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もう始まっているかもしれない!?
第三次世界大戦を止めるため、
僕たちにできること
(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第6回)
第三次世界大戦を止めるため、
僕たちにできること
(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第6回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.3.3 vol.273
本日のメルマガは『現役官僚の滞英日記』第6回です。「イスラム国」やシャルリー・エブド風刺画事件のイギリス国内での受け止められ方と対照させつつ、〈日本人の、日本人による、日本人のための国際感覚〉を考えます。
橘宏樹『現役官僚の滞英日記』前回までの連載はこちらのリンクから。
みなさん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。ロンドンの橘です。この2月末は、ウィリアム英王子が初訪日していましたね。少々髪は薄くなりましたが、世界的な人気者の彼の動静がきっと紙面を毎日賑わせていたことと思います。
一方、イギリス紙面の関心事は、緊迫するウクライナ情勢、来る5月下院総選挙に向けた各党の政策論争も熱気を増す一方で、イスラム国関連の大きなニュースが続いています。2月25日には、イギリス人少女3人がイスラム国の活動に参加するためにシリアに入国したというニュースが報じられました。そして、本日(2015年2月27日(金))ロンドン各紙は、揃って一面で、後藤さんを含め幾人もの人質殺害に関わったとされるイスラム国のイギリス人テロリスト「ジハーディー・ジョン」の詳しい身元が特定されたことを大きく報じました。彼の生い立ちや「マンチェスター・ユナイテッドのファンだった」少年時代のエピソードなど、SUN(大衆紙)に至っては少年時代の写真のアップが一面に掲載されていました。本稿第1回でも触れたとおり、現在当該地域に空爆を実施しているイギリスにとって、そして、ロンドン・オリンピック開催が決まった日の翌日2005年7月7日にアルカイダによるロンドン同時多発テロ事件で50数名を失ったイギリスにとって、国際的テロリスト集団の主要メンバーにイギリス人が参加していることのショックは大きいのです。
今回は、イスラム国・対テロ戦争・風刺画事件関連の一連の事件に関するロンドンの有識者らの見方についてご紹介するとともに、私たちにもできることについて個人的なアイディアを述べたいと思います。
▲日曜日のピカデリーサーカス周辺。散歩日和。
■ 報復の連鎖
ご存知のとおり、イスラム国は、英米ら有志連合軍の空爆攻撃に対する報復として、欧米人・日本人の人質の処刑を行ってきました。私自身も、湯川さん、後藤さんが無念の死を遂げたことを、同じ日本人として大変悲痛に思います。他の多くの犠牲者とともに、ご冥福を心からお祈りしています。その一方で有志連合軍の空爆では、子供達を含む大勢の犠牲が出ており、これに対する報復としてイスラム国がヨルダン人パイロットの焼殺動画を公開すると(動画では空爆の悲惨さがこれでもかと強調されます。)、ヨルダンは女性死刑囚の死刑を執行。すると、イスラム国は他のヨルダン空軍パイロットの実名と懸賞金を発表します。このように、もはや、どの件においてどちらが悪いということは重要ではなくなり、ただ「報復の連鎖」が綿々と続き、ひたすら泥沼化していっているのが現状です。
そして、この報復の連鎖は中東のみならず欧州内でも展開し始めました。1月7日、ムスリム(イスラム教徒)を侮辱する風刺画を繰り返し掲載してきたフランスの漫画新聞社シャルリー・エブドの絵師が襲撃を受けて殺害されたことを皮切りに、フランスでは風刺画に対する報復テロが、報告されているものだけで147件生じたとされています。そして、これに対する報復として、1月7日の週だけでモスクへの火炎瓶投下が26回行われるなど、イスラム教徒一般に対する報復事件が多発し始めました。このような「報復の連鎖」が続く緊急事態を憂う大勢の市民が集い、1月11日、パリでは「反テロ・デモ行進」が行われました。イギリスのキャメロン首相、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相ら、各国首脳が参加して大きな注目を集めました。(尚、370万人もの人が参加したと報道されており、日本でも大きな関心を集めたかと思いますが、この人数の根拠に疑問を呈する有識者もいる旨は書き添えたいと思います。)しかし、デモの願いも虚しく、2月14日にはデンマークで風刺画家を標的としたと見られる連続襲撃事件が生じています。
このように、イスラム国と欧米の間で、「報復の連鎖」が途切れることなく続いてしまっています。あるロンドンの有識者は「もはやどちらが良い悪いの問題ではない。この連鎖のせいで、特に、1月7日の風刺画事件以降は、欧米の雰囲気は「対テロ戦争」から「対ムスリム戦争」になってしまっている。」と評していました。そして、「大勢の参加した反テロのデモも、表現の自由のためのデモと、半ば同一視されて、全体として反イスラム・デモの様相を呈してしまっている。」と言います。ムスリム側も、ムスリム関係機関が、イスラム教はテロを認めていない、という声明をいくら出しても、かき消されてしまっている印象です。この雰囲気を懸念したからこそ、オバマ大統領も、2月18日、自ら主催した対テロ・サミットで「(我々の戦いは)対テロ戦争であって、対イスラムの宗教戦争ではない。」と敢えて強調したのだと思われます。結果として、過激派ではない一般のイスラム教徒までもが、迫害される危険を感じて、反発感情を強めてしまってきているようです。不安と反発が呼び合って、誰もがいかにもそうなりそうだと懸念し、また、誰もがそうなってはいけないと希う、明らかに愚かな二項対立に事態が収斂していこうとしているというのが、今のところ、残念な現実であるようです。
そして、あるシンポジウムの合間の立ち話で、ある紳士が「過去の世界大戦は、通常兵器による正規軍同士の戦闘が主で、開戦日も終戦日がはっきりしていた。しかし現代の戦争は、生物兵器も含め、一方的で無差別なテロ行為が攻撃手段である。テロ集団が民間人に対して一方的に武力行使する。日常生活全体が戦場になる。報復の連鎖が続いてエスカレートしていくなかで、いつの間にか戦争状態に陥っていることになるから、開戦日も終戦日もはっきりしない。我々はもしかしたら、もう既に第三次世界大戦のなかにいるのかもしれない」と話していたことが強い印象に残っています。
▲電気自動車の充電スタンド。ロンドンには25,000箇所の充電スタンド、10万台のEVが導入されているとのこと。
■ 連動するリスク
このような欧米・中東の状況を日本の人々はどのように捉えているのでしょうか。ロンドンと東京では認識にどのような違いがあるでしょうか。私は、日本語のWEBニュースサイトやBLOGOSなどで日本の言論にもある程度接しています。なるべくいろいろなものを読み比べているつもりではありますが、当然限界があるでしょう。また一方で、これもまた限られた機会ではありますが、英国内の各種報道媒体に接するほか、ロンドンでシンクタンクや大学が開催するシンポジウムに参加したり、勉強会の場等で有識者と雑談したりするなどして、ロンドン(の知識階級)の認識にも触れています。その範囲で、最も違いを感じるのは、ロンドン(及びおそらく欧州全体)には、イスラム国との対テロ戦争と、フランスでの風刺画及び報復テロ事件を、全体としてひとつの文脈として捉える見方が強いことだと思います。
もっと言えば、これらに加えて、ウクライナ情勢、ギリシャ債務危機、パレスチナ問題、イラン動静などはすべて、互いに連動するリスクとして捉えられていると言って良いでしょう。そして、煎じ詰めれば、これらの問題がドミノ的に連鎖して、英米独仏が団結して対処できる能力を超えたレベルで同時多発的に「危機」が起きたらどうしよう、という懸念、そしてイスラム国・テロ勢力はきっとそれを狙っているだろう、という恐怖感が共有されていると感じています。だからこそ、全世界に分布する不安や恐怖をマネジメントしよう、という考えから、「グローバル・ガバナンス」というテーマが欧米を中心にずっと議論されてきているのだと思います。
他方で、イギリス、特にロンドンの投資家・ビジネスマンがこのような切迫した危機感を抱き、すべての国際問題を一括して捉えようとするのは、ある意味で当然とも言えます。というのも、「シティ」と呼ばれる、イングランド銀行を中心に営まれ続けてきたロンドン中枢部の伝統的エリート社会のメンバー(ジェントルマン)らは、投資環境と石油価格の「安定」(含、彼らにとって予測可能であること、またはコントロール下にあること)が至上命題である国際金融を生業としています。彼らは、シティからイングランドを、イングランドを通じてイギリス連邦をコントロールしようとし、そしてイギリス連邦を通じて、全世界の約三分の一を占める旧英領(=コモン・ウェルス各国)を、そして、旧英領を通じて、全世界に影響力を行使し(ようとし)ています。このように「シティ」はレバレッジ(テコの原理)にレバレッジを重ねて、国際政治経済における影響力を確保し(ようとし)ているというのが私の基本認識です。
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