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「人生100年」時代にどう生きるべきか(石川善樹『〈思想〉としての予防医学』第7回)【毎月第2火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.467 ☆

2015/12/08 07:00 投稿

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毎月第2火曜は、予防医学研究者・石川善樹さんの『思想としての予防医学』をお届けします。今回は、前世紀には予想もされていなかった「人生100年」時代を迎え、私たちがこれから考えるべきライフプランの「基本思想」について解説します。


▼執筆者プロフィール
石川善樹(いしかわ・よしき)
(株)Campus for H共同創業者。広島県生まれ。医学博士。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。
著書に『最後のダイエット』『友だちの数で寿命はきまる』(マガジンハウス)など。
本メルマガで連載中の『〈思想〉としての予防医学』これまでの記事一覧はこちらのリンクから。



 前回、私は20世紀に、人類はほとんど別の生き物のような存在になったということを書きました。

 これまで私たちは「人生50年」と考えて、とにかくがむしゃらに仕事をして、その後は年金暮らしをすればいいじゃないかと考えていました。しかし、20世紀の人類は、「飢えと貧困」というこれまで人類を苦しめてきた二大要素にある程度の解決を着けて、爆発的に平均寿命を伸ばしてしまいました。その傾向は今後も続いていくはずです。おそらく現在の現役世代の人々が高齢者になる頃には、平均寿命が100歳になっている可能性は決して少なくありません。
 私は、この「人生100年」時代に突入する可能性を真剣に考えて、この文章を読んでいる20代~40代の皆さんは自分の仕事や生活を設計していくべきだと考えています。高齢者になってから考えるのでは、もう遅い問題です。おそらく年金支給の年齢だって、その頃には引き上がっています。現在の制度は、よもや年金給付者がその後数十年を当たり前に生きていくなんてことを想像だにしていない時代の産物だからです。

 私はこういう時代のキャリアプランとして、ひとまず50歳を節目にすることを提唱しています。それはこの年齢が、まだ人間が新しいことに挑めるだけの体力がある、ギリギリの年齢だからです。そうして、この50歳を節目にした第二のキャリアの中で、人生の終末期にあたる最後の時期の生活を、金銭的にも健康的にも支えるための様々な準備をするのです。
 現在、定年退職後の男性サラリーマンで、特にやることがなく、日々を手持ち無沙汰に暮らしているという人は沢山います。残念ながら、いくら人生100年の時代が近づいていても、65歳などになってしまった人間にはなかなか新しいことが出来ないのです。だからこそ、この50歳という年齢を意識して、自分のふたつ目のキャリアプランを考えるのが重要です。

 さて、それではこの50歳以降の二つ目のキャリアプランとは、いったいどんなものでしょうか。
 それは、やはり若い人間の考えるものとは大きく違ってきます。この50歳という年齢に入ると、もう精神的にも肉体的にも若い頃のようには行きません。
 そうなったとき、どうやら人は気の合う仲間と仲良く暮らしたりして、朝起きてから夜寝るまで一瞬一瞬をいかに幸せに生きていくかが大事になるようです。
 しかし、そういうプライベートな幸せが大事になっていく一方で、「世の中を変革したい」などのパブリックな夢はしぼんでいきます。若い頃のようにムチャな働き方をして、気の合わない人間とでも仕事をして、社会を良くしようと考える――という発想はやはり取れなくなってしまうようです。

 これはどっちが良いか悪いかというものではなく、そういうものなのです。
 ですから、こういうことを踏まえると、人生の最初の50年は社会の幸せになる仕事に邁進して、セカンドキャリアの25年程度は自分や自分と気の合う仲間の幸せを大事にした仕事をやって生きていく、というのは人生のライフステージに合った考え方なのかもしれません。

 また、こんなふうに考えることも出来ます。
 私たちはこれまで人生のキャリアを考えるときに、自分という「個人」のやりたい夢と、「社会」の中で求められる価値の二つをいかに整合させるかに悩んできました。しかし、いまや人生は「一毛作」ではなくて「二毛作」になっている……と考えると、ファーストキャリアでは社会のために生きて、セカンドキャリアでは自分の夢に生きる、ということも選択肢の視野に収められるようになるはずです。


■ 主婦は「人生二毛作」をすでに生きている

 こうした問題について私たちの社会は、あまり真剣に考えてきませんでした。しかし、現状でも100歳とまでは言わなくとも、80歳や90歳まで生きる人は決して少なくないのです。彼らは、子育てを終えて定年退職をしてからも、何十年という時間を生き続けます。
 そのとき、どういう生き方が幸せなのかを、私たちは考える必要があります。

 ところで、実はずっと前からこういう生き方を実践してきた人たちがいます――それは、日本の専業主婦の人々です。
 こういう仕事で高齢者の人々と会うと、すぐに気づかされるのが日本の女性の高齢者の元気さです。男性の高齢者は、皆それぞれに若い頃にエネルギッシュに働いていたのだろうと思いますが、どこかシュンとしていて、趣味も少なく淋しげにしている人が多い。それに対して、女性の高齢者の方は趣味や友人づきあいを持っている人も多く、旅行に出かけたりして、とても元気です。僕もこういう仕事で健康セミナーなどを始めた頃、なぜ「おばあさんたちばかりが、こんなに元気なのだろう?」と不思議に思ったものでした。

 その後、徐々に分かってきたのは、彼女たちがまさに50歳の頃にセカンドキャリアを真剣に考えていたことでした。
 この時期、女性たちはちょうど子育てを終えて、また肉体的にも閉経期や更年期障害などに悩まされます。しかし、それが結果的に彼女たちに、自分の人生と真剣に向き合わせているように思います。ここで多くの主婦の女性たちは、人生に一区切りをつけます。そして主婦として家族のために生きてきた自分の人生を見つめなおして、今後の自分の人生を考えるようになります。

 一方で、男性の方はというと、50歳の頃に女性のような問題に直面することは、良くも悪くもありません。そうして定年退職まで必死で会社のために働くのですが、65歳になってはたと気づいてみれば、特に趣味もなければ仕事を離れた友人もいない――そんな人はざらにいます。しかも、先ほども言ったように、この年齢まで行ってしまうと、もう新しいことを始めるのも難しい。そうして、多くの男性はただ燃え尽きていくのです。

 しかし、本当に大事なのは、絶好調のときにこそ次の準備をしておくことです。
 棋士の羽生善治さんは七冠のときに「将棋の五手目に何を指せばいいか」について書いた研究本を出して、当時の多くの人を不思議がらせました。こういうふうに自分が良い時期にしっかりと視点を変えていく姿勢は、とても大事なことです。
 50歳の頃に女性のような悩みに直面しない男性は、かえってこの時期に羽生さんのように視点を自ら大胆にずらすのが必要になります。そして、むしろ女性たちからこそ、その後の人生の生き方を学んでいく姿勢が大事になるのだと思います。


■ 長く活躍する研究者は“分野を変える”

 とはいえ、これからの50歳以降の人生は、趣味に遊ぶだけでなく、しっかりと稼いでいく必要もあります。もはや現行の年金制度がそのまま持続するのは難しいからです。こういう時代に上手にセカンドキャリアを築くためには、何が必要なのでしょうか。

 以前、価値ある研究を続けられた人(ノーベル賞受賞者も含む)と、そうではなかった人について研究した論文がありました。それによれば、長く活躍を続けた研究者は平均して5回、大胆に自分の研究分野を変えていたのだそうです。それに対して、一発屋のような業績しか残せなかった研究者は、一つもしくはせいぜい二つの研究分野に固執して一生を終えていたそうです。

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▲遺伝子の研究でノーベル生理学賞を受賞した利根川進氏は、受賞後に記憶の研究に分野を変えた。(出典)

 日本の利根川進さんなどはその典型と言えます。彼は自分がノーベル賞を受賞した途端に研究分野をガラリと変えて、神経科学の道へと転向しました。また、若き日のアインシュタインなどもそうでしょう。彼は相対性理論の研究をする前に、ブラウン運動や流体力学などの様々な分野の論文を執筆しています。

 この研究結果は、私たちがまさに自分の分野を上手く切り替えて、長く活躍を続けていくためのヒントになるように思います。


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