ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。最終回の前編となる今回は、本連載が辿ってきた、平成のテレビドラマ史を総括します。世相の移り変わりやメディア環境の変化の中で発達してきた日本のテレビドラマ。その黄金時代とも呼べる15年間の過程と到達点について改めて考察します。
あと2回でこの連載は終わるのだが、最後に改めてこの連載の趣旨と2010年代のテレビドラマ総括。そして2020年代のテレビドラマ、もとい配信も含めた総体としての連続ドラマがどのような方向へと向かうのかについて、まとめておきたい。
まず、この連載は「95年から2010年にかけてのテレビドラマについて書かないか?」という依頼からスタートしたと記憶している。
その際に、筆者が考えたのは、2013年に出版した『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)で、あまり触れることができなかった脚本家や演出家について言及し「この時代(今、考えればそれは平成のテレビドラマ史を振り返ることとイコールだったと言える)のテレビドラマで何が起きていたのか?」を検証することだった
その時に、まず書いておきたいと思ったのが脚本家・野島伸司である。
野島伸司は90~95年を象徴する脚本家であると同時に、企画として参加した『家なき子』(日本テレビ系)で漫画やアニメの表現手法を実写ドラマに落とし込むキャラクタードラマを準備した脚本家だ。つまりこの連載で語られるクロニクルの前史を代表する脚本家である。
『家なき子』の成功によって同作を放送していた土9(日本テレビ系土曜9時枠、現在は10時に移動)は漫画原作をジャニーズアイドル主演で制作する、10代向けのジュブナイルドラマへと路線変更し、独自の道を歩み始める。
そのはじまりとなる『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)のチーフ演出を担当したのが堤幸彦だった。
彼が持ち込んだトリッキーな演出手法とミステリードラマというフォーマットは、その後のテレビドラマに大きな影響を及ぼし、テレビドラマの風景を書き換えてしまったと言っても過言ではないだろう。
MVやバラエティ番組、ドキュメンタリーといった他ジャンルから持ち込んだ映像手法を巧みに組み合わせることで生み出された野外ロケを駆使したカット数の多い映像は、まるでリミテッドアニメのようで、漫画やアニメのエッセンスを取り込んだキャラクタードラマというジャンルを演出レベルで開拓していった。
その映像は『ケイゾク』(TBS系)以降は、バブル崩壊以降の先行きが見えない不安定な時代を象徴する独自の美学へと昇華され、映画とは違うテレビドラマ独自の映像作品へと昇華されていった。そんな堤の演出論と彼が作品を通して何を描いてきたのかを記述すること。それは前著では踏み込めなかった「映像としてのテレビドラマ論」であり、今回の連載でもっとも書きたいことだった。
そして最後に登場するのが、堤が演出した2000年の連続ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)で脚本を手掛けた宮藤官九郎である。
宮藤について書いておきたいと思ったのは、執筆のタイミングが2019年の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック~』(NHK)と重なったからだが、何より彼が現在のテレビドラマを象徴する脚本家だからだ。
宮藤については、前述した『キャラクタードラマの誕生』の中でも一章を割いているが、そもそもこの本自体、同年に大ヒットした連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あまちゃん』(NHK)ブームがなければ企画が通らなかった評論だったと言える。
更に言うと、筆者の初の単著となった『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)はジャニーズアイドルの俳優論を彼らが出演したドラマ評をまとめたものだ。この本もまた、アイドルグループ・嵐の人気が高まっているどさくさで出版された新書だが、彼らが出演した『木更津キャッツアイ』や『流星の絆』(ともにTBS系)といった宮藤が脚本を手掛けたテレビドラマが評論の主軸となっている。
その意味でも筆者のドラマ評論と宮藤官九郎の存在は、切っても切り離せないものであり、2010年代を締めくくるドラマ評論の最後に宮藤が改めて登場するのは、必然だったと今は思う。
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