今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第24回をお届けします。
今回は(年明けですが)昨年を振り返り、2021年公開映画から加藤るみ的トップ10を発表。連載中に紹介しきれなかった作品も含め、ぜひチェックしてみてください!
加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage
第24回 加藤るみの2021年映画ベスト10
あけましておめでとうございます。
加藤るみです。
新年一発目の「映画館の女神」は、デロリアンでタイムスリップして昨年の振り返りをしたいと思います(笑)。
計画性がないわたしのせいです。
お付き合いいただけますと嬉しいです!
毎年思うんですが、昨年は1年がとびきり早いように感じました。
そういえば、いつも映画の話は熱量多めに書いているんですが、ドラマの話はしてないなぁと。
やはり、映画とドラマと比べると比率は9対1くらいになってしまうのですが、少し語らせてください。
一昨年の『愛の不時着』からはじまり、わたしはもっぱら韓ドラ派なんですが、昨年は『ヴィンチェンツォ』がめちゃくちゃ面白かったです。
あらすじは、イタリアのマフィアで韓国にルーツを持つヴィンチェンツォ・カサノが、巨額の金魂を掘り起こすために韓国にやってくるところからはじまります。
しかし、その金魂が眠る雑居ビル・クムガプラザは、大企業バベル建設が違法な手段で開発を進めたことで取り壊しが迫られており、ヴィンチェンツォの計画は妨げられてしまいます。
とっとと大金を手に入れてイタリアに戻る予定が、クムガプラザをめぐる争いや悪徳カルテルの対立に巻き込まれ、法では裁けない悪を悪でなぎ倒していく、頭脳派サスペンスコメディです。
『梨泰院クラス』のパク・セロイは正義で戦い、『ヴィンチェンツォ』のヴィンチェンツォは悪で戦う。
「復讐」という一言では済ませられないほど、スリルのある戦いを見せてくれる痛快なドラマでした。
韓ドラあるあるなんですけど、1話から面白いっていうのはあまりなくて、だいたい5話くらいから本気出してくるんですよね……。
『ヴィンチェンツォ』に関しては、1話観てあまりピンと来なかったから、2話観るまでの間が2ヶ月空いたという(笑)。
でも、周りがあまりにも面白いって言うもんだから、頑張って観てよかったなぁと思います。
本当に4、5話くらいから面白くなるんで、お願いします。耐えてください。
それと、『ヴィンチェンツォ』の良いところは、悪役が徹底して悪役なところ!
「こんなヤツいる?」ってツッコミたくなるくらい腹立たしい悪役が最後までキッチリ悪を貫いてくれるから、胸糞悪いんだけど清々しい。
これは、韓ドラでも韓国映画でも共通して言えることかもしれないです。
最近の韓国映画だと、マ・ドンソク主演の『犯罪都市』('17)に出演していたユン・ゲサンの悪役っぷりが最高でした。
わたしが観た韓国映画のなかでも1・2を争う、超絶のワルでした。
ぜひ、気になる方は観てください。
しかも、『ヴィンチェンツォ』には『愛の不時着』や『梨泰院クラス』にも出演していたクセの強い脇役たちが登場しているのが、このNetflix韓ドラブームの流れで観ているわたしにとっては推せるポイントでした。
『ヴィンチェンツォ』も『愛の不時着』で名を馳せたスタジオドラゴン制作作品なので、わたし的に「韓ドラ観るならスタジオドラゴン」という指針ができつつあります。
韓ドラって1話90分で、全20話くらいあるからめちゃくちゃ長い!
けど、その時間を捧げるだけの価値があるんですよね。
「長いけど面白い! 韓ドラはマラソン! 達成感がセット!」
ということで、わたしの2021年ナンバーワンドラマは『ヴィンチェンツォ』ということで発表を終えたいと思います。
さて、前置きはこのくらいにして……、昨年の映画総括を発表したいと思います。
毎年、このベストを考える時間が最高に楽しいです。
わたしのベスト10は、"好き"をテーマに、2021年に劇場公開された作品の中から選んでいきます。
では、10位からどんどん発表していきたいと思います!
10.『スウィート・シング』
大きな衝撃はなくとも、素朴で優しい映画に出会いました。
米インディーズ映画のアイコン、アレクサンダー・ロックウェル監督25年ぶりの日本公開作。
行き場を失った子供たちが彷徨い旅に出る逃避行ムービー。
「育てる」という責務を放棄した親の身勝手さには怒りや悲しみが込み上げてくるんですが、自分たちの足で歩き出す子供たちの強さや輝きに心が洗われます。
誰もが子供時代に感じたことのある、永遠に続くんだと錯覚するような楽しかった思い出を蘇らせてくれる。
それと、ノスタルジーな感覚に包まれるモノクロとフィルムの質感の映像は息を呑む美しさでした。
悲しみと輝きが混在する世界を色の変化で魅せる監督のさすがの手腕。
この物語を最大限に引き出す、映像の演出は秀逸でした。
ちなみに、本作の監督であるアレクサンダー・ロックウェル監督の教え子は『エターナルズ』('21)や『ノマドランド』('20)を撮った、今をときめくクロエ・ジャオ監督なんですね。
ただ好きな監督同士の繋がりを知れて単純に嬉しいという映画オタクのプチ情報でした。
9.『モロッコ、彼女たちの朝』
異国情緒溢れる街並みや可愛い洋服やインテリア、香ばしい匂いが漂ってくるパンなど、映画を通して文化に触れる、モロッコに行きたくなる魅力が詰まった、視覚的にも楽しい作品でした。
そして、この映画を観てほしい一番の理由は、婚前交渉や未婚の母がタブーとされるイスラム社会問題を背景に、「普通」からはみ出してしまった女性の連帯を描いた、静かに力強いシスターフッドムービーであること。
監督のマリヤム・トゥザニは元々ジャーナリストで、映画監督としてのキャリアをドキュメンタリーからスタートしたそうで、ドキュメンタリー映画のような顔の寄りのカットが多いのが印象的でした。
それに加え、女性だけの空間を中心とした密室劇として描くことによって、心の閉塞感が痛切に感じられました。
わたしにとって映画は、知らないことを学ぶ教科書的存在です。
日本では大きく報じられないニュースがわたしたちにとってとても重要で、同じ地球に生きる人間として女性として知るべき事実がたくさんあるような気がします。
この『モロッコ、彼女たちの朝』と同じくイスラム教下で女性の生きづらさを描いた映画では、パレスチナの『ガザの美容室』('15)やトルコの『裸足の季節』('15)、アフガニスタン『ブレッドウィナー/生きのびるために』('17)も併せて観ると理解が深まると思います。
この複雑な世界で、私たちはどうしていくべきか、どう生きるべきか、観ている者に解釈の余地を残し、考えるきっかけを与えてくれる作品でした。
8.『tick,tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!』
35歳の若さでこの世を去った、大人気ミュージカル『RENT』の作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝映画。
Netflix作品なんですが、この映画の肝は「音楽」だという事前情報があったので、なんとしてでもスクリーンで鑑賞したく、映画館で観ました。
これ、まだ上映しているかは微妙なラインですが、観れるならぜひ映画館で観てもらいたいです。
特に、いろいろとくすぶってる20代後半の人が観たらブッ刺さると思います。
なんといっても、この作品の一番の魅力はアンドリュー・ガーフィールドの超熱演です。
アンドリュー・ガーフィールドというと、『アメイジング・スパイダーマン』('12)で名を馳せた、スパイダーマン三兄弟の次男。
最近は『メインストリーム』('20)でSNSが生み出したサイコ男や、『アンダー・ザ・シルバーレイク』('18)では迷走したオタク青年と、ある意味話題作に出演していたものの、わたし的には役にも作品にもイマイチ恵まれていない印象でした。(『タミー・フェイの瞳』という待機作は、2021年のTIFで上映されてこちらは良さげな予感。)
でも、『tick,tick…BOOM!』を観てわたしは思いました。
「やっとアンドリュー・ガーフィールドが長く暗いトンネルを抜けた……!」と。
スパイダーマン以降潜っていた長いトンネルを駆け抜けるような、全力疾走の演技。
まるで、生まれ変わったような情熱を放っていて、わたしが見たかったアンドリュー・ガーフィールドをこれでもかと魅せてくれました。
この物語の主人公は、30歳の誕生日目前にアーティストとして何も成し遂げていない自分に対して打ちひしがれるジョナサン。
ジョナサンと年齢的にドンピシャな20代後半のわたしは、30歳になる前に何かを成し遂げたい焦りや悔しさが痛いほどわかるから、じわりと涙が。
それに加え、焦燥感に囚われながらも人生を疾走していくジョナサンの姿は、アンドリュー・ガーフィールドのキャリアと重ねてしまい、オタク目線でもはたまたお節介涙。
自伝物としてもミュージカル映画としても魂のこもった作品です。
全体の順位としては8位ですが、2021部門別「この俳優が凄い! ランキング」1位は確実に『tick,tick…BOOM!』のアンドリュー・ガーフィールドです!
7.『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
DCファンのわたしとしては、コレを語らずには2021年は終われませんでした。
マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』('14)シリーズを大ヒットに導いたジェームズ・ガン監督がある事件によりディズニーから追放され、DC作品を撮る……!
この革命に興奮しないアメコミファンはいなかったんじゃないでしょうか。
最初から最後までエンジンフルスロットルの超エンターテイメント映画。
まさに、ファンが観たかった『スースク』を実現してくれたと思いました。
サプライズの散りばめ方も、キャラクターや怪獣に対するリスペクトも、愛のこもった『スースク』に大感動しました。
わたし的には「自分を欺くヤツは女でも子どもでも許さない」といった、弱者を虐めようとするハーレイ・クインの新恋人候補を叩きのめすシーンが大好きでした。
本作は、単作で公開された『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』('20)より遥かにハーレイ・クインの華麗なる覚醒でしたし、このジェームズ・ガン版の『スースク』の成功によって、2016年に公開された元祖『スーサイド・スクワッド』は完全に闇夜に葬られた気がします。
ありがとう、ジェームズ・ガン。
6.『藁にもすがる獣たち』
こちら、わたしが2021年に観たなかで一番面白かった韓国映画です。
日本の小説家・曽根圭介さんの小説を韓国で映画化。
ロッカーに忘れられた10億ウォンをめぐり、欲に目が眩んだ"獣"たちの大金バトンリレーが繰り広げられるクライムサスペンス。
この作品、人間の欲望にまみれた汚い部分が凝縮されているのに、とにかく軽快なテンポで進んでいくので胃がもたれません。
誰が大金を手にするのかゾクゾクするスリリングな展開に、最後は「なるほど……!」と唸る伏線の散りばめ方も完璧でした。
ザ・韓国ノワールらしいエグみのある過激さもあり、ユーモアもあり、エキサイティング。
これぞ、韓国エンターテイメントの理想系!
友達同士で集まってワイワイ観たら、絶対に楽しい一本です。
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