めるまがアゴラちゃんねる、第052号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(62)
ユーザーのイノベーション参加が有利と認識される時代へ
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(62)
ユーザーのイノベーション参加が有利と認識される時代へ
Valve Softwareのオリジナルのゲーム向けに、ユーザーが自由に改造できるツール環境を提供してModコミュニティによって生み出された「Counter-Strike(カウンターストライク)」の成功ケースは、他のPC向けゲームにも大きく影響を与えるようになった。ゲーム会社各社は、Modコミュニティの重要性を理解するように変わっていったのだ。一方で、なぜ、そのような現象が起きるようになったのか、というプロセスも教育機関による研究通じてだんだんと明らかにされるようになっていった。
■研究により明らかにされたユーザー主導のイノベーション
例えば、id Softwareなどに比べて、ゲームエンジンの分野では後発に当たるゲーム会社Epic Gamesが、99年に発売した「Unreal Tournament」(Epic Games)という一人称シューティングゲーム(FPS)でも同じ戦略がとられた。自社のゲームエンジンに向けたMod環境を積極的にPC版で提供したのだ。
このゲームでは、他のプレイヤーと対戦をするタイプのゲームだが、Modを通じて、多種多様なマップ、登場するキャラクターのグラフィックスのカスタマイズなども行われるコミュニティが出現した。この積極性が類似のゲームが多数存在する中、後発のゲームにもかかわらず、人気を後押しする一つの要因になった。こうしたMod環境をユーザー向けに提供するゲームは90年代末から、00年代に入って、ますます登場するようになった。
マサチューセッツ工科大学のエリック・フォンヒッペルは、このような現象がなぜ起きるのかという重要な研究を05年に書籍にまとめ発表した。「イノベーションの民主化(Democratizing Innovation)」という考え方だ(訳書「民主化するイノベーションの時代」(ファーストプレス))。
「民主化」という言葉は正確に日本語には訳しにくく、そのニュアンスを正確に伝えることは難しいが、ユーザーが主導するというニュアンスだ。この書籍では、一般的に、イノベーションは、企業側が最初に引き起こすのではなく、最初に「ユーザー」が自分たちのニーズに合わせて、最初に既存の製品を改造して利用する。
そして、その有効性が強い部分が、やがて企業によって認識、吸収され、製品に反映されていくというプロセスをたどる過程が示されている。企業の製品開発がイノベーションのすべてを決めているのではないと論じたことで、大きなインパクトをもたらした。
活発になっていたゲームのModコミュニティのアカデミズムの研究も、02年頃から登場し始めており、それらの他の先行する研究を引用する形で紹介されている。ゲームは「ユーザーのイノベーションためのツールキットとカスタムデザイン」という項目で扱われ、ゲームそのものをユーザー向けのツールキットを通じて「プラットフォーム」としていくことの有効性が論じられている。「ユーザーが生み出すイノベーションはコンピューティングのテクノロジーを成長させるための重要性は確実に増加している」とヒッペルは述べている。
ヒッペルは「ユーザー・イノベーションのための高品質なツールキットの、5つの重要な特徴」として、次のものを上げている。
(1)ユーザーは、試行錯誤を通じて学びながら次に進むという完成したサイクルをたどることができる。
(2)ユーザーが作り出したい設計内容を実現できるソリューション・スペースが提供される。
(3)専門的な訓練をほとんど受けることなく操作できる、使い勝手の良さを提供する。
(4)ユーザーがカスタム設計に使うことのできる標準的モジュールのライブラリが含まれている。
(5)ユーザーによって設計されたカスタム製品やサービスを、メーカーが手を加えることなく生産設備で生産する。
もちろん、ツールキットを付属したどのゲームもヒットするというわけではない。
しかし、ツールキットを通じて、ユーザーコミュニティが形成され、ユーザーが作成した物を発表できる場所が作られ、それに対するフィードバックが行われる環境が整えられることで、Modコミュニティは大きく発展していくという手がかりが示されている。
そして、それに成功したMod環境を海あせたゲームでは、ユーザーの中には、開発ツールの使い方について説明を行う教育環境を整えるユーザーも現れるようになるため、ゲーム会社の関与なしに、ユーザーの学習コストも低下していく。それがポジティブなさらなる広がりを生み出すサイクルを生み出し、さらにコミュニティを活発化させる。そして、Modの中にはプロが開発する水準に到達するものも登場する。
もちろん、これらのことは、ユーザーが所有するコンピュータの環境が発達したこと、インターネット環境が一般化したことの影響も大きい。ネット上では、様々なModについてのコミュニティサイトが登場し、ゲームを発表し、ダウンロードを自由に行い、ユーザーの間でのフィードバックが積極的に行われるようになった。
■さらに広がりを見せるイノベーションの民主化
これらの研究が知られるようになったことによって、ユーザーに向けて開発環境を公開した方が有利になるという考え方が英語圏では浸透していくようになる。その重要な例が、マイクロソフトが、05年に発売されるXbox 360の開発環境を一般のユーザーにも開放するとした、04年3月にGame Developers Conferenceで発表が行われた「XNA」だ。積極的な単語として使われたわけではないが、発表が行われる前の講演が行われる会場に映し出された単語の一つに「Game Democratization」という言葉が、すでに使用されていた。
閉鎖的にゲーム開発に関わるゲーム開発者を囲い込み、情報を閉じてしまうよりも、ユーザーに積極的に、自社の開発環境のイノベーションに関わるように促すことが、自社にとっても有利になると認識される時代がやってきた。これは現在に至るまで、重要な要素として認識されるように変わってきている。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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