提供しているアップルと、ゲーム会社の側の力関係が、はっきりとした事件であると考えられる。スクエニは、不明瞭なプラットフォームの対応に振り回された面がと言えるだろう。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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