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四十路男の『セーラームーン』(稲田豊史『セーラームーン世代の社会論』発刊記念コラム)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.343 ☆

2015/06/12 07:00 投稿

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四十路男の『セーラームーン』
(稲田豊史『セーラームーン世代の社会論』
発刊記念コラム)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.6.12 vol.343

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PLANETSの書籍『あまちゃんメモリーズ』や『PLANETS Vol.9』の編集スタッフであり、『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)や『ヒーロー、ヒロインはこうして生まれる アニメ・特撮脚本術』(朝日新聞出版)といった編著もある稲田豊史さんが、アラサー女子論をテーマに初の単著を刊行しています。今回は、御年40歳の筆者が『セーラームーン』放送当時、この女児向け作品とどう向き合っていたかを追想します。

 
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■ 隠れキリシタンのように
 
 『美少女戦士セーラームーン』の放映スタートは1992年3月である。放送第1回からチェックしていた筆者は、当時高校2年生。しかし、武内直子による原作マンガが少女誌「なかよし」に連載されていたことからも明らかなように、自分は十中八九、製作者側が当初求めていたメインターゲットではない。いわゆる「大きいお友達枠」というやつである。当時筆者の傍らには、硬派なアニメ青年御用達の月刊誌「アニメージュ」があった。
 当時『セーラームーン』を見ていることは誰にも言えなかった。92年と言えば、「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」、いわゆる宮崎勤ショックから3年も経っておらず、「アニメ好きの男=異常者」「美少女が出てくるアニメ好きの男=犯罪者」というレッテル貼りが、ごく普通にまかり通っていたからだ。これは全然オーバーな話ではない。少なくとも、筆者が通っていた愛知県内の進学高校(共学)においては。
 もし教室で「稲田はセーラー服を来た女子中学生が活躍する女児向けアニメを毎週楽しみに見ている」ことが女子の耳に入ったら、大変なことになる。総スカンは必至だ。一応、以前から教室内で「稲田はアニメとかが好きな奴」というキャラクター認知はされていたものの、それは「宮崎アニメって批評に値するよね」的な、気取った教養主義的サブカルアティテュード範囲内の話。「美少女戦士」で理論武装は不可能だ。
 地元ビデオレンタル店のアニメコーナーに立ち入るのにも、相当な勇気が必要だった時代である。新作コーナーに面陳列してあるジブリ作品『おもひでぽろぽろ』あたりならまだしも、通路1本奥の旧作アニメコーナーで『プロジェクトA子』や『メガゾーン23』を借りるのは、アダルトコーナーに立ち入る以上の覚悟を決めねばならなかったのだ。
 アダルトコーナーに滞在しているのを中学時代の同級生に目撃されたとしても、校区内カーストはむしろ上がるが(エロい奴=ヤンキー=偉い)、アニメコーナーで商品を吟味しているのを目撃されたら、2年後の成人式で後ろ指をさされるのは目に見えている(繰り返すが、オーバーな話ではない)。
 このような社会的破滅を回避するため、『セーラームーン』を毎週見ていることは自分の中でトップシークレットだった。まるで隠れキリシタンのごとき受難のはじまりである。
 余談だが、今回セーラームーンをテーマにした書籍を刊行するにあたって、それを知った父親(71歳)から以下のようなメールをもらった(原文ママ)。
 
「セーラームーン」は知ってはいたが、残念ながらそのアニメを見たことがない。(略)しかし、君がここまで「美少女戦士セーラームーン」に入れ込んでいたとは知らなかった。もっぱら「ドラえもん」と思っていたのだが、親とはいえ、子供のことをすべて掌握はできていない。
 
 引退後20年経ってから親バレしたAV女優の気分である。
 
 
■ SMTV

 93年4月(2年目の『セーラームーンR』放映開始の頃)に大学進学のため上京しても、すぐ辞めたアウトドアサークルの新歓コンパでセラムン(あまり好きではないがこのような略称が存在した)好きを告解するのは憚られた。
 93年当時ですら、日本ではアニメがまだ本当の意味で“文化”としての市民権を得ていなかったのだ。アニメが“文化”として認められるには、1995年の東京ファンタスティック映画祭(『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』『MEMORIES』『マクロスプラス』が上映)や、『新世紀エヴァンゲリオン』に対する非アニメ誌(「スタジオボイス」「ユリイカ」等)の評論的アプローチ(96年以降)を待たねばならなかったのだ。
 「ジャパニメーション」という言葉で、マスコミがアニメを「さも素晴らしいもの」のように語り出すまでには、まだ2年以上の歳月を要した。その間の筆者はといえば、次回予告の絵柄だけで作画監督を9割方当てられるまでにセーラームーン信仰が深まり、クレーンゲームの景品だったセーラー戦士たちのSD人形を、マリア像の如くせっせと集め続けていたのである。
 ちなみに大学時代は『セーラームーン』をVHSテープに標準モードで録画し、保存していた。テープは瞬く間に増えていったが、背ラベルにはっきり「セーラームーン」と書けば、ワンルームの下宿を訪れた友人にバレてしまう。もちろん見えない場所に隠せばいいのだが、それでは信仰を放棄する行為にも等しい。月に代わってお仕置きされてしまう。
 江戸時代のある隠れキリシタンは、一見して普通の仏像の裏面に十字架を忍ばせていたという。ゆえに筆者もそれに倣い(というわけでもないが)、偽装目的で背ラベルに「SMTV」と書きナンバリングして棚差ししていた。「SM」は「セーラームーン」の略のつもりである。ところが、ある日訪れたバイト仲間の友人に誤解されてしまう。「SM」だけに、違う“お仕置き”が収録されているビデオだと勘違いしたのである。まあ、当然か。
 ちなみに『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』(93年公開)のレンタル版をダビングしたVHSの背ラベルには「SM-MOVIE」と記載していたので、日活ロマンポルノ的な何かに思われた可能性もある。それはそれで、昭和のシネフィル感・サブカル感が醸し出せて良かったのかもしれない。
 
 
■ 三石琴乃と俺
 
 当時の『セーラームーン』を語る上で外せないのが、ヒロイン月野うさぎ役をあてた声優・三石琴乃だ。三石はこの役で一躍声優界のスターダムにのし上がるが、当時ラジオかなにかで「声優になる前にサンシャイン60のエレベーターガールをやっていた」という情報をゲットした筆者は、いたく興奮したのを覚えている。なぜなら、中学3年の修学旅行でサンシャイン60に登っていたからだ。「あの時、中坊の我々に微笑んでくれたのは三石琴乃だったかもしれない。そういえば声がうさぎちゃんだったような気がする。むしろ三石琴乃じゃないはずがない!」
 そんな自己催眠も虚しく、筆者が修学旅行に行った年には既に三石はOLになっており、声優養成所にも通っていたことが、後に判明するのだった。Wikipediaがない時代の、オッサンの残念な昔話である。
 三石関連でいま考えてもすごいと思うのが、天真爛漫な女児向けスーパーヒロインの声をあてていたのと同時期に、『新世紀エヴァンゲリオン』の葛城ミサト役で濡れ場を演じていたことである(第弐拾話「心のかたち 人のかたち」1996年2月14日放送)。
 この事件、当時を知る古参アニメファンにはもはや常識だが、深夜帯でもない水曜夕方6時半の全国放送枠で、こともあろうにうさぎちゃんの、否、ミサトさんのピロートークとエロ喘ぎ声が全国に響き渡ったのである。当時、放映局であるテレビ東京宛ての苦情電話が鳴り止まなかったとか、テレ東の担当者が異動になったという都市伝説じみた噂まで広まった。
 1996年2月といえば、4年目の『美少女戦士セーラームーンSuperS』放映まっただ中。なんというか、『おかあさんといっしょ』のうたのおねえさんが、その夜に『ギルガメッシュないと』でTバックを「サービス、サービスぅ〜」するようなものか。
 ゲスいついでに言うと、三石は『セーラームーン』放映開始の前年、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』(91年放映)でヒロインの菅生あすか役を演じているが、あすかはその後制作されたOVAシリーズで何度かヌードシーンを披露している(←若い三石ファンのために付記しました)。
 なお、三石は2005年にアニメ『ドラえもん』が声優リニューアルした際、のび太のママ役を獲得している。これは筆者が大学時代に、学校非公認の「ドラえもん同好会」を立ち上げて会長を務めたことと何か深い因縁があるのかもしれない。むしろ因縁がないはずがない!
 なお、父親からのメールの後半は以下のようなものだった。
 
(本の中で)のび太やナウシカも引き合いに出しているところを見ると、こちらへの肩入れも大きいと見た。君のことだから「ドラえもん」が先かと思ったが意外。得意の「ドラえもん」も視野に入っているのかとも思えるが、もしそうなら焦らずじっくり構想を練られよ。
 
 70年以上も生きてきた先達の意見には耳を傾けるのが人の道というものだ。ぜひとも「ほぼ日刊惑星開発委員会」あたりに、「ドラえもん」をテーマとした2冊目の単行本企画を売り込んでいきたい所存である。

(筆者による本格的な『セーラームーン』評論を読みたい方は、ぜひ『セーラームーン世代の社会論』をお手に取ってみてください!)
 

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【6/24(水)開催 尾原和啓×北川拓也×古川健介×高宮慎一×宇野常寛が、プラットフォームやwebサービス運営の最前線を語り合うトークショー!

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▼概要
 
 スマートフォンのiPhone、検索エンジンのGoogle、SNSのFacebook、……今や社会から私たちの生活まで、すべてを形づくるのは超国家的なIT企業である。そして、それらの超国家的プラットフォームを運営するのは、投資家から資金を調達して事業活動を行う株式会社である。つまり、世界を変えるアクターは資本主義の内部から生まれているのだ。

 本イベントは様々なプラットフォーム運営の最前線で活躍する出演者たちが、現場の目線で真剣に語り合い、激変する現在の世界を見通すためのトークセッションだ。ありきたりなビジネスの成功体験や秘訣を語るのではなく、世界を変えるにはどうしたらいいのかを本気で議論する場である。

 その場にふさわしい出演者を今回の渋谷セカンドステージでも迎えることとなった。
2015年Kindleビジネス書年間7位のベストセラー『ITビジネスの原理』の著者であり6/11に『ザ・プラットフォーム』を出版する尾原和啓氏は、10回を超えるIT企業での転職から長きにわたり「IT」を見てきたプロフェッショナルだ。一方で6/10に出版される、PLANETS編集長・宇野常寛編著の対談集『資本主義こそが究極の革命である』からは、nanapi代表取締役社長の古川健介氏と楽天執行役員・北川拓也氏が参加。古川氏は81世代を代表する起業家であり、けんすう氏として鋭い分析と筆力でスタートアップ界に多大な影響力をもつインフルエンサーでもある。さらに、北川氏は理論物理学者でありながら、ECサイトは人間の意識を変容させることが可能かについて深い示唆を持つ。そしてPLANETS編集長の宇野常寛と、司会にはITのビジネスモデル知り尽くすプロであり、資本主義の根幹を担うともいえる投資家、グロービスの高宮慎一氏を迎えた。

 IT企業は世界の何を変えるのか? まさに出演者たちが最前線で活躍する、日本的インターネットのゆくえとは? 私たちの生活はこれからどうなるのか? 渋谷セカンドステージとしては初の大きなテーマを基に、IT業界のトップランナーたちが激変する世界と未来のビジョンを縦横無尽に語り尽くす!

 なお本イベントは、
6/10刊行 宇野常寛編著『資本主義こそが究極の革命である--市場から社会を変えるイノベーターたち』(紙:KADOKAWA/電子:PLANETS)
6/11刊行 尾原和啓著『ザ・プラットフォーム』(紙:NHK出版/電子:PLANETS)の合同刊行記念イベントを兼ねています。
どちらの書籍もご一読いただけると、イベントがもっと楽しめます!
 
▼出演者
尾原和啓(Fringe81株式会社執行役員、『ザ・プラットフォーム』著者) ※バリ島からコピーロボットにて参加
北川拓也(楽天株式会社 執行役員、Behavior Insight Strategy Office室長、データサイエンス部 部長、『資本主義こそが究極の革命である』共著者)
古川健介(けんすう)(nanapi 代表、『資本主義こそが究極の革命である』共著者)
高宮慎一(グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/CSO)
【司会】宇野常寛(評論家、PLANETS 編集長)
 
▼スケジュール
6月24日(水) 18:30 open / 19:00 start
 
▼会場
渋谷ヒカリエ 8階 8/01/COURT(渋谷駅 直結)
〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1
▼PLANETSチャンネル会員割引チケットのお求めはこちら
 

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『PLANETS vol.9』は2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について、気鋭の論客たちからなるプロジェクトチームを結成し、4つの視点から徹底的に考える一大提言特集です。リアリスティックでありながらワクワクする日本再生のシナリオを描き出します。
 
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☆★今週のPLANETS★☆
 
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6/12(金)20:00〜「朝までオタ討論!――すべてが終わったいまだから話せる! 第7回選抜総選挙の光と影と真実と」オタ有志×宇野常寛
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☆文庫版附録として、輿那覇さんと宇野常寛の新規対談が収録されています!

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