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吉田浩一郎と語る『静かなる革命』実行へのロードマップ――「クラウドソーシングが変える労働と社会保障」イベントレポート ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.115 ☆

2014/07/16 07:00 投稿

  • タグ:
  • IT&ビジネス
  • 吉田浩一郎
  • ほぼ日刊惑星開発委員会

吉田浩一郎と語る『静かなる革命』
実行へのロードマップ
――「クラウドソーシングが変える労働と社会保障」
イベントレポート
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.7.16 vol.115

今後、日本人の「労働」と、「会社」との関係はどうなっていくのか? 宇野常寛の新刊『静かなる革命へのブループリント』刊行記念として、対談相手の一人でもあるクラウドワークス代表の吉田浩一郎氏を迎え、これからの働き方、そして「ウェブ共済」という新たな社会保障のコンセプトを語ったイベントのレポートです。

本イベントは7月1日(木)の夜、東京・恵比寿「デジタルガレージ」社にて開催されました。
もともとは、宇野常寛編著で吉田浩一郎氏も対談相手として登場した『静かなる革命へのブループリント』の刊行記念イベントとして行なわれたこのトーク。しかし久しぶりの2人での対談ということで議論は白熱し、結果的に『ブループリント』吉田さん対談パートの続編のような内容へと発展していきました。このイベントレポートでは、約2時間にわたって議論された内容を圧縮してお伝えします。
 
◎文:中野慧
 
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▲クラウドワークス代表・吉田浩一郎氏
 
 
まず、トークは吉田さんの意外な来歴から始まりました。

なんと、かつて中高生時代はコミケで同人誌を出し、大学生のときは演劇を志した「サブカル」な若者で、宗教などについても勉強していたという吉田さん。日本では会社が宗教の代わりとして機能していたと語ります。

「アメリカには『ブラック企業』という言葉はないですよね。要するに個人と企業が対等なんです。ブラック企業という言葉には、『企業に期待をして裏切られた』とか『ひどいことをされた』というニュアンスが含まれているわけです。でもアメリカだと『だったら会社やめればいいじゃん』となります。アメリカでは企業以外に宗教もあるし、プライベートの友達や家族という概念も明確に存在している。要は、企業とインディペンデントな状態を個人が保てるわけですね。日本だと会社に対して同一化するように枠組みができてしまっていて、正社員であり続けることが良いと信じこまれていたわけです。その枠組みが3.11によって少しずつ崩壊しはじめている」

このお話を受け、宇野常寛はクラウドソーシングというサービスが社会で一定の力を持つことによって世の中がどう変わるのかを、真剣に考えるタイミングだと指摘。

「インターネット以降、日本は私達が想定していたよりもずっとバラバラになってしまった。この現実を受け止めた上で、バラバラのまま生きていく方法を考えたほうがいいし、そのためのヒントとしてクラウドソーシングというサービスの位置付けを考えるべき」

そして、クラウドソーシングの持つより大きな可能性について議論は進んでいきました。
 
 
■【クラウドソーシングは「コネ社会」からの解放である】

吉田さんは、「中長期で見ると正社員もクラウドソーシングを併用する時代が来る」と予測しているといいます。その文脈で今注目されているのは全日空、スターバックスやユニクロが採用する「地域限定正社員」。吉田さんが語ります。

「地域限定正社員のメリットとしては職場の大きな異動がない一方で、デメリットとして、その企業が地域の拠点から撤退すると雇用がなくなるということがあります。地域限定正社員を始めとした雇用の多様化が進んで終身雇用がなくなっていくと、昼間に働く場所と併用して、夜、副業としてクラウドソーシングで稼ぐ力を自分で徐々に身につけようという動きが現実的に起こってくると思います」

これを受けて、20代の頃は働く気がほとんどなかったという宇野は、「僕が20代の頃は、世の中には『一生フリーターコース』か、正社員になって『銀座ゴルフ文化圏の住人』になるかの二択しかなくて息苦しかった。いろんな距離感を持って会社とつきあってくれる働き手を企業が確保したいと思っているときに、どこかでそれを外側から支えるサービスが要りますよね」とコメント。

さらに吉田さんは、正社員という制度の陥穽をこう指摘します。

「正社員ってすごい制度で、地域の定めがなく職種の定めもない状態でどこに飛ばされても、どんな仕事に配属されてもしょうがないということと引き換えに、無期雇用を保障してもらっているという状態なんですよね」

議論はさらに、クラウドワークスというWebサービスのもつ特性の話へと続いていきました。

そもそもフリーランスとは一般的に、知り合いの伝手で仕事を紹介してもらい、案件ごとに働いて報酬をもらうという働き方ですが、こうした働き方にはもともと強力なコネクションがあることが必須の条件になります。宇野はクラウドワークスのサービスを、この「コネクション」の必要性からの解放であると見ます。

「僕のいる人文や批評のような物書きの業界では、一旦コネ社会に身を置かないといけなくて、それがものすごく息苦しかった。でも、仮に物書き用クラウドソーシングみたいなものがあって、『僕はこのジャンルとこのジャンルについては原稿書く自信があります』という感じで登録して、コンペで仕事が取れるんだったらどんなによかっただろうと思うんです。僕がクラウドソーシングというサービスが面白いと思っているのは、日本のコネ社会の嫌な部分をシステムで代替してくれる可能性があるところです」

この宇野の話を受けて吉田さんはこう答えました。

「今まさにクラウドソーシングではそういうことが起こっていて、仕事で実績を上げると個人が仕事を選べる、つまり個人と企業と対等になるという風景が現れ始めている。個人に紐づいた信頼を、どんどん見える化していっているんですよね」
 
 
■【クラウドワークスへの期待は、「バラバラのものをバラバラのままにつなげること」】
 
そして議論は、Webサービスというものが「人々をどうまとめ、どうバラバラにするか」という話へと進んでいきました。

宇野は今のドワンゴのような会社と、クラウドワークスが提供するWebサービスにはひとつ大きな違いがあるのではないかと指摘します。

「ドワンゴの運営するニコニコ動画は、実は人々をまとめる役割を果たしていると思います。そしてニコ動がまとめているのは、20代のどちらかというとオタク/インドア系の人たちで、非常にはっきりとしたカラーがある。それがこの先のポスト戦後のスタンダードになっていくのか、それとも僕たちはやっぱりバラバラになっていくのか、がひとつの争点になると思うんですよ。僕がクラウドワークスが面白いなと思うのは『○○である』ではなく『○○ではない』人たちを集めているところ。主婦や高齢者、独立を狙っているサラリーマンで経験値を積みたい人、就職したくない学生でノマドワーカーをやっている人もいて、どちらかというと戦後的な男性会社員中心の社会からこぼれ落ちた人たちですよね。そこに対してニコニコ動画は、『男性会社員中心の社会』へ正面からカウンターする存在です。この2つのどちらのビジョンが生き残っていくのかが最近すごく気になっています」

ここから議論は、ライフスタイルの話も巻き込んで拡大していきました。

吉田さんが新卒で就職したのは、まさに日本的な大企業のひとつであるパイオニア。そこで、総合職/一般職という区分けを経験した上で、外資系のリードエグジビションジャパンに転職して見た光景が、今のクラウドワークスの仕事の原体験になっているといいます。

「その原体験の中でどっちが自分にとって好きかというと、後者のほうなんですよ。 

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