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本日のメルマガは、批評家・石岡良治さんの「今世紀のロボットアニメ」論をお届けします。
「ガンダム」をはじめとして、作中における「死」や「性」的なシーンがしばしば視聴者に衝撃を与えるロボットアニメ。そうした描写を可能にする、ジャンル特有の機能とはどんなものなのでしょうか。
前編はこちら。
(初出:石岡良治『現代アニメ「超」講義』(PLANETS、2019))

ロボットアニメはなぜティーンズの「性と死」を描けるのか|石岡良治(後編)

「宇宙世紀ガンダム」を支え続けるガンプラ市場

 現時点(2019年執筆時点)における『ガンダム』テレビシリーズ最新作『鉄血のオルフェンズ』の反響について、ひとつ興味深いことがあります。視聴率やソフト売上という点では必ずしもブランド力に見合っていないとする見解もあるのですが、主役機「ガンダム・バルバトス」をはじめとして、ガンプラの売上という点ではそれなりに好調だったという事実です。
 そもそも1980年代のロボットアニメブームはほぼ『ガンダム』の存在や、再放送中に爆発的に売れた「ガンプラブーム」の余波という側面があるのですが、プラモデルというホビーの世界が、アニメから半分自律した世界を形成していたことが、興味深い展開を生みました。
「リアルロボットアニメ」の典型として挙げた『太陽の牙ダグラム』は、もっぱらプラモデルの売上の力によって放送延長となり、75話という長期アニメとなりました。現在では後続の『装甲騎兵ボトムズ』のほうがアニメ作品としての存在感は大きいのですが、1980年代のガンプラブームの直撃世代である私の印象としては、『ダグラム』のプラモデルは、デザイナー大河原邦男の無骨なデザインがいい感じに出ていて、ガンダムをよりリアル寄りにしたメカが魅力的でした。
 当のガンプラにかんしても、とりわけ小学生にとって魅力的だったのは、手頃な値段で買えた最小スケールの「1/144」では、マイナーなメカも含めた「コンプリートの楽しみ」が味わえたことです。1980年代前半が社会現象としてのガンプラブームの最盛期なのですが、ガンプラバトルを題材にしたマンガ『プラモ狂四郎』などの存在によって、掲載誌の「コミックボンボン」(講談社)が、『ドラえもん』などが連載されていた「コロコロコミック」(小学館)の部数に肉薄する勢いを持つほどでした。「コミックボンボン」は現在では廃刊となってしまいましたが、『SDガンダム』が展開されていた1980年代末から1990年代初頭には、一時「コロコロコミック」と売上が逆転していたぐらい、ガンダムのホビーとしての力が大きかったことがうかがえます。
 ガンプラブームで興味深いエピソードとしては、アニメに登場したモビルスーツが発売され尽くされた後、「ザク」などの派生機を「モビルスーツバリエーション(MSV)」として独自展開していたことが挙げられます。そこでは「ザク」と「グフ」の中間形態や、最後のMS「ジオング」への発展系の「サイコザク」など、モデラーやデザイナーがアニメの設定から膨らませていった様々なモビルスーツが多数発売され、現在に至る「宇宙世紀もの」の派生アニメに出てくるカスタム機の原点となりました。今の私は宇宙世紀派生もの作品の多くはアニメとしては「蛇足」になりがちという印象を持っていますが、これらの作品についてはむしろ「プラモデルをつくる側」から眺めることで、その魅力がわかるのかもしれません。その嚆矢となったのは、カトキハジメがデザインした「Sガンダム」によって知られ、模型誌「モデルグラフィックス」(大日本絵画)で連載されていた『ガンダム・センチネル』(1987~1990)でしょう。
 カトキハジメ以後、明らかにプラモデル展開の重点が「ザク」などのジオンMSからガンダム派生機に移動した感があるのですが、それは『センチネル』から『機動戦士ガンダム0083 STARDUSTMEMORY』(1991~1992)、『機動戦士ガンダムUユニコーンC』(2010~2014)に至る作品人気を支えているのが、決してシナリオではなく、根強いガンプラマニアであることを示しています。たとえばしばしば話題になった『ガンダムUC』のテーマ曲「UNICORN」の独特の高揚感は、カトキハジメデザインの主役機「ガンダムユニコーン」の可動ギミックが開示される映像と切り離せないのではないでしょうか。