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お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。
ドラマチックな人生に憧れながらも、自分のことを「主人公になれない」人間だと認識している高佐さんは、日常のちょっとした事件からどんなことを考えるのでしょうか。

高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ
第22回 物語の主人公になれない

 真っ暗な深海から、体がスーッと浮き上がってきたかのように、まぶたの中が徐々に光で満たされてきた。明るくなってくるにつれて、先ほどからうっすらと感じていた頬の痛みも、だんだんとはっきりとしてくる。
「……さん。……高佐さん。高佐さん!」
 誰かに呼びかけられているようだ。
 細い横線一本だった視界が上下に広がりを見せ、景色がぼんやりとした状態で目に飛び込んでくる。
 僕は意識を取り戻した。
 白い天井をバックに、お医者さんと看護師さんが、視界の左右からニュッと顔を出し、僕を覗き込んでいた。どうやら僕は硬いベッドの上で仰向けになっているようだ。お医者さんは、ペチペチペチ、ペチペチペチと、一定のリズムで僕の頬を叩いていた。
「先生、高佐さんの意識が戻りました!」
「よかった!」
 二人の顔が安堵でほころぶ。僕はガバッと起き上がろうとするや、まだ身体が追いついていないようで、目眩を感じ、右手で頭を押さえた。
「あ、高佐さん、無理しないでください」
 看護師さんが優しい口調で、僕をそっとベッドに寝かせる。

 なぜこんなことになったのか、僕は思い出す。たしか……。

 たしか、僕は渋谷の大通りを歩いていた。すぐ後ろで「あーん!」という声が聞こえたので、ふと声のする方に目をやると、転がるゴムボールを追っかけて、小っちゃい女の子が車道に飛び出していた。女の子はボールに夢中で周りが見えていない。そこへトラックが猛然と向かってきていた。
「危ないっ!」と声を出すより先に、僕はガードレールを飛び越え、女の子に向かって走り出した。女の子がボールをキャッチした瞬間、僕もその女の子ごとキャッチし、抱きかかえたまま、反対側の歩道へと逃げ込もうとしたところで、「パーーーーーーッ!!」と、けたたましい音が鳴り響いた。見ると、トラックがもう寸前のところまで迫っていた。大きくなっていくクラクションの音とともに、ヘッドライトの光が僕の視界いっぱいに広がり、そして……。
 でもこうして今、意識がある。見たところ体も無事みたいだ。
 そうだ、女の子はどうなったんだろう!
「先生、あの子は? あの女の子は無事ですか?」
「それが……」
 先生が僕から視線を外す。


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