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第13回 「ファミリーコンピュータ」の思想
(前回までのあらすじ)
インベーダーブーム以降の日本のゲーム文化は、
任天堂の「ゲーム&ウオッチ」で生み出された十字キーのようなインターフェースや、
ナムコの『ゼビウス』のような同時代サブカルチャーとのビビッドな共振を通じて、
アメリカに替わって世界を先導するだけの実績性を積み重ねていた。
そして長らく世界ゲーム市場の覇者であったアタリ社のテレビゲーム機VCSが、
北米ビデオゲームクラッシュ(アタリショック)によって決定的に没落していくのに
取って替わる存在として、群雄割拠の第二次テレビゲームブームの渦中に、
任天堂はやがて“国民機”となる「ファミリーコンピュータ」を世に送り出したのであった。
■第二次テレビゲームブームの覇者として
日本での第二次テレビゲームブームの渦中に登場したファミコンは、発売後数ヵ月で群雄割拠の市場を制し、頭角を現していくことになる。その優位を決定づけた最大の要因は、任天堂で『ドンキーコング』などの業務用ゲーム開発を手がけた上村雅之ら開発陣の決断により、アーケードゲームの水準に極力近づけるというコンセプトのもと、既存チップの流用ではなく独自開発のCPUを組み込んだことにあった。ゲーム&ウォッチの液晶開発をシャープが請け負ったのと同様、上村らの委託を受けてリコーが開発したファミコン用CPU「RP2A03」は、かつてスティーブ・ウォズニアックがApple IIに採用した「MOS 6502」をベースにPSG音源などの追加機能を組み込んだもので、同時表示可能な色数やキャラクター数、サウンド面などで同時期のゲーム機はおろか数万円クラスのホビーパソコンとさえも明確に一線を画す表現力を発揮。1万4,800円という競合機種と変わらない価格帯で、他のどの機体よりもアーケードゲームに近い体験性を提供できた。
機体性能面での圧倒的なコストパフォーマンスに加えて、ゲーム&ウオッチで確立された任天堂のブランドイメージを継承する商品コンセプトにも特徴があった。ゲームウオッチが従来の電子ゲームが持っていた子供向けの玩具っぽさやSF的な未来イメージを払拭する大人向けの高級感を狙ったのと同様、ファミコンの設計当初に立てられた七つの基本仕様の中でも「パソコン・イメージから抜け出す」「ゲーム専用機であるがオモチャ臭除く」という商品イメージに関する二項目が掲げられていた。その結果、ベージュと臙脂の落ち着いた色づかいの本体と、少なからぬゲームファンがゲームウオッチで慣れていた突出のない操作パッドを二つ収納できるファミコンの外観には、キーボードやジョイスティックのような主張性の強い異物を持たない、日本家庭のお茶の間に違和感なく入り込むスタンダードさを感じさせる佇まいが生まれている。
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