2000年代初頭にコクヨ社員になり、IT普及の黎明期に「インターネット通販ビジネス」の部署に配属された坂本崇博さん。そこでの「ちょっとした働き方改革」の工夫を振り返るところから、どうすれば日本全体に「My WX(私の働き方改革)」を普遍化していけるのかという課題について、いくつかの手がかりが見えてきました。
すなわち、自分の欲を掘り下げて我が道を見出す「ワガママさ」と、ネットの恩恵もフル活用しつつ「学び」についての認識・行動を変えることです。これらの武器を、(意識の高さによらずに)いかに進化させていけるか。坂本さんのさらなる自己検証が続きます。
坂本崇博『(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革』
第8回 これが私の働き方改革道(後編:Cパート)
コクヨにおける私の働き方改革 新規プロジェクト編
2004年、新人ながら「ちょっとした働き方改革」を進め始めた私に、突如「異動」が告げられました。
異動といっても「レンタル移籍」という体裁で、社内で1年ほど前に発足したあるプロジェクトの増員メンバーとして途中参加することになったのです。そのプロジェクトとは、コクヨとして顧客層別に複数立ち上げていたインターネット通販ビジネスモデルたちを総合的に扱い、顧客の課題・ニーズに合わせて適したモデルを提案する拡販プロジェクトでした。
基本的な活動プロセスは従来と大きく変わらず、企業に訪問し、商談をして、提案をするのですが、提案する商材が従来は1つのネット通販システムだけだったのが、「コクヨの通販モデルすべてから最適なものをお勧めする」という形式に変わったわけです。ある意味「数打てば当たる」ので、とにかく件数多く回ることが重視されるビジネスでした。
そのため、プロジェクトのメンバーたちは、前の部署以上に日中は出ずっぱりになっていました。朝から夕方まで、1社でも多くのお客様に訪問して商材PRや提案をすることを目指し、「活動量目標」という指標を立て、訪問件数や提案件数を競い合っていました。まさに人海戦術です。
メンバーは体育会系な人も多く、重たいカタログを何冊も鞄に詰め込み、文字通り「足で稼ぐ」スタイルによってふくらはぎのヒラメ筋が隆々としているように見えました。
そこに配属になった私はすぐに気づきました。「これは定時に帰れない」と。しかもそれだけではなく「体力が持たない」という危機感さえ覚えました。引き篭もりにとってはなんとも過酷な状況に陥ったわけです。
営業ノルマも達成したいし、早く帰ってアニメも観たいし、体力も使いたくない。このトリレンマに直面した私は、いったんはアニメを諦めようと決心しました。
しかし、諦められませんでした。
2004年前後と言えば、深夜アニメの勢いが急拡大していたころで、1クール(3ヶ月)で多いときには40本近いアニメが放映されていました。かつ、東京に転勤になっていた私はこの頃から「コミケ(コミックマーケット)」にも参戦するようになっていましたので、現在放映中のアニメをウォッチしておくことは、コミケをフルに楽しむ上でも不可欠のミッションだったのです。
営業ミッションとコミケのミッション、2つの使命に板挟みになりながら、日々逞しくなっていく足腰。ある意味コミケで戦う上でも足腰はとても重要なのでそれはそれで良かったのですが、何より時間がとれないことは致命的な問題でした。
そこで、まずはこのプロジェクトの営業プロセスについて考えることにしました。ノルマの達成を成果としたときに、どういう図式によって成果が左右されているかという分析です。
それは割とシンプルで、「初期リーチ顧客件数×見積もりステップへの移行率×見積もり提出後の受注率」という数式で表すことができました。そして、過去の自分の見積もりステップへの移行率やその後の受注率は、概ね50%くらいでした。もしノルマが月5件受注だとするなら、初期リーチ顧客として月20件に当たる必要があったわけです。
これが、メンバーみんなが毎日せっせと外回りをしている理由でした。1日3社に訪問するとしてそのうちの1社が新規の初期リーチ顧客とするならば、1ヶ月で20社に新規リーチできてノルマの5件を達成できるということです。もし1日4社に訪問できるとすると、新規リーチ顧客数は1日1.3社となり、1ヶ月で26社に新規リーチできることで、最終的に6社の受注を得られる(ノルマ達成率120%)という計算です。
当たり前と言えば当たり前の構図なのですが、プロジェクトメンバー全体としてこの「初期リーチ件数」を最大化すべく、日々の訪問件数を増やすことに躍起になっていたのです。
そんなとき、ふと思いついたのです。「日々足で稼ぐ外に初期リーチ顧客を増やす道はないのか?」と。そうして、1日単位での訪問件数ではなく1ヶ月単位の合算値で考えれば、月に1回まとめて多くの初期リーチ顧客にアプローチするという方法もアリなのではないかと考えたのです。
これが、「会いに行く営業から来てもらう営業へ、営業としてのやる事のシフト」、すなわちセミナースタイルによる初期リーチ顧客への効率的アプローチというアイデアの元になりました。
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