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【緊急掲載】書評:堀江貴文「ゼロ」(宇野常寛)

2013/12/23 19:19 投稿

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  • 宇野常寛

「堀江貴文」は如何にして生まれたか

 堀江貴文ほど酷い誤解に晒されている人物はいない。「拝金主義者」「弱者切り捨ての新自由 主義者」「虚業を生業とする詐欺師」……数年前、守旧勢力たちは彼の実像を歪めて報道し、その印象を操作することで彼を「潰し」た。今日においては、若者 層を中心にその誤解は解け始めている。しかしこの国の半分はまだ堀江を誤解したままだ。
 そんな堀江嫌い、IT嫌いの「古い日本人」にこそ手に 取ってほしいのが本書だ。なぜならば本書には「堀江貴文」がいかにして生まれたかが、本人の筆によってはじめて克明に記述されているからだ。堀江を生んだ 家庭は特別な環境ではない。ここで語られているのは今から30年前の九州の片田舎に存在した、裕福でもなければ貧しくもない「普通の」家庭の身も蓋もない 姿だ。そこはベルトコンベアのように人生をまっとうするという発想だけが支配する空間だ。周囲に比してそれなりの生活を送れていることが到達点であり、文 化を愛する回路もなければ、未来へ投資するという発想もない。そして大半の子どもたちはそんな世界の外側を創造するとこもなくベルトコンベアの流れからは 半歩も踏み出すことなく大人になっていくのだ。
 堀江少年はその聡明さゆえに、このままでは自分の能力がほとんど発揮できないことを悟ってしま う。そして彼は、数少ない外の世界に自分を誘うほんのわずかなサインを見逃すことなく、その希少なチャンスを実力で掴んで少しずつ前に進んでいく。その不 器用な、しかし力強い試行錯誤の記録からは「堀江貴文」もまた泥臭い農村から這い上がってた戦後日本人の一人であることが克明に浮かび上がってくるはず だ。
 ありふれた戦後日本の農村の風景こそが、堀江貴文を生んだ。本書が告白する堀江こそが戦後日本の鬼子であるという現実から、そしてそんな彼こそが若い世代の「希望」だったことから、そろそろ古い日本人たちは目を逸らしてはいけない。

宇野常寛

初出:「中央公論」2013年12月号

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