本記事の一部の表現に誤りがあったため、修正致しました。記事をお読みくださった皆さまにはご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。【4月19日9時50分追記】
2018年3月24日(土)、地方創生の貴重な成功例として注目を集めている能登町・春蘭の里と山菜アドバイザーの荻田毅さん、そして宇野常寛の異色の(!?)コラボレーションイベントがNPO法人・ZESDAの主催により実現しました。世界農業遺産に登録された奥能登里山の山菜料理を実際に味わいながら、それぞれの視点から地方創生の可能性を探った本イベントの様子をレポート形式でお届けします。全文無料公開です。
春も近づくある日、弊誌編集長の宇野常寛はNPO法人のZESDAから舞い込んだある依頼に、しきりに首をかしげていました。「まさか人生で山菜のイベントを経験するなんて……。山菜だよ!? このコラボレーション、いったいどうなるか全くわからない……」
今回は、3月24日(土)に開催されたZESDA主催、地方創生の貴重な成功例として注目を集めている能登の山里・春蘭の里、山菜アドバイザーの資格を持つ荻田毅さん、そして宇野常寛がコラボレートした「山菜の、知られざる魅力」イベントをPLANETS編集部がレポートします!
イベントが開催されたのは、東京都墨田区にある向島百花園。
四季折々の草花が鑑賞できる日本庭園として、東京の中でも有数のお花見スポットです。
▲向島百花園内に咲いていた椿。残念ながら桜はまだつぼみでした。
さっそくイベント会場である、「御成座敷」を目指します。こちらは古めかしい長屋づくりの建物で、とても趣があります。
春蘭の里に学ぶ、地方創生の可能性
まずは、今回のイベントを企画したNPO法人ZESDAの瀬崎さんから、同組織と今回の企画意図について説明がありました。
▲今回のイベントを企画されたNPO法人ZESDA 瀬崎さん
「ZESDAは一言で言うと、都内のプロボノ系のNPO法人です。それぞれ本業は別にあるけれど、それだけだと物足りない、他のこともやってみたい、という人たちが集まって、日本のためになるようなことをやろうと様々な活動をしています。現在は官公庁や食品メーカーなど、様々な業種の人が所属しています。
1年ほど前にうちのスタッフが春蘭の里に訪問する機会がありました。その中で、『このような地方創生のかたちは他の場所にも適用できるのでは』と考え、今回のこのようなイベントを企画しました」
ZESDAは「プロデューサーシップ」をキーワードに、有識者の講演会の開催や、セミナーなどの活動を展開しています。地方創生の意欲的な取り組みへの支援活動も多く、インターネットを中心とした広報、諸外国への情報発信、クラウドファンディングの準備などでの協力を行っているそうです。今回の春蘭の里とのコラボレーションもその一環とのこと。
続いてはイベントの本題、春蘭の里をプロデュースされた、多田喜一郎さんのお話がありました。
▲多田喜一郎さん
多田さんは、1996年に春蘭の里実行委員会を立ち上げ、自らの地元、奥能登で農家民宿を開業しました。その後、春蘭の里に農家民宿はぞくぞくと増え、現在は年間1万6000人もの観光客が訪れる里となっています。
多田さんは農業という「産業」が再生しても、それ自体には意味がないと指摘します。重要なのはあくまで農村という「コミュニティ」とそこに残る文化なのだ、と。
「よく、どうしたら地方創生がうまくいくのかと聞かれるのですが、そんなとき私たちは農業の再生と農村の再生は別ですよという言い方をしています。農業を再生したければ、大規模に農地を拡大してやっていけば、できないことはない。でもそうすると、私達のように50軒くらいの集落には、ひとりしか人員がいらなくなってしまう。これでは農業は再生できるけれど、農村の再生にはなりません。いろいろな仕事の人がその地域に魅力を感じて、そこに集まってくれるような地域を作らなければ、農村の再生、本当の日本の地域創生にはならない、と私は思っています」
こうした考えに至るまでには、失敗もあったと多田さんは語ります。
「最初は、農作物を出荷することで地域の活性化を目指しましたが、1年目で失敗しました。なぜなら、農協の手数料が高いから(笑)。そこで、作物を外に売るのが駄目なら、人に来てもらってお客さんとしてお金を出してもらおう、と発想を転換したのが民宿のはじまりでした」
現在、春蘭の里には約47軒の農家民宿があります。通常の民宿とは異なり、これらの農家民宿を訪れた観光客は、薪割りや山菜取りなどを実際に体験し、自分たちが収穫した山菜などをその日のうちに食べることになります。この土地の農家の日常生活をそのまま体験することができるというユニークな試みが内外の大きな反響を呼ぶことになりました。
多田さんが営む春蘭の宿では「食事には土地のものしか出さない」「1回のお客さんに対して宿を必ず貸し切りにする」といった決まりがあります。こうした特徴は、「他地域との差異化」を意識して生まれたものだと多田さんは言います。
「どんな民宿にしようかと考えたとき、せっかく何もないところに来ていただくのなら地域の特徴を出そうじゃないかと思い至りました。そこで、昔から地域にある輪島塗でご飯を食べてもらう、地域でとれたものしか出さない、砂糖や化学調味料で味付けしない、という取り組みをしました。その『違い』が認められたのか、予想以上に人が来てくれるようになりました」
現在では、海外観光客の反応も大きくなってきているそうです。
「外国からいらしたお客さんから、ホテルに泊まれば、ニューヨークもパリもどこも同じだという話を聞きました。だからこそ、彼らは日本に来たら、日本の地域文化に触れようとするし、そういう雰囲気に触れることのできる田舎に行きたい、と言ってくれる。春蘭の里の民宿でも、多いところでは年間1000人の外国人観光客をお迎えしています」
今後、英語が話せる若者を多く呼び込んで、春蘭の里をより大きくしていきたい、と意欲を見せました。
自分で行って取る過程が、山菜を美味しくする
続いての第2部は山菜アドバイザーの荻田毅さんの講演です。
▲ご自身の経験について語る荻田さん
「もともとは15年くらい前に、きのこアドバイザーという資格をとることからはじめました。そのときですね、登録のためには1週間の研修を受けなくちゃいけないということになりまして、ちょうど仕事の決算期とかぶったので、退職願を申請しましてきのこアドバイザーになることにしました。その後、だんだんときのこだけだと中途半端と言いますか、山の幸といえば山菜もありだな、と思うようになりました。そんなとき山菜アドバイザーという資格が始まるということを耳にして応募しましたところ、受かった人は志願書を出した順に登録されるということで、たまたま1番に登録されたという次第でございます」
山菜についてひょうひょうと、しかし熱く語る荻田さん。
「今日は自分がガイドしているという感覚でお話したいと思います」
荻田さんは類似している山菜の写真を1ページごとにまとめた資料を使いながら、約40分の講演の中で1種類ずつ丁寧にレクチャーをしてくださいました。
締めくくりには、こんなお話をしていただきました。
「山菜は自分で探して取って食べるから3倍増でうまいんですよね。実は私だって、ただ食べるだけなら野菜の方がうまいと思うんですよ。自分で行って、取って、というその過程が山菜を美味しくするんです」
能登の味覚を堪能。豊富な海の幸、山の幸に舌鼓。
そして、ついに宇野が登壇する第3部。
ここで配置換えが行われ、座卓とともに色とりどりの山菜が次々と運ばれてきました!
▲美しく盛られた山菜の煮付け。「右から、こごみ、みずぶき、のぶき、しいたけ、人参、たけのこ、そして左にあるのがブリのかぶら寿司です。麹を使わず、米だけで発酵させることによって、中のブリがピンク色になり、芳醇な香りになります」(多田さん)
▲第3部開始! 講演を総括する宇野と、奥能登の素晴らしい料理を味わう荻田さん。
美味しい料理とお酒を前に、宇野が講演を総括します。
「例えば『地方創生』と言うと、お役所は『ゆるキャラ作ろう、B級グルメをつくろう、地元発のサッカーチームを作ろう』というような発想をしてしまうんですね。でも僕はそれは違うと思う。
大抵の人が思い描く『地方創生』って、要するに田中角栄の『日本列島改造論』に書いてあったような、国土の均等な開発をやっていた時代に戻る、ということだと思うんです。その結果、見た目の人口は増えたのかもしれないけれど、僕に言わせればその結果日本中どこにいっても同じような工場と団地と駅前の商店街アーケードばかりになってしまった。だから、あの頃の『地方』に戻すのではなくて、本来の地方を取り戻すことで『創生』をするべきだと思います。無理に人口1万人を維持するために工場を呼んでも仕方がない。それよりは人口は1000人で、100万人のファンがいる都市を作ればいいじゃないか、と思う。土地と文化が残ることこそがほんとうの意味で地方が生き残ることなんですよね。そんな中で、多田さんは実際に結果を出して、日本全国に啓蒙活動を行っている。頭が上がらないな、と思います」
荻田さんのお話を受けて、宇野はこう語ります。
「ただ良い〈モノ〉を消費するだけなら、アンテナショップで十分なのが現代。皆〈コト〉を消費することが楽しみなのだと思います。よく言われてますが、「〈モノ〉から〈コトへ〉」と言われる時代で、コピーできてしまう〈モノ〉は皆、満たされているんですよね。自分だけの体験はコピーできないから、皆体験を欲しがっている。荻田さんの『山菜は自分で取って食べるからこそ美味しいんだ』というお話も、これにつながってくるんじゃないかと思います」
▲宇野の話に深く頷く一同。
総括の途中ですが、場も温まってきたところで多田さんの音頭により、乾杯です!
▲乾杯の前に、日本酒「純米吟醸 春蘭の里」を解説する多田さん。
▲純米吟醸 春蘭の里
こちらは春蘭の里の酒造で女性杜氏が作っているお酒だそう。甘口で、口にふくむと華やかな香りがいっぱいに広がります……! 店舗には流通しておらず、各民宿にしか置かないようにしているのだとか。
乾杯後にでてきたのが、大皿に盛られた様々な種類の山菜のてんぷらです!
▲山菜のてんぷら
どれも驚くほどアクがなく、サクサクとした食感がたまりません。しかし、どれがどの山菜なのか、まったくわからない……。荻田さんを呼んで説明していただきます。
▲各テーブルに呼ばれて、山菜のてんぷらについて説明をする山菜アドバイザー・荻田さん
「これがノビルで……これはなんだろう?ちょっと食べてみていいですか?」(荻田さん)
名前のわからない山菜に首をかしげている最中にも、次々とお料理は運ばれてきます。
▲奥左からタラの子付け(タラにタラコがまぶしてあります)、イカ、クジラ、ブリ
▲能登半島の水で炊いたお米で握られたおにぎり
▲見たことがないほど分厚い海苔(1枚500円するそうです!)
▲てんぷらに添えられた粗塩も能登でつくられたもの。てんぷらに合うのはもちろんのこと、おにぎりに付けて食べると、お米が甘く感じられます……!
▲柿とナツハゼの実の焼酎漬け
目をみはるようなフルコースのお料理に、一同が舌鼓を打ちます。
地域の人の暮らしを守れるレベルのお金を稼ぐという発想
食事の最後の質疑応答の時間では、「地方創生」に向けた様々な質問が飛び交いました。
「やりたい気持ちは多くあるのに、SNSなどで情報を上手く拡散させるのは難しい。どうすればよいか」という質問に対して、宇野はこう答えます。
「まず第1段階として認知を広げてとにかく1回来てもらう。そして第2段階としてリピーターを増やす。第3にサポーターをつくる。この手順が重要です。よく日本全国で言われている『地方創生』というのは実はこの第1段階で終わっているものが多いです。今はクラウドファンディングというツールもある。ファンを囲って、持続的に資金を供給してくれるコミュニティをつくるべきだと思います。地方はプレーヤー不足という問題がありますが、こうすることで単にファンとしてお金を落としてくれるだけではなくて、熱心に協力してくれるサポーターが増え、プレイヤー不足を補うこともできると思います」
これには多田さんも「それはいいね!やります!」と意欲的でした。
また、会の最後にはこんな質問もありました。
「今日いただいたものは全て美味しくて素晴らしかったです。ファンを増やさなきゃいけないという話が出ていたと思うんですが、すごくおいしいもの、昔ながらのいいものって、数が数が限られているじゃないですか。例えば昔ながらの本当に良いお醤油とかが、TVに出たら即完売になってしまうというような現象があります。そうした中でどうやっていこうと考えていますか?」
この質問に対して、頷く多田さん。
「そうなんですよ、私が良いと思っているものって、今も人がたくさん来たらぶわっとなくなるの」
宇野はこう答えます。
「いや僕、それでいいと思うんですよ。少ししかないからいいんじゃないですか。別に京都やローマになろうっていうんじゃないんですよ。さっき言ったように、年収600万や400万の民宿を育てたいというプロジェクトなわけであって、別に観光で一大産業を打ち立てようってわけじゃない。そうじゃなくて、地域の人達の暮らしや、昔ながらの文化を守れるレベルでお金を稼げれば僕はそれで十分だと思います」
これには多田さんも強く賛同します。
「私も、そう思いますわ! 今、私が経営している加工所がありまして、そこで今メンバーズクラブを作って発送できるようにしたいと思っております。できあがったらぜひ買っていただきたいです。私はやっぱり昔食べた『ほんまもの』を追求して、みなさんに食べてもらうということをやり続けていきたいと思います!」
現在、春蘭の里の英語版サイトをZESDAが製作中だそうで、今後も国内外でさらにその知名度を上げていくであろう春蘭の里を見逃すことができません!
▲参加者全員で記念撮影!
多田さんによる地方創生のヒントを得ることができる貴重なお話、山菜アドバイザー・荻田さんによる山菜の詳細な説明を聞いた後に、「ほんまもの」の山の幸、海の幸を存分に堪能できる、3度おいしいイベントに一同はほくほくしながら帰路につきました。
(了)
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