アニメが世界を征服するために
必要なのは〈デザイン〉の力
――グッドスマイルカンパニー代表
安藝貴範インタビュー
必要なのは〈デザイン〉の力
――グッドスマイルカンパニー代表
安藝貴範インタビュー
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.12.16 vol.223
来年1月末に発売予定の『PLANETS vol.9(特集:東京2020)』(以下、『P9』)。オリンピックの裏側で開催する文化祭を提案する「Cパート=Cultural Festival」メイン座談会では、グッドスマイルカンパニー代表取締役社長、安藝貴範さんが登場します。今回は『P9』に先駆けて、2020年のキャラクター文化やアニメ文化がどうなっていくかについて、安藝さんにたっぷりとお話を伺いました。
▼プロフィール
安藝貴範(あき・たかのり)
国内キャラクター可動フィギュアの代表である「figma」シリーズ、独特のディフォルメの魅力で大人気を博している「ねんどろいど」の展開で有名な「グッドスマイルカンパニー」代表取締役社長。”グッスマ”の事業はホビー以外にも、カフェやアーティストマネジメント、アニメの製作会社運営と多岐にわたる。カーレース事業「グッドスマイルレーシング」では、初音ミクをプリントしたいわゆる痛車で、SUPER GTのチャンピオンになったことも記憶に新しい。
◎聞き手:宇野常寛/構成:池田明季哉、中野慧
▼前回の幣誌インタビュー記事はこちら
■世界観が映像の外に染み出していく――アートディレクターの役割
宇野 前回のインタビューでは、西海岸的なギークカルチャーと、東京的なオタクカルチャーをミックスすることによって、新しい21世紀のグローバルなホビー文化が作れるんじゃないか、というお話を伺いましたよね。
さらにその後に『PLANETS vol.9』掲載予定の、「2020年に向かって日本のオタクカルチャーがどうなっていくのか」をテーマにした座談会(他にKADOKAWA井上伸一郎さん、クリプトン伊藤博之さん、夏野剛さんが参加)にも出てもらいましたが、今回はまず、安藝さんが日本のアニメやキャラクター文化の現状をどう捉えられているかについてお聞きしてみたいと思います。
安藝 日本のアニメのクリエイター側に足りないことって、実はあんまりないと思うんです。デザイナー、シナリオライター、絵描きさん、監督まで含めて強力な面子が揃っていて、海外と比べてもすごく人材が豊富じゃないですか。
「作る側の質の問題ではなく、そもそも需要が少ないんじゃないか!?」というとそうでもない。最近では海外から「日本のアニメがほしい」という話を今までよりたくさん聞くようになりました。特に日本のいわゆる深夜アニメは向こうのオタクやアーリーアダプターの人たちに相当浸透しているし、子供たちも『NARUTO』や『ONE PIECE』を経由してよく見ている。
最近Netflix(ネットフリックス)やHulu(フールー)などの定額動画配信サービスが大流行していますが、全視聴時間の2割ほどが日本のアニメだと言われているんですよ。彼らは5000万人の有料会員を持っていて、かなりのビッグデータで誰が何を見ているのか完全に把握しているからオーダーにも迷いがないんです。「これとこれとこれを、幾らでくれ!こんなのを作った方がいいよ!」とかなりストレートに言ってきますし、値付けもかなり派手なんですよね。
要するに日本のアニメ業界の制作内部に才能がないわけでもないし、外部の需要がないわけでもない。しかし、ちょっとしたタッチやルックとか、宗教観、デザインのまとめ方だったりが、英語圏の市場に「ほんの少しだけ届かない」であるがゆえにビッグヒットにつながらない。そこがもったいないなと思います。
じゃあどうするかというと、作品をトータルでグランドデザインできるアートディレクターやプロデューサーのような人たちが必要だと思っているんです。あえて個人名を挙げるなら、メチクロさん、コヤマシゲトさんや草野剛さんのような人たちです。例えばメチクロさんは『シドニアの騎士』の装丁やパッケージデザイン、マーチャンダイジングなんかを手がけているんですが、作品の空気感をちゃんと外に出していくために、パッケージのデザインをどうするかとかいうことまで含めて考えてやっているんですよね。他にもコヤマシゲトさんは、『キルラキル』や、今度公開されるディズニーの『ベイマックス』のコンセプトデザインをやっていて、非常に重要な役割を果たしているアートディレクターです。現場のコントロールも上手ですし、アウトプットへの影響力の示し方も的確です。
宇野 アートディレクターというのは、映像の中身だけでなく、その作品の世界観やBDパッケージのようなプロダクトのデザイン、もしくはイベントのディレクションなんかも含めてビジュアルをトータルに管理する人たちですよね。キャラクターが映像作品の中に閉じこもっていられない時代に対応するには、そういうプレイヤーが必要だと。
安藝 監督が意識的にやっていない部分も含めて、「この作品のどこが売りなのか」をピックアップしてアウトプットするアートディレクターがいた方が、外にちゃんと伝わるということだと思います。マーチャンダイジングの担当がチェックすることもあるんですが、それは単に間違いがないかどうかを見ているだけで、デザインがいいかどうかを見ているわけではない。そういう部分をいいディレクターが補ってくれるだけでだいぶ違ってくるんです。
来年あたり、有能なアートディレクターや映像チームが集まってずっと議論をしているようなスタジオをつくりたいと思っているんです。例えばさっき名前を挙げた、メチクロさん、コヤマシゲトさん、草野剛さんなんかが同じところにいたら衝撃的だと思うんですよ。一階は誰でも立ち寄れるように、原画とか、他のメーカーとコラボしたスニーカーのようなグッズも売っているお店にして、ちょっとしたギャラリーとしても使いたい。その建物全体を、外国人観光客にも「ここおもしれえな!」って思ってもらえるクールな場所にしたいと思っているんです。
宇野 安藝さんの最終目標って「日本のオタクカルチャーによって、ホビーや体感型のエンターテイメントも含めたディズニー的な総合性を実現する」ということじゃないかと思うんです。この先グッスマがどんどん成長していったときに、行き着く先は「グッスマランド」じゃないですか? そこでアニメがたくさん上映されていて、グッズもフィギュアもいっぱいあって、もちろんレースもやっている、という。
安藝 グッスマランド! それいいなぁ(笑)!
宇野 さっきの「映像の外側を含めてアートディレクターが管理していく」という話にも通じると思うんですけど、USJとかって今すごく調子がいいですよね。大金をかけて「ハリー・ポッター魔法の世界」をつくって、それが大人気になっている。今って「体験」しか意味がない時代だと思うんです。そこで、「映像」という体験の種をバラ撒いてグローバルにヒットを出して、それを体験としてもう一度与えるモデルが一番強くなっていくんじゃないか。
安藝 そうなるためにはやっぱり、「10年、20年と長期にわたって長く愛される作品をつくる」ということが必要だと思うんですよね。『トイ・ストーリー』シリーズって第1作は20年前なんですが、いま見ても本当によくできていて素晴らしいですよね。そして『トイ・ストーリー』シリーズの強みは、衒いなく続編をつくれるところ。もともと作品をチームで作っているから、ヒットして続編をつくろうというときに、クリエイターが何人か変わっても、ちゃんとしたものができる。
一方でたとえば日本のジブリは一本一本で完結させて作るという考え方が強いし、制作にあたって属人性が強すぎるのでそれが難しい。もの凄いパワーでやりきっているので、そもそもあまり続編を作る気がもなさそうですしね。悲しいけれど、作品の長期化というのはそういったチームのマネジメントも含めて、考え直していかないといけないのかもしれないと思います。
■思春期を終えて、成熟するために――アニメ産業の現在と未来
宇野 ちょっと角度を変えてお聞きしたいのですが、このあいだ福田雄一監督の『アオイホノオ』(原作:島本和彦/庵野秀明や山賀博之の大学時代を描いている)が放送されていたじゃないですか。あの作品を見たときに、30年前に生まれた日本のオタク文化、キャラクター文化が、今はもう思春期から熟年期に入ってきていると思ったんですね。ただ、必ずしも「キャラクター文化はこれからおじさんたちのものになっていく」というわけでもない気がしています。アニメ文化の成熟を受け入れながら、どうやって新鮮なものを出し続けていくのかが課題になっているのかなと。
宇野 ちょっと角度を変えてお聞きしたいのですが、このあいだ福田雄一監督の『アオイホノオ』(原作:島本和彦/庵野秀明や山賀博之の大学時代を描いている)が放送されていたじゃないですか。あの作品を見たときに、30年前に生まれた日本のオタク文化、キャラクター文化が、今はもう思春期から熟年期に入ってきていると思ったんですね。ただ、必ずしも「キャラクター文化はこれからおじさんたちのものになっていく」というわけでもない気がしています。アニメ文化の成熟を受け入れながら、どうやって新鮮なものを出し続けていくのかが課題になっているのかなと。
安藝 それはみんなすごく悩んでいるポイントで、いろいろな要因があると思うんですが、深夜アニメって数が多くてチャンスは増えている割に、新人の活躍の機会が逆に減っていたりするんですよ。
たとえば作品の本数が増えて監督がたくさん必要になると、人気監督は4年ぐらい先まで予定が埋まってしまう。当然、監督が足りなくなるから、演出の人たちがすぐ監督になってしまって、演出で本来鍛えられるべき期間がなくなってしまう。そして演出がすぐ監督になると、今度はテレビシリーズで必要な各話演出のスタッフが足りなくなって、結局は経験の浅い監督が一人でやるか、もしくはまだ経験不足の新人の子たちがやらざるを得なくなっているんです。
作品が多い環境というのは一見豊かに思えるけれど、実はスタッフがスムーズに育っていく環境ではなくなっている。現場が地獄絵図のようになっていくと、働くこと自体が辛すぎるし、自分の成長過程もイメージできないからすぐに辞めてしまう。理想的には新人にきっちり時間をかけて育ってもらって、新しい作品を出していかないといけないんですけど、そこをうまく巻き取れていないしケアできていない。構造的に人が育たず、新たなチャレンジもし辛いというネガティブな状況になっています。
宇野 普通に考えれば、現状ではアニメの数が多すぎるので、適正な数に戻ればその状況も改善されていくかと思うのですが、そうではないんでしょうか?
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