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(ほぼ)毎週月曜日は、ドラマ評論家の成馬零一さんが、時代を象徴する3人のドラマ脚本家の作品たちを通じて、1990年代から現在までの日本社会の精神史を浮き彫りにしていく人気連載『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』を改訂・リニューアル配信しています。
1990年代ドラマの寵児だった野島伸司と、入れ替わるように台頭してきた堤幸彦。1995年に「土9」枠で手がけた『金田一少年の事件簿』は、以降のキャラクタードラマの時代を先駆けた画期的な作品となりました。

成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)〈リニューアル配信〉
堤幸彦とキャラクタードラマの美学(1)──『金田一少年の事件簿』は何を変えたか(前編)

1995年の『金田一少年の事件簿』

 1990年代後半、失速する野島伸司と入れ替わるようにテレビドラマの世界で頭角を現しはじめたのが、『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系、以下『金田一』)でチーフ演出を務めた堤幸彦だった。

 『金田一』は少年マガジン(講談社)で連載されていた人気ミステリー漫画をドラマ化した作品だ。横溝正史の推理小説『八つ墓村』や『悪魔の手毬唄』に登場する名探偵・金田一耕助を祖父に持つ高校生・金田一一(はじめ)が主人公となり、行く先々で起こる殺人事件を探偵として解決していく。

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『金田一少年の事件簿』

 1995年4月にSPドラマ『金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件』として放送された本作は7月から連続ドラマが放送。その後、SPドラマ、第二シーズンが放送されたのちに映画化されて大ヒットとなり、堤幸彦は日本テレビから社長賞を受け取っている。
 堤が手がけた『金田一』シリーズはここで終了したが、その後も『金田一』は二度もリブートされる人気シリーズとなっている。

『金田一』が切り開いたティーンズドラマ

 『金田一』は様々な意味で画期的な作品だった。
 本作が放送された日本テレビ系土曜9時枠(土9)は、もともと『池中玄太80キロ』や『熱中時代 刑事編』などが放送されていた老舗のドラマ枠だった。しかし1988年に土曜グランド劇場として、リニューアルして以降は、当時流行っていたトレンディドラマテイストの女性をターゲットにした作品を作るようになる。堤幸彦も演出として秋元康が企画した『ポケベルが鳴らなくて』や『そのうち結婚する君へ』といったメロドラマを手掛けていたが、後発ゆえに苦戦し、他局との差別化に苦しんでいた。
 そんな中、野島伸司が企画した『家なき子』が大ヒットしたことで、ドラマ枠の方向性が大人向けの作品から10代のティーンエイジ向けの作品へと大きくシフトすることになる。その結果、生まれたのが少年漫画を原作とする『金田一』だった。(1)

 『金田一』が果たした役割はいくつかあるが、商業面においては、仕事と恋愛が中心だった日本のテレビドラマに、漫画やアニメを楽しんでいたような男性視聴者のマーケットを切り開いたことが大きな功績だろう。

 1970年代から80年代前半にかけては、人気刑事ドラマの『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)や松田優作が主演を務めた『探偵物語』(日本テレビ系)のような男性視聴者に向けた男臭いドラマが多かったが、80年代後半になりバブル景気が盛り上がっていくと、トレンディドラマのような社会で働く女性にとっての仕事と恋愛を描いたものが増えていった。その結果、いわゆるF1層(20~34歳の女性)に向けた作品がテレビドラマの中心となっていく。当時は邦画も低迷期だったため、若い男性の多くはハリウッド超大作か、漫画・アニメ・ゲームといったオタクカルチャーへと、関心が向かっていた。
 そんな状況下において、少年マガジンのミステリー漫画を原作とする『金田一』は、劇中の犯人を推理するというゲーム的な要素が受けて、普段はドラマを見ない男性視聴者からの支持を獲得したのだ。
 同時に、主演を務めたのが、ジャニーズ事務所に所属する男性アイドル(以下、ジャニーズ・アイドル)の堂本剛(KinKi Kids)だったため、アイドルファンの女性視聴者の取り込みにも成功している。
 つまり本作は、男性アイドルを主人公にした「アイドルドラマ」の始まりでもあったのだ。
 今でこそ、テレビドラマの主演をジャニーズアイドルが占めることは当たり前となっている。しかし、当時はSMAPの木村拓哉が『あすなろ白書』(フジテレビ系)等の恋愛ドラマに進出し始めたばかりの時期で、堂本剛も同じユニットの堂本光一と共に『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら〜』(TBS系)に出演していたが、それはあくまで例外的なもので、俳優とアイドルの距離は、今よりも大きく隔たっていた。本木雅弘が本格的に俳優業をスタートするのは、シブがき隊を解隊してからであり、アイドルでありながら俳優としても活動するというスタイルが成立するようになるのは、SMAPによってアイドルが歌、バラエティ、司会、俳優といった多ジャンルを横断しながら活躍できることが証明されてからである。


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