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会社員生活のかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動する大見崇晴さんが、日々の読書からの随想をディープに綴っていく日記連載「読書のつづき」。
いよいよコロナ狂騒曲が本格化していくゴールデンウィーク前。大林宣彦監督や岡江久美子氏など、昭和人が慣れ親しんできた文化スターたちの逝去の報が飛び交う中で、メディア越しのリアリティはどのように移り変わっていったのでしょうか。

大見崇晴 読書のつづき
[二〇二〇年四月中・下旬] コロナ狂騒とメディアを思う

四月十一日

 総理が出勤を七割減にすることを企業に求めたとのこと。感染防止策には出歩かないことが一番だから理解できなくもないが、よりにもよって休日である土曜日に要請することだろうか。

 新訳の『全体性と無限』のあとがきを読んでいると、当初予定では合田正人[1]と共同訳になるはずが、合田氏多忙にて単独の翻訳となったとの記載。

 大林宣彦[2]監督、死去の報。

[1]合田正人 一九五七年日本生まれ。哲学研究者。レヴィナスなどユダヤ人哲学者を多く研究している。日本におけるレヴィナスの紹介は、合田正人と内田樹によって進められた。

[2]大林宣彦 一九三八年尾道生まれ。映画監督。出生地である尾道を舞台にして三部作(『転校生』、『時をかける少女』、『さびしんぼう』)で知られる。角川書店で原作が刊行されている作品を映画化した、いわゆる「角川映画」と呼ばれる作品を多く手掛けた。

四月十ニ日

 星野源が「うちで踊ろう」[3]という曲を動画として発表して、これに楽器伴奏やコーラス、ダンスを合わせた映像にしてほしいと、コロナでも共演(コラボレーション)可能にすることを始めたのだそうだ。これに総理もやってみたという映像が話題だと言うので見てみたが、首相が自宅で佇む映像に星野源が劇伴しているような映像になっていた。多くの人が考えるようなコラボレーションではないのだが、誰か周りで止める人間はいなかったのだろうか。そう疑問を覚えることに、政権の人材不足が現れているような気がする。それに犬を政治家が映像に映すのなら、チェッカーズ・スピーチ[4]ぐらい、頭を使ったほうがよいと思うのだが。

 毎週楽しみにしている「相葉マナブ」、大ファンだというJUJUがゲスト出演していた。ハライチ澤部もアンジャッシュ渡部も盛り上がっていた。

 「ダーウィンが来た!」のアニメに、やり手の経営者として、ジェーン・ツー[5]というペンギンが出てきた。「美食探偵」、明智五郎の父親役が宮崎哲弥[6]という配役に意味のわからなさを感じる。山下友美『モンスターDJ』[7]シリーズの続編が発表されたと知る。

 『はじめて学ぶ法哲学・法思想―古典で読み解く21のトピック』を注文。

[3]「うちで踊ろう」 星野源(一九八一年生埼玉生まれ)が二〇二〇年四月三日にInstagramのアカウントでリリースした楽曲であり、動画。外出しづらいコロナ禍の状況で、動画を用いたコラボレーション(伴奏、ダンスなど)を呼びかけ、気の詰まる状況に開放感を与えた。

[4]チェッカーズ・スピーチ のちにアメリカ大統領となるニクソンが、一九五二年にテレビの前で行ったスピーチ。ニクソンは共和党の大統領候補だったアイゼンハワーの副大統領候補に選ばれかけていたが、資金面で保守系の支援団体の援助が多かった。ニクソンは物品の提供を受けたことはないが、支持者から受け取り、娘たちの愛犬となったコッカースパニエルのチェッカーズだけは例外で、また返すことができないと国民に向けて情に訴える演説を行った。この演説は自身に向けられた疑惑への具体的な釈明といえなかったが、この演説によって副大統領候補から取り下げられることを回避した。

[5]ジェーン・ツー 『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』などの著書で知られ、近年はラジオパーソナリティとして活躍するジェーン・スー(一九七三年生まれ)をパロディしたと思われるキャラクター。

[6]宮崎哲弥 博報堂社員であったが、「宝島30」への投稿からライター業を開始し、二〇〇〇年代を代表する論客となる。ブッディストとして著名であり、二〇〇〇年代には古書店で仏教書を集めている姿が散見されていた。有吉弘行がつけたあだ名は「インテリ原始人」。

[7]山下友美 薬剤師の傍らマンガ家業を始めた。「モンスターDJ」シリーズは、アメリカの地方ラジオ局でDJやスタッフが巻き起こすコメディ作品。ホラーシルキーVol.3で霊感DJが活躍する新シリーズを開始し、旧シリーズのキャラクターを登場させた。

四月十三日

 ベネッセとソフトバンクが共同でサービスしている学習教育支援アプリで一二二万人のID情報漏洩。ルイ十六世がネットトレンドになっていたので何事かと調べてみると、安倍首相がルイ十四世と皮肉られたことへの反応で、間違えて十六世と答弁したのが理由だそうだ。「朕は国家なり」で知られるルイ十四世を引き合いにして、国家を私有物のようにすることが立憲制と相反することと皮肉ったのだろう。それを理解していないか、ギロチンにはめられると日々感じてでもなければ、ルイ十六世とでも口にしない気はするけれど。もっとも日本で一番知られているフランスの国王は、『ベルサイユのばら』[8]の登場人物でもあった十六世のほうだろうけれど。

 寒いと思っていたら大雪警報が出ていた。

 読売新聞の速報記事で内閣支持率は四二%、不支持は四七%。

[8]『ベルサイユのばら』 池田理代子(一九四七年生まれ)が一九七二年に連載した少女マンガ。男装の麗人である主人公オスカルがフランス革命に巻き込まれ、また革命に加わっていく。宝塚歌劇団のレパートリーにもなり、長く愛される作品となった。池田理代子は連載当時、吉本隆明が主張した「自立」などを意識しながら執筆していたという。

四月十四日

 政府が一律補助へ反対の姿勢を崩していないが、補助金に格差をつけて、どうこうする時期でもなかろうに。時間をかけてでも差をつけたいのは、敵味方の色分けでもしたいのかとうがってしまう。赤江珠緒[9]アナ、コロナ罹患の疑いがあるため、外山惠理[10]アナが「たまむすび」の代打。外山アナは気取らないひとで、永六輔立川談志爆笑問題稲垣吾郎と取り扱いが面倒なひとともストレートに接してきたので知られているが、それも関東ローカル局を中心にしてのことなので、こうした代打を機に、だんだんとそれ以外の地域にも知られるのだろうかと感じたりもした。

 首相への質問があまりにもなっていないものばかりだから、大川興業の大川豊総裁に取材の仕方でも聞きに行ったらどうかと思う。

 毎日新聞の「余録」。いい記事だった。荻原魚雷[11]さんが書かれたのだろうか。

 「火曜サプライズ」、ウエンツ瑛士帰国の放送。山瀬まみさんが年を追うごとに赤毛のアンみたいになっている気がする。

 一律補助金、どうやら支給されそうだが、官邸主導ではなく自民党二階幹事長と公明党の後押しあってのこととの報道。

 元阪神の片岡篤史がコロナに感染、入院。しかし片岡も日ハムではなく阪神の野球人という印象が強くなってしまった。

[9]赤江珠緒 一九七五年生まれ。アナウンサー。報道番組やワイドショーの司会と並行して、自身がメインパーソナリティである「たまむすび」(TBSラジオ、二〇一二年四月~)で人気を博す。授業中にミロを食べているところを、教師にバレそうになると校庭にバラマいて事態を隠蔽するなど、奔放な人物。

[10]外山惠理 一九七五年生まれ。TBSアナウンサー。ラジオ番組の生放送中にバランスボールに座っている。『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』で長期に渡って永六輔のアシスタントを務め、晩年に近づき滑舌があやしくなった永六輔の発言を翻訳して放送を成立させていた。爆笑問題と浅草キッドの二組が不仲であることを知らず、自然体で二組とのやりとりをまとめたことで、冷戦状態にあった仲を緩和させた。また、永六輔の番組や、立川談志の番組でナレーションを担当していたこともあり、伝統藝能の演者との交流もあり、二〇〇〇年代の藝能を語る上で欠かせない人物である。

[11]荻原魚雷 一九六九年三重県生まれ。明治大学文学部中退。編集者、フリーライター。高円寺と古本に関するエッセイと書評で知られる。初の著書は『借家と古本』(二〇〇六)であるが、これは国際標準図書番号がない、同人誌形式のものである。国際標準図書番号が付いた初の著書は『古本暮らし』(二〇〇七)である。『古本暮らし』は「あとがき」にもあるように、編集者中川六平の依頼で本となった。中川六平は「ベトナムに平和を!市民連合」の参加者で、のちに東京タイムズ記者・編集者となった人物であり、坪内祐三の初の著書も彼の手によるものだった。岸田國士の間接的な弟子とも言えた編集者・作家である古山高麗雄と雑誌の取材で出会い、晩年の語り相手を務めた。古山高麗雄の手に入りづらいエッセイをまとめた『編集者冥利の生活』では、解説を担当している。

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