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リサーチャー・白土晴一さんが、心のおもむくまま東京の街を歩き回る連載「東京そぞろ歩き」。今回はJR浜松町駅周辺から増上寺へ向かって歩きます。
徳川将軍家の菩提寺として知られる増上寺。建設に関わった"ニコニコ銀行王"牧野元次郎のエピソードからは意外な歴史が紐解けるようです

白土晴一 東京そぞろ歩き
第13回 JR浜松町駅から芝大門、増上寺へ 〈前編〉

 20代の頃、バイトで浜松町付近によく通っていた。
 大学を卒業しても就職はせず、金はないけど暇だけはあったので、バイトが終わるとこの辺りで遊んでいた。
 とはいえ、浜松町は当時からビジネス街だったので、20代フリーターの私が遊ぶような場所はそれほどなかった。
 駅前にはサラリーマンの集まる飲食店はたくさんあったが、そういう店に入るのもなんとなく気が引けた。一つ向こうの駅である田町には、90年代バブルを象徴するかのようなディスコ「ジュリアナ東京」もあったが、あまり興味もなかったし、そもそもそんなところに行けるような金もない。
 JR浜松町駅前にある世界貿易センタービルに入り、地下にあった飲食店街でカレーを食べ、2階にあった大型書店「文教堂」で本を物色し、お金に余裕があるときはビル40階にあった展望台シーサイドトップに登り、夜の東京をボーーっと眺めてもしていた。
 しかし、貿易センターに通うのも限度がある。そこで、金はないが暇と体力が余っていた私は浜松町を中心に歩き回り、人の流れや街の景観を観察するようになっていった。
 そういうことを始めてみると、街並みや建造物の背後にいろんな歴史や都市計画者の意図があると認識し始めた。特に浜松町から芝地区は、東京の中でも歴史的なものが密集している地域なのでそういう歴史や意図が読みやすくて面白い。
 20代の私はやがて都市観察に熱中するようになっていき、こういう連載をやるくらいにハマって、今に至るという訳である。
 そう考えると、浜松町は私の街歩きの原点であるような気がする。

 そこで久しぶりに芝界隈を歩いてみることに。

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 JR浜松町駅を降りる。目前には浜松町のランドマークであった世界貿易センタービルが見える。前述したように、このビルの展望台にはよく通ったが、今は昇ることが出来ない。

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 1970年に完成し、当時は日本一高さである40階建て152メートルの超高層ビルであった世界貿易センタービルは、この地区が都市再生特別地区(自由度の高い開発が土地利用が行われる地区)に指定されたことにより再開発が始まり、新たなビルを建設するために現在の建物は解体工事が行われているためである。
 超高層ビルの解体としては日本最大になるらしく、超大型のジャッキで持ち上げて一階づつ壊しては下げていく「だるま落とし」のような「鹿島カットアンドダウン工法」が採用されている。
 かつては高層ビルの解体は非常に難しく、期間も長くかかり、周辺に大きな影響が出るのでは? と言われたが、この工法だと穏やかかつ効率的に解体ができるらしい。
 その証拠に貿易センタービルの隣にある「日本生命浜松町クレアタワー」(2018年竣工、地上29階、地下3階、高さ156m)との距離も結構近い。この近さでも解体ができるのか! という感じ。

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 かつて、何度も訪れたビルがなくなるのも悲しいが、こういう大規模で最新の高層建築物解体技術が見れるのも面白い。
 そこから第一京浜(国道15号線)を渡って東京タワーや増上寺方面に向かうと、何やら地面にめり込んだ怪しいものが。

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 瓦屋根でかなり瀟洒で和風なデザインの公衆便所である。
 正式な名前は「大門脇公衆便所」。こうした半地下型の公衆トイレはけっこう昔の形態で、昭和の頃にはあちこちにあったが、最近は姿を消しつつある。ここはその数少なくなった地下公衆トイレの一つである。
 地下に造ることで臭いを多少なりとも封じめるためであったと聞いているが、事実、このトイレが建設されたのは昭和7年とのこと。その頃は「大門通不動銀行前街道便所」と呼ばれていた。
 そして、このトイレがある芝大門交差点には、この地区を象徴する建造物である増上寺大門がある。

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 区道の上に立脚するという都内でも珍しい門で、当然その下を自動車が行き来している。車二台が並んでも余裕ある広さだが、ドライバーの中にはちょっとこの狭さに恐怖を覚える人がいるかもしれない。
 しかし、この大門、実はこれでも新たに大きく広くして作り直されたものなのである。そもそも現在の大門は、徳川将軍家の菩提寺であった増上寺の惣門(敷地の外郭にある最も大きな入口の門)があった場所に造られている。

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▲江戸時代の増上寺惣門。大門脇の案内板より撮影


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