2014年3月第2週号
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めるまがアゴラちゃんねる、第080号をお届けします。
さて、消費税増税前ですが、駆け込みで何か買われましたか。大雪の影響もあり、いわゆる「駆け込み需要」に盛り上がりが欠ける、という話も出ています。ソニーのPS4が好調のようですが、ゲーム業界のほうはどうでしょうか。
ところで、当メルマガで長期連載中の新清士氏が、3月27日(木曜日)に「次なるガンホーを探せ」というテーマで、単発セミナーを開催します。詳細は月曜か火曜にアゴラhttp://www.agora-web.jpにてお知らせします。読者の方もふるってご参加ください。ご応募お待ちしております。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(92)
PS4は4Kテレビの基準化を狙い、ビジネス用途も使える可能性を持つ
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(92)
PS4は4Kテレビの基準化を狙い、ビジネス用途も使える可能性を持つ
2月22日に、ソニー・コンピュータエンタテインメントが「プレイステーション4」を発売したが、私も購入後、約1週間、このハードを使っている。非常にコンセプトが練り込まれた、魅力的なハードウェアであること感じている。優れたCG表現能力はもちろん、ユーザーインターフェイス、反応速度、ストリーミング配信を可能にするほどの性能の高さ、コントローラーの良さ。黒一色に統一されたハードのデザインのシンプルさ。新型ゲーム機の完成形を、すでに垣間見させる。
■ロゴマークが示すソニーグループ内での重要な位置付け
気がついた事がある。PS4はソニーグループの中で、最も重要なハードウェアの一つに位置付けられているのではないか、という感触だ。過去のプレイステーションは、ゲームを専門に扱うSCEだけに閉じている傾向があり、ソニーグループ全体でのシナジー効果は高いとは言えなかった。
元々の04年に登場した「プレイステーション」は、ソニー本体で採用されなかったアイデアを、関連会社とはいえ、独立性の高かったソニー・ミュージックの資金を使って開発された。当時のソニー内の反逆児たちが、作りあげたハードだった。
ところが、PS4はそうではないと、ハード自身が物語る。PS4の漆黒のハードウェアは美しく、PS3と比べると洗練されている。そして、興味深いのは表面のロゴの位置だ。
フロント面の横置きでも、縦置きでも、最も目立つ位置に「SONY」のロゴがある。プレイステーションという文字は「PS4」として同じぐらいのサイズで、ロゴが入っているが、印象は控えめだ。さらに、興味深い点がある。「プレイステーション」を示す「P」の文字をあしらったロゴマークは、天板に当たるところにある。これは横置きでも、縦置きでも、最も奥に当たるため、実際に、リビングに置いたときには、ほぼ隠れてしまい、見ることはほとんどない。
もちろん、PS3は「P」のマークが強調され、ソニーグループからの独立性が強調されていた。携帯ゲーム機「PS VITA」にもソニーのロゴマークは入っているのだが、文字の大きさは小さく、PS4に比べると印象が薄い。ついでの様な印象だ。
PS4はソニーの製品であることが、これまでのPSシリーズの中で最も強調されている。
■4Kテレビの配信環境としてのPS4
このロゴマークの配置は非常に興味を抱かせる。家庭用ゲーム機のスペックは、少なくとも5年は保つことを想定して開発されている。新型が投入されるまでのPS3のハードウェアサイクルは7〜8年だった。それはPS4も同様だろう。
ソニーの平井一CEOは「One Sony」を提唱し、グループの統合化を強く強調している。PS4は、SCEのハードとしてのみではなく、ソニーグループとして中長期計画では位置付けられていると思われる。ソニーにとって、エレクトロニクス事業の特に不振なテレビ事業の復活のカギを握るのが、高い価格帯で販売可能な「4Kテレビであると見られている。
現在、PS4は公式サイトの告知では「静止画や動画の4K出力については検討中」としているが、今後のハードウェアのアップデートを通じて、実現すると考えるのが妥当だろう。
その際に有力な出力デバイスとして、PS4を位置付けてくると考えられる。これはPS3が安価なBlu-ray再生装置として売れた面があるのと同様だ。PSはCD-ROM、PS2はDVDと、その時代の新しい映像規格をけん引する役割になってきたこれから本格的な4Kテレビの普及期に入るため、PS4でも同じ役割を与えられていると思われる。
また、PS4は単にメディアの再生デバイスに留まらず、4Kでのストリーミング環境へと発展させることが想定されていると見ている。
1月7日に米ラスベガスで行われた家電展示会CESで、SCEは「PlayStation NOW」を発表した。SCEのサーバからの配信を通じてゲームをストリーミングで楽しむことができる技術だ。PS4、PS VITA、PS3、テレビ、また、タブレット、スマホと、理論的にはハードウェアを選ばないで、どのハードにも他のプラットフォームのゲームを配信可能にできる。
この技術はPS4とPS VITAの間の「リモートプレイ」と呼ぶストリーミング環境によって一部は実現されている。PS4のゲームをWi-Fiを利用して、環境が良ければ60フレームで配信することができるが、筆者も試してみたところ、あまりにも遅延なく、問題なく表示されるので驚いてしまった。
私自身は、PS4を自らの放送技術の核として位置付けてくるのではないかと考えはじめている。日本では4Kは放送技術とセットで考えられているが、北米では事情が違う。大型のテレビのヒットが続いている。大型テレビでは目立ってしまう、画素の荒さを補完的に美しく見せる4K技術への対応への潜在ニーズがある。
■PS4はビジネス用途にも潜在的に使える
さらに進んだ可能性があることを指摘しておきたい。PS4自身のビジネス用途での利用だ。2月6日に、ソニーはVAIO事業の売却を明らかにし、PC事業からの撤退を決めた。PCはすでにコモディティ化が進んでいるためにハードウェアでは差別化ができない。将来性のないVAIO事業の売却は合理的な選択だ。
一方で、PS4のハードは、このコモディティ化を利用して組み上げているハードだ。中身は大量生産を前提としたPCであり、それにより安価かつ高性能化が実現できている。Linuxをカスタム化した独自OSは、最初から完成度が高い。この開発の容易さは、ゲーム会社にとって作りやすい環境を目指したと、SCEは主張するが、SCE自身のOSや拡張技術の開発にも有利に働くはずだ。
年度内中には600万台を超えることが見えてきている。これほど、同じスペックのハードウェアを大量生産することは容易ではない。現在4万円であるハード価格を急激にシュリンクさせ、より低価格化できると予測できる。
キーボードもすでにBluetoothに対応しているため、1000円台のキーボードでも、ゲーム中のチャットに利用する事ができる。ならば、グーグルのGmailやグーグルドキュメントなどのサービスを利用する環境を整備することは、簡単に実現できる。ハードとして、SCEはPS4を、ゲーム機を超える存在に容易に位置付けることができるのだ。
ポイントは、ソニーグループがそれを選択するかどうかだ。ただ、ソニーはハードによる競争よりも、収益性を生み出すものは、ソフトウェアサービスにある重要性を認識していると考えてよいだろう。ソニーグループにとっては、どのようなビジネスモデルを設計するのかは課題だが、PS4が普及すればするほど、そのオプションは、さらに価値を増すだろう。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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