めるまがアゴラちゃんねる、第060号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(71)
【特別篇】セガが狙うスマホ向け新プラットフォーム「ノアパス」

新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(71)
【特別篇】セガが狙うスマホ向け新プラットフォーム「ノアパス」

特別篇として、今週も9月19日から22日まで行われた「東京ゲームショウ」関連の重要なトピックを紹介する。一気に、スマートフォンのソーシャルゲーム市場にシフトが進む中、登場した新プラットフォームだ。

■セガ押し進める広告交換システムノアパス
セガは東京ゲームショウに合わせてスマホのゲーム内の広告交換システム「ノアパス」の本格展開を仕掛けてきた。この展開は、既存のフィーチャーフォンで展開していたプラットフォームから、スマホプラットフォームへと急激に移行が進む中、中心的なプラットフォームを握ろうというセガの意図が見える。ノアパスは、参加している企業が、お互いが他社のゲームの広告を、自社ゲーム内で行った回数分、他社のゲームでも広告できる仕組みだ。開発コストは、セガが負担し、利用はどの企業も無料で使うことができる。

そもそも、ノアパスの開発は、様々な部署から上がってくる非常に多様な広告への要求に対応するために開発された物だ。セガは本体から、セガネットワークスといった子会社など、多数のゲームの開発チームを抱えている。昨年後半から現在まで17タイトルという多くのゲームを抱えている。そのため、すでに社内向けに開発した広告システムを、他社に開放しても、それほどデメリットはないという判断が、自社以外の企業への参加を積極的に認める一因になっている。

これはウェブの広告代理店を利用すると数千万円規模で膨らんでしまうスマホ向けソーシャルゲームの広告費を、最大で五分の一程度にまで圧縮させるという大きな効果をもたらす。セガは3月頃から、他社に参加の打診を始めているが、積極的に動き始めたのは、この夏に入ってからだ。現在では25社が参加を決めており、さらに多くの企業が参入を検討中だ。

■「DeNA、グリー対セガ」という図式を作りたがるメディア
セガは、8月21日には日本経済新聞電子版に、このサービスの内容を一部リークさせるような形で報道につなげている。ノアパス自体はユーザーにとっては意味のわからないサービスでもあるため、「積極的にプレスリリースをするようなものではない」と判断していたが、ニュース化によって他社の参入を狙った。

ところが、ニュースは、「セガなどゲーム15社が連合、スマホ向け自前で集客 グリーなどの配信会社への手数料圧縮」というタイトルで報道され、対立を煽るところに焦点を置き、仕組みそのものの説明については、大きな勘違いを含んだ内容になっていた。

この報道の中では、DeNAやグリーの2社のゲームプラットフォームを利用する場合には、アップルやグーグルに30%の手数料を取られた上に、さらに20%支払う必要があるため、その金額を圧縮することが目的とされている。フィーチャーフォン向けソーシャルゲームのプラットフォームとの対決を前面に押し出された内容として報道された。

特に、8月14日に発表になった2013年4〜6月期連結決算は、最終損益が3億1100万円の赤字と、上場来初の赤字となったグリーに対しては、マスメディア全体の風当たりは強くなった。さらにノアパスについて、この決算の結果を受けて、再び間違った記事が日経新聞電子版には掲載されている。ノアパスにグリーは声を掛けてもらえることなく、外されたとする内容だ。

■どの企業にも参入の障壁はない
もちろん、この理解は完全に間違っている。そもそも、多くのスマホ向けのゲームを展開している大半の企業は、DeNAとグリーのゲームプラットフォームを利用することなく、独自に展開することが基本だ。利用する必要性がないためだ。多くの企業が、フィーチャーフォン向けのゲームで、両企業のプラットフォームを利用していた理由は、集客力の高さからだ。数千万人のユーザーを抱え、それらのユーザーに直接コンタクトができる広告宣伝網を持っていることが、最も評価を受けていた部分でもあった。

ところが、スマホではルールが変わり、両企業を利用しても抱えているユーザーが自社ゲームを遊んでくれるような導線を作り出すことができない。最も強い導線は、App Storeであれば、無料ランキングや、トップ売り上げランキングということになる。そのため、DeNAやグリーなどの独自プラットフォームを利用する意味がないのだ。DeNAとグリーに支払わなければならない20%の手数料を支払っている企業はほとんど存在しない。

これについては、東京ゲームショウで、後日談がある。ノアパスを中心に進めているセガサミーグループのセガネットワークスの代表取締役社長CEOの里見治紀氏が、19日のビジネスデイで、グリーのブースで行われたパネルディスカッションで起きたことで。モデレーターより「グリーがノアパスに参入できるのか」という若干いじわるな質問が出された。里見氏の回答はもちろん「イエス」。どこの企業の参入を拒む必要性のないことを強調した。そして、グリーのパネラーからも参入への関心があることが示された。

これは、当然のことで、そもそもノアパスの仕組みは、広告交換の仕組みに過ぎず、手数料を取ることが目的ではないため、どの企業でも参加できるためだ。ただし、この質問は、実際にグリーの置かれているソーシャルゲーム市場での厳しい状況を浮き彫りにすることにはなった。

■大手企業に有利で決して公平な仕組みではないノアパス
それでも、この仕組みは、どの会社にも、公平性が確保されているわけではない。この広告交換の仕組みでは、多くのタイトルを抱えている大手企業ほど有利になれる可能性が高い。なぜなら、広告交換を多数行うためには、他社のゲームを自社ゲーム内で表示すればするほど有利に立つことができる。

つまり、展開しているタイトルの少ないゲーム会社にとっては、このシステムは必ずしも有利に働かない。むしろ、スマホゲームの大手への寡占状態を加速化していく要因になっていくだろう。

そして、セガはこのノアパスの展開を非常に急いでいる。理由は単純だ。他社も同じ仕組みを構築して展開を行うことは難しくないためだ。必ず追従する企業は出てくるだろう。例えば、現時点では、コナミはノアパスへの参入を断っており、また、「パズドラ」で成功しているガンホーからも参入の声はない。

ただ、セガは同じような仕組みが存在していない今の間隙を縫って、一気にスマホ時代のプラットフォームとして、ディファクトスタンダードを取ることを狙いに来ている。この広告交換システムを「学閥のようなもの」という指摘もある。多数の同じような仕組みが登場した際に、どこのシステムを利用しているかで、否応なくカラーが出てくることになるだろう。

また、手数料の事実関係の誤認はともかく、DeNAとグリーに変わる存在に、セガがなることを狙いに来ているという理解は、あながち間違ってはいない。このプラットフォーム展開がうまく行くかどうかは、来年の春頃には決着が付いているだろう。半年ごとに、有利な主役交代が変わる今のスマホ市場らしい展開のように思える。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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