現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。
今回は、ニューヨークひいてはアメリカ社会で大きな存在感をもつユダヤ系の人々について。市内人口の9%を占め、金融・経済・政治・メディアの重要局面で絶大な影響力を発揮するユダヤ人社会が、現在どのような状況にあるのかをタイプ別に解説します。
橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第4回 あなたの持ちものを欲しがる人に売ることをビジネスとは言わない(前編)
まずは近況:物価上昇・円安のダブルパンチ
おはようございます。ニューヨークの橘宏樹です。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。4月中旬現在、ウクライナ侵攻については、長期化するだろうとの見方、5月9日のロシアの対独戦争戦勝記念日までに、めぼしい戦果をあげるべく、ロシアが大規模総攻撃を仕掛けるだろうとの見方が飛び交っている状況です。SNS上のプロパガンダ合戦も激しい状況で、何が正しい情報なのか、この情報は誰のどういう意図で世に出されたものなのか、いちいち判断するのが困難な状況です。ニューヨークの日常生活は、というと、兎にも角にも物価上昇が激しいです。生活を直撃しています。家賃も電気代も値上がりし、スーパーの野菜や肉までもが1~2週間で1割くらい値上がりしています。原因は、順調な経済成長をベースに、ウクライナ侵攻に起因する原油と小麦の不足、コロナ禍によるサプライチェーン混乱からの品不足が主要因です。飲食店の人手不足は特に深刻で、高騰する賃金がダイレクトに価格に反映され、例えば、つい先週まで13ドルで食べられたラーメンが今日は16ドルになったりしています。(一蘭のような高級ラーメン店ならば、下記のニュースのように、最低でも20ドルします。)
ラーメン1杯2500円のNY 物価高騰(2022年4月16日 デイリー新潮)
さらに、円安が厳しい状況です。原因は、短期長期色々とありますが、日本の貿易赤字に加えて、上記のような物価上昇、すなわち市場の貨幣流通量を減らすため、アメリカは金利を上げました。日本は金利を簡単に上げられないところ(上げたら国債の利払いが増える)、市場は当然、より高い利回りの債券に買い替える(日本国債を売って米国債を買う)動きが進みます。僕たちのように日本円で給料をもらっている人々は、物価高と円安のダブルパンチで、本当にへとへとです。今月の給料明細を見たときは、減給処分でも食らったのかとのけぞりました…
円安が一段と進行、ドル130円に届くか:識者はこうみる(2022年4月12日 ロイター)
そして、治安が悪化しています。4月11日ブルックリンの地下鉄駅で起きた発砲事件にはニューヨーク中が震撼しました。幸い死者はでなかったものの、16人が負傷しました。犯人が逃走中の間は、電車は止められ駅は封鎖され、まだ捕まらないのか、今どのあたりを逃げているのか、と、オフィス内でみんな逐一ニュースを見守っていました。特に事件が起きた地下鉄駅は「ジャパン・ビレッジ」という非常に大きなスーパーやレストランの入った日系の複合施設の最寄り駅だったので、日本人コミュニティにとっても特別に肝を冷やす事件でした。
というわけで、コロナの蔓延状況はかなり改善してはいるものの(ほとんどの場所でマスク義務も解除。しかし足下では新規感染者数が微増傾向で、これもまた実は気持ち悪い)、庶民のニューヨークライフは非常に厳しい状況です。
▲セントラルパークでも桜が満開。
ユダヤ人は強いのか
さて、本連載の大テーマは「ニューヨークの力強さの秘密を探る」ですが、今回はユダヤ系の人々の力強さの秘密について少し考えてみたいと思います。投資家のジョージ・ソロス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、facebookあらためMetaのマーク・ザッカーバーグ、メディア王のマイケル・ブルームバーグなど、ユダヤ系の著名な成功者は多いです。
とりわけニューヨークではユダヤ系の人々の金融・経済・政治・メディアにおける影響力は絶大です。実際、僕の肌感覚としても、こちらでビジネスをしていると、どんな分野であっても、話が進んで重大局面で出てくる、家主や地主、親会社の幹部、大株主などの判断権を持つ人物はユダヤ系であることは確かに多いです。
そこで今号では、前後半2回にわたって、アメリカのユダヤ人がどのような人々なのかざっくりご説明するとともに、日本とユダヤ人の関係、そして日本がユダヤ人から学べるポイントについて考えてみたいと思います。
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