アニメーション監督の山本寛さんによる、アニメの深奥にある「意志」を浮き彫りにする連載の第23回。
今回は、今夏公開の細田守監督の劇場最新作『竜とそばかすの姫』について取り上げます。業界が求める「ポストジブリ」の国民的アニメ監督としての期待は、『サマーウォーズ』までは発揮されていた細田監督の作家性を、どのように剪定してしまったのか?
山本寛 アニメを愛するためのいくつかの方法
第23回 「ジャリ番」の天才が目指した「作家性」-『竜とそばかすの姫』
今まで一度だけ、細田守監督に会ったことがある。
吉祥寺の居酒屋だっただろうか、かなり長時間話をさせてもらった。
当時僕は『らき☆すた』(2007)を降板させられ、細田監督は『時をかける少女』(2006)のヒットでやっと上昇気流に乗った時期、対照的だった。
僕は京都アニメーションを辞めようと決意していた。その僕の話を黙って聞いていた細田監督は、こう返してきた。
「ヤマカンさ、今は我慢して、粛々と目の前の仕事こなした方がいいんじゃない? チャンスはいずれ来るからさ」
それは以前の細田監督の自分自身を投影していた。彼もそう言っていた記憶がある。
『ハウルの動く城』でジブリに意気揚々と出向してからの降板劇、東映アニメーションに出戻ってからの燻り、そして退路を断って東映を出てからの『時かけ』の成功。
経緯は似ていた。
しかし、僕はそのアドバイスを聞くことなく、京アニを去った。
さて、今回は彼の最新作『竜とそばかすの姫』(2021)を取り上げる訳だが、僕はあの時の細田監督の言葉が、いろんな意味で頭から離れない。
その理由を少しずつ詳らかにしてみよう。
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