毎週月曜日は「PLANETSアーカイブス」と題して、過去の人気記事の再配信を行っています。今回の再配信は、政治論集『民主主義を直感するために』(晶文社)や『中動態の世界 意志と責任の考古学』(医学書院)の著者である哲学者・國分功一郎さんと本誌編集長・宇野常寛の対談です。中編では「直感」という言葉を巡る議論や、いまのリベラル陣営に欠けているリアルポリティクスに基づいた政治観について語り合います。(構成:中野慧)※本記事は、2016年 4月26日に放送されたニコ生の内容に加筆修正を加え、2016年6月3日に配信した記事の再配信です。▼放送時の動画はこちらから!放送日:2016年4月26日
本記事の前編はこちらから。
「民主主義を直感する」とはどういうことか
宇野 「アメリカ大統領選をどう見るか?」ということを國分さんと話してみたかったんです。共和党はドナルド・トランプ、民主党はバーニー・サンダースという、今までだったら泡沫候補だったような人物が支持を受けているわけですよね。
國分 うん。これは宇野さんも感じていることじゃないかと思うんだけど、トランプとサンダースの2人を支持している人たちの階層って重なっているんだよね。
宇野 リーマンショックによって職を奪われた世代による、ある種の格差批判が背景にあるということですよね。
國分 トランプは絶対に許してはならない差別発言をたくさんしているけど、彼の支持者層にあるのは、エスタブリッシュメントが政治を独占していることに対する強い反感だと思います。「ヒラリーとか民主党の主流派は偉そうなことを言っているけど、結局は大企業からお金をもらっているじゃないか」、と。それは民主党陣営でサンダースが支持を集める構造と非常に似ている。
宇野 要するに「成熟したリベラル」という立ち位置のヒラリーが、本音主義のトランプと学生のサブカルチャー的な支持を背景にしたサンダースに足元を掬われそうになっている。
で、ここからが僕の意見ですけど、仮に今の日本でみんなが「民主主義を直感」して投票率が85%ぐらいになったら、自民党が大勝して3分の2の議席を獲得し、あっさりと憲法改正されて終わる、みたいな世界になりますよ。なぜなら半径5Kmより先に左翼の言葉は届いていないからです。
僕にはここ数年のローカルなデモの盛り上がり程度で高い市民意識に目覚めて急にリベラル勢力に投票するようになったりしないと思う。もしリベラル勢力が次の選挙で勝つとしたら、アベノミクスが失敗して経済不満が高まるぐらいしか可能性はないと思います。
國分 まあ、そういう可能性がないとはいわないが、安保はともかく原発の問題だったらみんな普通に政府の方針に反論するんじゃないの。生活に直結しているし。
宇野 いや、むしろ旧来の左翼的なものが参加したことで、震災後の反原発運動は衰退したんじゃないかって僕は思っているくらいです。大多数の国民は現状の左翼の運動に対して良くも悪くも「なんかやってんな、あいつら」としか思っていないですよ。それは左翼の側が「生活の欲求」と「義の欲求」を結びつけることに失敗しているからでもあるし、逆に言えば抽象的で捉えづらい巨大な問題に対する感性が、国民全体で鈍ってしまっているからだとも思います。
アメリカって日本よりも民主主義が直感しやすい状況にあるわけですよね。大統領選にはある種のゲーム性がありますし、オバマ初当選時にはネットを使った草の根の市民運動が盛り上がった。でもそれこそ「民主主義が直感しやすくなった結果」醜悪な本音主義によってポピュリズムを起こそうとするトランプと、学生のサブカルチャーの延長線上でなんちゃって社会主義をやるサンダースが急速に支持を拡大している。もし同じように日本で民主主義が直感しやすくなったら、単に自民党が大勝するだけですよ。
國分 いまの宇野さんの話で何を言ったらいいか分かったんだけど、「直感」という言葉を少なくとも俺はそういう意味では使っていない。俺が強調しておきたいのは、「直感というものは具体的でなくてはならないし、具体的だ」ということ。今のトランプは全然具体的じゃない。「どこかに悪者がいて、悪いことをしている」という、曖昧な「物語」になってしまっている。
たとえば辺野古の海で海上保安庁の職員が抗議活動を行っているカヌー隊に対してどれほど危険な取り締まりを行っているかとか、小平の道路がいったい何を破壊するのかとか、パリのデモがどんな雰囲気で行われているのかとか、遠くで起きていることが具体的にイメージできるようになると、単なる「物語」では満足できなくなる。そのときにようやく、みんなが物事を考えるようになっていくんじゃないか。そういうことに期待しているんです。
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