チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、現在チームラボの作品を展示している、北京や長崎県大村市、佐賀県の御船山楽園へと宇野常寛が実際に訪問し、猪子さんと語り合いました。前編では、「DMM.プラネッツ」とは別のアプローチで集大成となった北京での展示の全貌と、宇野の故郷の一つである長崎県大村市で開催中の展覧会について語り合います。(構成:稲葉ほたて)
北京の個展はチームラボの集大成?
宇野 今日は、先日僕が訪問した、北京のPACE BEIJINGで開催中の個展「teamLab: Living Digital Forest and Future Park」の話から始めたいな。僕の感想を言う前に、まずは現地の人たちのリアクションを聞いてみたいのだけど。
▲チームラボは、10月10日までPACE BEIJING (北京)にて個展「teamLab: Living Digital Forest and Future Park」を開催している。画像は展示作品の一つ「花の森、埋もれ失いそして生まれる」。
猪子 それがすさまじかったの! オープン前に前売りが2万枚も売れて、連日すごい行列になっているんだよ。中国のメディアもすごい来てくれたし、ロイター通信やCNNのような国際的なメディアも来てくれて!
▲『菊虎』
猪子 それに、中国で最も作品が高いアーティストの一人と言われている人も来てくれて、『お絵かき水族館』で絵を描いて遊んでるわけ! 自画像つきで、魚を描いてくれたりして、とても嬉しかったな。
宇野 僕が今回、なによりも話したいのは、展示会場の空間全体を包んでいた新作『花の森、埋もれ失いそして生まれる』についてなのだけど、猪子さんとしては、どういう感触なの?
猪子 これは、展覧会全体の空間そのものが一つの作品になっていて、複数の季節が空間全体に同時に存在しているんだよね。そしてその季節の移り変わりに合わせて、花々が、ゆっくりと場所を移り変わっていく。だから、自分のいる場所がさっきまでいた同じ場所なのか、わからなくなるんだよね。
だから、「森で迷子になる感覚」って前回話したけど、方向感覚を失って作品に埋没することによって、まるで自分が大きな世界の一部であるかのような感覚を創りたかったんだ。そして、迷いながら個別の作品を見て行ってほしかったんだ。タイトルの「埋もれ失いそして生まれる」には、そういう意味を込めたんだよね。
正直、この新作は実験作だったから不安もあった。というのも、そのコンセプトのわりに実は敷地面積があまり広くなくて、同時開催の遊園地まで合わせて1500平米だったの。「 DMM.プラネッツ Art by teamLab」(以下、「DMM.プラネッツ」)は3000平米とかだから、半分にも満たないんだよ。
ただ、いざやってみると想定していたよりもうまくいったと思ったんだけど……宇野さんはどうだった?
宇野 まず僕はこの企画自体がちゃんと成功していることにびっくりした。前回、コンセプトを前もって聞いてたんだけど、正直どうなるかが全然想像できなかったんだよね。というか、ぶっちゃけコンセプト倒れの可能性もゼロではないと思っていたんだよ(笑)。でも、いざ入ってみたら、完全に再現されていて驚いた。猪子さんの狙い通り、方向感覚を失って本気で迷ってしまったよ。
猪子 でも実際は、それほど大きな空間ではないんだけどね。
宇野 いや、実感としては「DMM.プラネッツ」よりも全然広く感じたね。歩きだすと、すぐにどこが入り口だったか、本気でわからなくなる。そして気がつくと、またいつのまにか同じ場所に戻ってしまう。「あれ、この作品さっきも観たな」って感じで何度もループしてしまったよ。
人間って、方向感覚を意外と明るさや色彩とかで判断してるんだな、と実感したね。この作品では周囲の四季が移り変わっていくじゃない? 目の前に秋のゾーンがあったはずなのに、10分後には季節が移り変わって他の季節に変わっている。で、そのことを頭ではわかっているはずなのに、ついついどの花が咲いてるかを基準に空間を把握しちゃうから、時間が循環するとすぐに位置関係を見失ってしまう。前もってコンセプトを聞いておいて、タネも全部知ってたのに迷ったのは、逆にすごいよね。
猪子 いやあ、嬉しいよ(笑)。
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