現代の魔法使い・落合陽一。
「彼だけが、本物の中二病である」
――宇野常寛「THE HANGOUT」
12月8日オンエア書き起こし
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.12.15 vol.222
http://wakusei2nd.com

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大好評放送中の、宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。毎週月曜日は、前週分のオンエアの全文書き起こしをお届けします!

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▲前回放送はこちらでもお聴きいただけます!
 
 
■オープニング・トーク
 
宇野 時刻は午後11時30分を回りました。皆さんこんばんは、宇野常寛です。今夜はスペシャルウィークということで、まあ他の番組だったら、誰もが知っている有名人を呼んでガッポリ数字を稼ぐところなんですが、この番組はそんなぬるいことはしません! むしろ、今は無名でもこれからの時代を作る人間を呼びたい! まだ誰も知らなくてもいいから、この先ブレイクしていく人間を呼びたい。そう考えまして、いま僕が最も注目している若手作家をゲストに呼びました。現代の魔法使い、メディアアーティスト、落合陽一くんが登場します。まあね、誰だコイツって思う人も多いと思うんですけど、なんて言ったらいいのかな、一言で言ったらマッドサイエンティストですね。なんか、魔法使いとかマッドサイエンティストとか、この時点でこいつは何を言っているんだと思われるかもしれませんが、まあたぶん、本人が登場したらもっとそう思うことでしょう(笑)。それでは、J-WAVE「THE HANGOUT」、今夜もスタートです!

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宇野 J-WAVE深夜の溜まり場「THE HANGOUT」。月曜担当ナビゲーターの宇野常寛です。さあ、落合陽一とは果たしてどんな人物なのか。さっき僕はね、マッドサイエンティストとか現代の魔術師とかそんなことを言いましたけど、まあオフィシャルな説明を言うと、普通に研究者なんですよね。っていうか、科学者ですね。この説明はちょっと語弊があるんですけど、ディスプレイの次の形を研究している人ですね。本人いわく、ディスプレイの次を研究しているというと、わかりやすいけど実は正確には違うらしいんですけどね。で、そういった研究を使って、アート作品をどんどん発表しているという、科学者とアーティストの二足のわらじを履いている男です。喋り方っていうかね、挙動みたいなものが、一言で言うとこれ、『DEATH NOTE』のLなんですね。ほんとにこういう人間いるんだ、っていう。むしろ、『DEATH NOTE』の作者、もしくはジャンプ編集部の誰かは、どこかで落合陽一の存在を知ってあのキャラクターを作ったんじゃないかって思うくらい、Lっぽいですね。

初めて会った時に、全身ヨウジヤマモトの真っ黒の服装をしていて、首からカメラをぶら下げていたんですよ。で、なんでそんなことしているんですかって聞いたら、実験的に自分の視界に入るもの全てを記録している、みたいなことを言っていたんですよ。で、最初は美大くずれ系のアーティストか何かかな、みたいな失礼なことを思ったんですよ。でもね、話してみると、いちいち発言がぶっ飛んでいるんですよね。それも、ただぶっ飛んでいるんじゃなくて、僕が普段文化やメディアについて考えていることとすごく近い気がしたんです。僕が考えているようなことを、理系のジャンルというか、科学テクノロジーのジャンルでやっているような気がしたんですよね。そこからちょっと興味を持って、時々一緒に仕事をするようになったっていう。まあそんな関係ですね。

はい、というわけですね、宇野常寛がナビゲート致します、J-WAVE「THE HANGOUT」。今夜の1曲目はですね、そんな落合くんの登場にふさわしく、この曲を選びました。映画『DEATH NOTE』のイメージソング、Red Hot Chili Peppersで「Dani California」。

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宇野 宇野常寛がナビゲート。J-WAVE「THE HANGOUT」。今夜の1曲目は、映画『DEATH NOTE』のイメージソング、Red Hot Chili Peppersで「Dani California」でした。

この後、現代の魔術師、メディアアーティストの落合陽一さんが登場します。落合さんへの質問も受付中です。ハッシュタグは「#hang813」です。メールの方は、この番組のホームページのメッセージボタンから送ってください。番組ホームページではYouTube Liveでスタジオの様子を同時生配信中です。そして、11時55分からは、南沢奈央ちゃんのNIPPON SEKIJUJISHA “GAKUKEN” The Reason Whyのコーナーがあります。そして、J-WAVE「THE HANGOUT」各曜日のナビゲーターが毎週共通のテーマを語る、シェア・ザ・ミッションのコーナー。今週はアイドルについて語ります。J-WAVE WACORDSのメンバーがさまざまなベンチャー企業をリポート、ワーカーズ・ディライトのコーナーもお楽しみに。そして、毎週月曜日は番組終了後、ニコニコ生放送「PLANETSチャンネル」で延長戦を行います。番組内で語り切れなかった話題、そして、読みそびれたメールなどをディープに追及していきます。
はい、それでは宇野常寛が深夜1時までナビゲートします、深夜の溜まり場「THE HANGOUT」。このあと現代の魔術師、落合陽一さんが登場します。

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■ゲストトーク1
 
宇野 J-WAVE 深夜の溜まり場「THE HANGOUT」。月曜日は宇野常寛がお届けしております。早速、今夜のゲストをご紹介いたします! 現代の魔法使い、落合陽一さんです。

落合 はいどうもこんにちは!

宇野 こんにちはー、ラジオの生放送とかってもしかして初めてですか?

落合 実はJ-WAVEに来たのも初めてです。ニコラジとかは出たことありますけどね。

宇野 そうだね、僕のニコニコ生放送とかにも。

落合 あとなんか、やまだひさしさんのやつとか。

宇野 この番組ではたびたび落合くんの話題をしているんだけども、具体的に何をやっている人なのかっていうところを最初に説明した方がいいと思うんですよ。一言で言うと、落合陽一とは何者なのか。魔法使いとは何ぞや、ってところからいきたい。

落合 そうですね、なんか、俺はコンピューターが……俺はコンピューターになりたいんですけれども。

宇野 コンピューターになりたい!?

落合 はい。コンピューターを使って何をするかっていうのが、アートだったりテクノロジーだったり、まあ今の世の中は、出し方としてはメディアアートって言葉で表現されたりとか、例えばメディア技術で表現されたりするんですけど。なんか、コンピューターの出現によって、そもそもアートとテクノロジーを分ける意味がなくなってしまった今、俺はコンピューターを使って、次の時代に通じる思想を作りたいっていうのが主なモチベーションなんです。次の世界って、たぶん、スマホだとかPCだとかっていう存在は全部隠れていって、俺たちは俺たちの身体のまま、この世界に直接アクセスできるような世界にしたいんですね。っていうのを、例えば物を作って、物を浮かせて、動かしてみたりとか、物の質感を実際変えてみたり、俺たちの頭をハックするんじゃなくて、世界自体をハックすることでどうにかして変えてやりたいっていうことをずっとやっています。

宇野 なるほどね。それって要するに、コンピューターっていうものが空気のようなものになるっていう理解でいい?

落合 そう、空気のようなものになるっていうのと、あと俺たちが脳みそをハックすることなく、この世界をハックしたいっていうことですね。

宇野 なるほど。これ、聴いているみなさんわかりました? つまり彼は二つのことを言っているわけですよね。一つはコンピューターというものが当たり前のものになる。なんか僕らって、生まれてからコンピューターがどんどん発達していっているから、「コンピューターでこんなことができるようになったよ」っていう驚きとともに生きてきていますよね。だから、世の中を語るときはメディアを語ると大体のことが語れちゃう。今の時代を象徴するのはメディアだってわけですね。テレビとかインターネットとか。で、そういった時代がコンピューターが当たり前になるとなくなってきて、メディアを語ることが社会を語ることじゃなくなっていくっていうことがひとつと。で、もう一つが、僕たちがバーチャルリアリティというか、情報技術の最先端っていうと、脳に電極を刺して幻覚を見せるとか、コンピューターの中でもう一つの世界を作っちゃうとか考えるけど、そうじゃなくて、コンピューターの力でこの現実自体を変えていくっていうね。この二つのことをたぶん言っていたんだと思うんだよね。

落合 まさしくその通りですね。さすが宇野さん。

宇野 っていうか落合くんには、僕が編集長のメルマガで連載してもらっているからね(笑)。なので、たぶんいま日本で一番、君の書いた論文以外の文章を読んでいるのは僕だと思うんですよね。

落合 確かにその通り(笑)! そう、僕の毎回難解なこの言い回しをすべて宇野さんが編集して直していただいているんですけれども。

宇野 で、具体的には、どういう研究をしているわけ?

落合 最近では、去年は音のシーズンだったので、見えない音のエネルギーを使って、物質、物体自体をどうやって三次元的に空中に浮かせたり、並べたりして操るかっていうこととか。あとは音の力を使って、例えば、物体の表面に当たる光の反射質感を変えて、リアリティーのある物体を描くディスプレイを描くディスプレイを作ったりとか。あとは、そうですね、物体の触り心地とかのテクスチャーを、音波レベルの振動で変えてやると、あたかも鉄から木に変わるとか、木から紙に変わるみたいな、触覚質感を変えたりとか。どうやって物体自体をハックしないで外力で違うものに変えてやるかみたいなことをずっとやっていました。

宇野 なるほど。たぶん聴いている人たちは、電波で物を浮かせるってわかったと思うんだけど、たぶん他の二つが、今の説明だけだとたぶん脳みそがついて行かなくてわかってないと思うんですよね。

落合 ですねー。

宇野 で、二つめはなんだっけ?

落合 二つめはね、要は大体触覚で物を変えるとか、光の量を変えるとか。手触りを変える。

宇野 物事の手触りを変えると。で、三つめが、物の反射を変える。

落合 そうですね。要は液晶ディスプレイって一定の反射しか持ってないじゃないですか。そうじゃなくて、なんか本物の質感と同じような反射を持つディスプレイってどうやったら作れるの、みたいなことをやったり。

宇野 皆さんわかりましたか? つまり、今までは錯覚を見せようとすると、それこそ薬とか、脳に電極を刺して、幻覚を見せていたんですよ。でも、落合くんがやっている研究っていうのは、要は、物がある、鉄板がある、シャボン玉があると。で、光の反射を変えることによって、シャボン玉や鉄板の質感を変えて別のものに見せるとか、あるいはそこに情報を、プログラムを走らせて描画する、映像を出したりとか、絵を描いたりするということを言っているっていうことなんだよね。

落合 そうですね。今までコンピューターってコンピューターの中に閉じていたんですけど、コンピューターから外に出てきて、物理世界をどうやってハックするかっていうことをやっています。今年は(落合さんのテーマが)光のシーズンなんで、光の波の研究がいっぱい出てきます。

宇野 なるほどね。三つめのテクスチャーが変わるっていうのは、たぶん手触りが変わるっていう理解がわかりやすいかな。

落合 そうですね。見た目と手触りとどっちもやっています。物には物の固有の手触りがあるじゃないですか。ディスプレイを触って手触りが変わるみたいなのはすごく研究者がやってきたんだけど、この世界にある物を、そのまま手触りをトランスフォームする、変換するみたいなことをやっています。

宇野 なるほどね。落合くんの研究っていうのを最初に僕が聞かされたときに、ああ、これは、この先に人間と情報の関係が変わっていくことの本質だと思ったわけ。つまり、この10年でも、僕らっていうのは、情報技術っていうのが、随分ディスプレイの外に出て行っているっていう感覚がすごく強いと思うわけですよ。

落合 そうですね。

宇野 実際に今までインターネットとか、情報技術って主にインターネットのことを指していて、どんどん新しいメディアが生まれていく。で、ソーシャルメディアが生まれていったりとか、YouTubeが生まれていったりとかでみんな感動して、おおすごい、ディスプレイの中のメディアがどんどん面白くなっていく。ところが、ここ数年話題なのって、例えば3Dプリンターだったり、あるいはIOT(internet of things)、物のインターネットですよね。いろんなものにセンサーが入っていて、ネットワークでつながっていくっていうね。あっちの方がだんだん面白いって注目されるようになっていて。

落合 まあ、あとライブ演出だとか、実際に起こるもの、みたいな。コンピューターグラフィックスも98年くらいでみんな飽きてきて。ジュラシックパークできるなら、恐竜くらい描けるんだから、コンピューターの中でなんでもありなんだろう、っていうのがみんなの理解だと思うんですけど。まあ、実際に恐竜が歩いたらすごいですよね。

宇野 うん(笑)。なので、なんか90年代は情報テクノロジーに詳しい人、あるいはコンピューターオタクっていうのは、画面の中のもう一つの世界に逃げ込んでいる人ってイメージだったのが、今はたぶん、情報テクノロジーに明るければ明るいほど、情報テクノロジーを使って現実を面白くするっていう方向にどんどん行っている。その流れの先にあるものは、まさにこの落合くんが行っているような研究の世界なんじゃないかっていうね。そういうふうに僕は感じたんだよね。すごく。

落合 いや、ありがとうございます。僕は、そこにどうやってこの世界を持っていくかっていうのを、たぶん言っているだけじゃわからないので、物を作って示していくっていうのがモチベーションなんです。だから最初思想を作るっていったんですけど、今までの、20世紀の思想家って、こんな考え方すげーぜ! って喋っていたんだけど、もう今の時代、コンピューターのアシストがあるから、俺たちは物を作りながら語れるわけじゃないですか。物と語りがミックスされないと、タンジブルな、触れる価値がないと、認識できないんですよね。未来への変化を。それをどうやって作っていくかっていうのがかなりモチベーションで。

宇野 でもさ、ちょっといきなりつっこんだ質問をするけど、それって研究者・落合陽一としてのモチベーションだよね。メディアアーティスト・落合陽一はそこにどう絡んでくるの?

落合 そこはいい質問ですね。僕のモチベーションとしては、メディアアートの方はもっと大きいことがテーマです。つまり、研究は一歩前に進めればいいんだけど、アーティストとしては、美意識とか、もっと漠然とした、人間とコンピューターの関係性っていうのを記述したりしたいんですよね。