今回のPLANETS vol.9(P9)プロジェクトチーム連続インタビューに登場するのは、情報環境研究者/アイドルプロデューサーの濱野智史さん。濱野さんが考える、アイドルとオリンピックの関係、そして「アイドルによるオリンピック」計画とは――?
【PLANETS vol.9(P9)プロジェクトチーム連続インタビュー第10回】
この連載では、評論家/PLANETS編集長の宇野常寛が各界の「この人は!」と思って集めた、『PLANETS vol.9 特集:東京2020(仮)』(略称:P9)制作のためのドリームチームのメンバーに連続インタビューしていきます。2020年のオリンピックと未来の日本社会に向けて、大胆な(しかし実現可能な)夢のプロジェクトを提案します。
2014年6月より活動を開始したアイドルグループ「PIP」の総合プロデューサーを務める濱野智史さん。濱野さんは、2020年におけるアイドルとオリンピックとの関係をどう考えているのでしょうか――?
▼プロフィール
濱野智史〈はまの・さとし〉
1980年生、情報環境研究者/アイドルプロデューサー。慶應義塾大学大学院政策•メディア研究科修士課程修了後、2005年より国際大学GLOCOM研究員。2006年より株式会社日本技芸リサーチャー。2011年から千葉商科大学商経学部非常勤講師。著書に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)、『前田敦子はキリストを超えた 宗教としてのAKB48』(ちくま新書)など。2014年より、新生アイドルグループ「PIP」のプロデュースを手掛ける。
◎聞き手:宇野常寛/構成:ミヤウチマキ
■【「大きな祝祭よりも、目の前の今でしょ!」】
――濱野さんは先日よりアイドルグループ「PIP」のプロデュースを手がけているわけだけど、2020年の東京とオリンピックとアイドルついて、いまどんなことを考えているか聞かせてください。……っていうかそもそも、はまのんってオリンピックに興味ないよね?
濱野 まったくないです。だって「レス」(※アイドルのライブ中などにファンに向けて送られるレスポンス=反応のこと)がないもの(笑)! 最近やってるサッカーのワールドカップもまったく興味がないですね。
ちなみに、さっそくオリンピックからそれちゃうんですけど、俺がいまつくっているPIP
の初お披露目イベントが6月15日で、ちょうどサッカー日本代表のワールドカップ予選の初戦の日だったんですよ。「メンバーのみんなも、やっぱりワールドカップとか気になるのかな」って思ってイベントの準備をしていたら、せっかく(?)楽屋にテレビも置いてあるのに、みんな鏡を見て自分のチェックに集中していて、サッカーを見ようという子が一人もいなかった。試合で点が入っても誰も見ないんです。俺、ビックリして(笑)。いや、もう、清々しいと思いましたね。
俺はサッカーに興味はないといっても、「本田のシュートがすげー!」「カッコよかった!」とか、そういう身体的なかっこよさはわかるんですよ。でも別に、「ニッポン! チャチャチャ」には興味がないんですよね。だから、まったくサッカーに興味のないメンバーたちを見て「やっぱりアイドルってすげー」と思いましたよ。「サッカーより自分」「大きな祝祭よりも、目の前の今でしょ!」っていうあのシンプルさ。たしかにプロデューサーの俺だって、これから初お披露目会でみんな緊張しているときに、サッカーなんて見てほしくないですよ(笑)。
そういう文脈からいうと、2020年の東京オリンピックも、「東京でやることで日本社会が盛り上がる」とかそういうのはマジでどうでもいい。
このインタビューは「オリンピックとアイドル」っていうテーマでしたけど、別にアイドルだけじゃなくてよくて、結局、オリンピックがあろうがなかろうが、一人ひとりが活き活きするかどうかがすべてじゃないですか。「オリンピックがどうとかバカか」と思いつつ、まあ乗っかって活き活きするのなら、それはそれでいいと思いますね。
――そういえば、PIPは掲げている目標があったよね。
濱野 そうそう、PIPお披露目のときに配ったチラシやWEBサイトにも掲載されているんですけど、PIPは「2020年にAKB48グループのメンバー数を超える」という目標を立てています。
なぜそんなことが可能なのかというと、まずは僕がメンバーを普通に採っていく。そこから俺がプロデューサーも作っていく――つまり、アイドルを志望した女の子たちがプロデューサーもやっていくということです。
そうしたら、プロデューサーになった女の子たちが今度は自分たちでグループを作り、さらにそこからまた新しいプロデューサーが生まれて……そうやっていけば一気にメンバーを増やすことが可能なんですね。まあ、実現できるかは分からないんですけど、なんとなく最低でも200人くらいは行けるかな、という気がしています。
その200っていう規準は、LINEのグループトークの最大登録人数が199人だから、っていう根拠なんですけどね。PIPも今はまだメンバー数が20人くらいで、一気にLINEが流れてくるときって、ビートマニアでいうところの、「イージーモード」くらいの速さでしかないんです。そのくらいのスピードなら、自分でも「今の、エクセレントやわー」っていうコメントを入れることができる。だったらAKBメンバーを超える600人くらいになっても、200人×3つの端末とかを駆使して追っていけるって考えていて。
あとは、俺に匹敵する能力を持てるメンバーが増えれば大丈夫。うちに山下緑(通称:どりー)っていう奇才がいまして、すごいんですよ。もうすでに数々のネ申伝説を生み出し続けていて(笑)。そういうやつがプロデューサーになって、俺1人だと200人持てるところを、山下が50人担当できれば絶対実現可能になるわけで、そういう風にわしゃわしゃアイドルがいるような状態でオリンピックに突入したいんですよ、俺は。
■【「オリンピックにアイドル」ではなく、「アイドルのオリンピック」を開催すべき】
濱野 オリンピックの開会式とか式典にしても、まったくレスないしつまんないじゃないですか。子供のときからそれが疑問で、「こんなつまんない式典見てるやつってバカじゃないの?」と思っていて。だから本当は、オリンピックの開会式で行われるような訳のわからないパフォーマンスをするぐらいなら、スタジアムで選手やアイドルと握手とかできたらいいと思うんですよね。
大掛かりな演出なんかよりも、いつもAKBがやっている握手会のような、マンツーマンで全力なものがいい。AKBだけじゃなくても、全アイドルが1つの会場にたくさんいてみんなと握手できるともっといいと思います。現実的には、セキュリティ対策とか色々と必要だけれど、外国の人が来て「え、ここまで良対応してくれるの!? ジャパン狂ってる、クール!」みたいに思ってくれるようなものを2020年はやるべきだと思うんです。
それも別に会場内に限らなくてよくて、どうせPIPとかはスタジアムの中に入れないだろうから、会場付近でビラ配りするのでいいんです。よくAKBの握手会の会場近くで有象無象のアイドルが「お願いします〜」ってビラ配りとかやっているけど、俺はああいうのはやる気満々ですよ(笑)。
――「マンツーマンで全力なものがいい」っていう話を聞いて思い出したんだけど、福本伸行先生の『最強伝説黒沢』ってマンガがあったじゃない。あの1巻の第1話って、主人公の黒沢が職場の人間と一緒にワールドカップを観ていて、人一倍大はしゃぎしたんだけど、終わった瞬間に虚しくなるっていうエピソードなんだよね。「どんなに応援しても俺の人生と関係ないじゃん」ってガックリきて、「自分だけの感動がほしい!」というところからあの漫画は始まっている。だから『最強伝説黒沢』を読んだときに、「俺がずっと思っていたことをよくぞ言ってくれたよ、福本さん!!!」と思ったんだよね。
濱野 まさにそうですよ。アイドルの現場がいいのは、普通の女の子たちが一人ひとりが主人公(ヒロイン)になれるし、それにオタクもある意味主人公になれるところです。「このレスもらった瞬間の俺、最強!」って思える。
ベタな言い方ですけど、アイドルの握手会のような「一人ひとりが主人公になれる感覚」って大事ですよね。現代人って、普段そういう経験がないから、みんな病んでいくわけで。アイドル現場はそれをすごくローコストで、性差なくできるっていうのは本当に素晴らしいことです。だから、オリンピックっていうか、〈アイドルのオリンピック〉を作るべきですよね。IOCにこび売っている場合じゃない! いや、俺はやりますよ、少なくとも。
これから20年、30年先、世界中でどんどんアイドルが出てくるのは間違いないんだけど、「どのアイドルが一番最強なんだ?」を決める式典が必要ですよ。まあ、「どうやって審査するのか」とかは、フィギアスケート以上に揉めそうですけどね(笑)。
――あるアイドルに高い評価を付けた審査員がいたら、「お前、単にレスもらっただけだろ!」みたいになるよね(笑)。
濱野 絶対そうなる(笑)。でも、そういう制約ありまくりの「ゲーム」を考えるのも楽しいじゃないですか。「どうしたら金メダル決められるんだろう?」みたいな。そういうゲームづくりみたいなことは、考えてみたい……というか、やってみたいですね。
(了)
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