めるまがアゴラちゃんねる

2014年1月第3週号

2014/01/14 09:47 投稿

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めるまがアゴラちゃんねる、第073号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(82)
【特別篇】日本のゲーム会社を驚かせたPS4とXboxOneの成功
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(85)
【特別篇】日本のゲーム会社を驚かせたPS4とXboxOneの成功

■PS4とXbox0neの予想以上の成功
欧米圏で昨年11月に発売になった、「プレイステーション4(PS4)」が420万台、「XboxOne」が300万台と、合計すると720万台の販売に成功した。

この成功は、事前の予想を大きく裏切る好調な滑り出しとなった。ゲーム業界団体のCESAが10日都内で行った賀詞交換会の挨拶で、CESA会長であり、バンダイナムコゲームスの鵜之澤伸副社長は「年末に明るい話が多かった。PS4とXboxOne予想を超えて好調。据置型ゲームはもう厳しいのではないかと言われていたが、ところがそうでもなかった」と、率直にその驚きを述べていた。

PS4は400ドル、XboxOneは500ドルと決して安い価格ではない。もちろん、性能面で比較すると、PS4はPS3よりも約8倍程度性能が向上しているが、対応するゲームがそれほど多いとは言えないなか、これほどのヒットが、なぜ起きたのかというのは、はっきりとした要因がわからないというのが、現在の筆者の率直な感想だ。

CESA賀詞交換会の場で、マイクロソフトのXbox事業の責任者である泉水敬氏に要因を聞いてみたが、「Xbox360発売から8年あまりが経過しており、ユーザーの新型ハードへの期待値が高かったのではないか」と述べたが、やはり、具体的な決め手がなんであったのか、までは見えていなかったというのが率直な感想だったようだ。

この年末、欧米のメディアは、この2社の競争に大きく注目が集まり、様々な形で報道された。「PS4がXboxOneよりも売れている」といったニュースは衝撃的に報道された。ただ、この2社の競争は、ネガティブな要因よりも、相互作用で据置型ゲーム市場を盛り上げる要因になったと考えられる。アップル等の話題をさらうような目玉製品も、この年末に登場しなかったことも大きいと思われる。両企業のマーケティングが予想以上に成功したと言えるが、結果論でしかない部分がある。

■オンラインサービスの有料化がPS4の業績を改善する
ただ、販売面では、SCEが相当必死で優位に立てるように賭けてきたのは間違いない。今回の販売競争は、普及ペースが上位に立てるのかどうかは、これまでの競争以上に重要な争いになる。11月に調査会社米IHSが発表した調査データでは、PS4の製造コストは381ドルと推計している。これは販売価格から18ドルしか違っていないため、流通コスト、小売店のマージン等を考えると、ハード単体では逆ザヤ状態で、トータルに考えても赤字であることは間違いない。

しかし、SCEがその状態であっても、現在販売したPS4であっても、数年以内に十分に黒字化する可能性の方が大きい。「PlayStation Plus」の存在だ。PS3世代では、SCEの業績を好転させることができなかった要因の一つが、オンラインサービスの機能を無料としたことだ。

マイクロソフトのXbox360は、オンラインサービス機能「Xbox Live ゴールドメンバーシップ」に加入しなければ、ゲーム内でのオンライン対戦機能を遊ぶことができないという条件を付けて販売していた。プリペイドカードの購入時には年間費用を59ドルと設定している。

人気の高い一人称シューティングゲーム「コールオブデューティー」シリーズのようなゲームは、オンラインで他のプレイヤーと競い合うことが、重要な魅力の一つになっている他のゲームでも同じだ。そのため、Xbox360の所有者の8割以上は「ゴールドメンバーシップ」に加入していると考えられる。会員制制度と同じもので、ユーザーがゲームを遊んでいない期間であっても、安定的に収益を生みだすことができる。

Xbox360のハードウェアの製造コストは安定的に下がってきている。現在、ハードディスク250GBとのゲームが2本付属する「Xbox 360 250GB」の最小構成の4MBのメモリセットが200ドル、ハードディスク250MBの一般的な構成は250ドルで販売されている。

特に米国では、極端な戦略を採るならば、マイクロソフトは、Xbox360の無料配布を行ったとしても、ハードの製造コストが下がっていることもあり、3年で十分に回収できると言われている。もちろん、「ゴールドメンバーシップ」の収益が大きいためだ。

一方で、PS3では無料でオンライン対戦機能を有償化しなかったことは足かせになった。そのため、06年の販売後に、10年6月に「PlayStation Plus」というサービスを開始した。PS1等の過去のゲームの一部の無料ダウンロードを利用できたり、ゲームのディスカウントを受けられるなど、サービスの充実を図って、ユーザーを誘導することを積極的に推し進めていた。90日間で18ドル。年間購入した場合には50ドルという価格設定になっている。

しかし、オンライン対戦機能を無料で遊んでいるユーザーにとっては切り替えるインセンティブは低く、登録ユーザー数はなかなか増加していない。オンライン部分では収益を出すことが難しく、苦戦していた。

しかし、今回のPS4では、Xbox360と同様に「PlayStation Plus」に加入しなければ、オンライン対戦機能を遊べないという条件を付けている。事実上、PS4のユーザーに加入が必須になったと考えていいだろう。それにより、安定的な収入が見込まれるため、SCEはPS4を若干の逆ザヤ状態で販売を行ったとしても、1〜2年程度で、その差額を回収できると見込んでいると思われる。

そのため、逆ザヤ状態でも、発売時に速度を上げて販売することを優先したものと思われる。結果的に成功しており、PS4は価格もXboxOneよりも相対的に安いために、有利な争いを繰り広げる可能性が出てきた。

5〜6年程度に来るゲーム機の切り替え期には、主役の交代が起きる。その初期に失敗すると、その後の逆転は難しくなる。SCEはPS2以来の市場の優位性を作る可能性のあるポジションを獲得することに成功している。戦略的な賭けには勝ちつつあると言える。

■日本市場の立ち上がりには時間がかかると思われる
一方で、日本ではPS4は2月の発売が予定され、XboxOneはまだ具体的な発売日さえ発表も行われていない。日本のゲーム会社は、PS4とXboxOneに向けたゲーム開発には、本格的に取り組もうという動きは鈍い。日本のゲーム会社の多くは、収益性の高いスマホゲーム市場に舵を切っていることも大きい。

PS4の専用タイトルは、9月の段階でも、アクションゲーム「deep down」(カプコン)や、「ヴェルサス ファイナルファンタジー15」(スクウェア・エニックス)といったタイトルが発表されている。しかし、そうしたゲームは最短でも、発売は14年末になることが予想できるため、日本のユーザー向けのすぐにでも購入したいゲームはない。

また、どちらのゲームも、特にグラフィックス面で、より豪華な映像になることが予測できるため、ゲーム開発コストは、PS3と同じく、数十億円のコストがかかるリスクの高いゲーム開発となることも避けられない。

また、欧米圏では高コストで豪華な映像のゲームと競争することが、難しくなっているため、日本のゲームはワールドワイドに販売して成功することは容易ではない。そのため、日本企業が本格的に取り組むかどうかを検討するのは、今からだと思われる。その分、日本市場の立ち上がりは、欧米圏に比べると遅くなると考えた方が妥当だろう。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin

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