滋賀県のとある街で、推定築130年を超える町家に住む菊池昌枝さん。この連載ではひょんなことから町家に住むことになった菊池さんが、「古いもの」とともに生きる、一風変わった日々のくらしを綴ります。今回は季節とともにある古民家ならではの暮らし方についてです。気温や環境に都度最適化する「暮らしわけ」について、季節折々の写真とともにお届けします。
ひびのひのにっき
第4回 季節の暮らしわけ
歳時記と暮らし
昔から「歳時記」「二十四節気」「七十二候」という季節や行事を表す言葉がある。伝統文化に触れた人は誰でも聞いたことがあるに違いない。殊に二十四節気と七十二候の2つは農林水産や日々の暮らしの季節の指標として使われていたものだという。たとえば七十二候には天候のみならず生物が捉える季節感がでてくる。渡り鳥のツバメや雁は日本に帰ってくる時と旅立つ時に登場する。ちょうどこれを書いている時期(9月中旬)は、七十二候では玄鳥去(つばめさる)にあたり、毎日姿と声を楽しんでいたご近所のツバメは、気づくと子育てを終えて南への旅立ちの準備と出発で巣はだいぶ前から空っぽである。最近はツバメの子育て開始が早まっていると聞く。旅立ちも早まっているのだろうか。また、品種改良で8月から稲刈りが始まっている。地域性や気候変動の影響もあるだろう。受け継がれてきた指標である伝統的な暦が日常生活の当たり前から離れつつあることに寂しさを感じる今日この頃だ。
▲夏、お隣のツバメが毎日我が家の様子を見にきているように見える。実際は庭の虫(エサ)とかをチェックしているのだろう。
▲夏の終わりかけの花壇は茫々
▲夏の収穫、庭の赤紫蘇ジュースとスイカ
▲8月下旬のみずかがみの刈り入れ(湖北小谷「お米の家倉」さんの田んぼ)
さて、築130年以上経つこの家では、季節の微妙な移り変わりを肌で感じられる。外気の温度、日差しの入り方、風の向き、雨や風の音、空の高さ、植物の成長、虫の種類と活動、家の建て付けの状態(木の特性上閉まりにくくなったり、ゆるくなったり)など。そんなことだから家のどこで日常生活を営むかは、夏は風通しで決まるし、冬は日当たりと隙間風で決まると言っていい。ちなみに春と秋はご自由にである。
ここに引っ越して約1年。風情のある家では仕事場を見せないようにと、押し入れをオフィスに作り変えてはみたものの、晩秋から春までは押し入れは非常に寒く、仕事にならないことを知った。押し入れの中にリーラーコンセントを2カ所と壁に1カ所電源をつけ、デスクも取り付けてもらったにもかかわらずだ。古民家には用途別の部屋は向かないということを思い知り本当に悔しい。
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