新進気鋭のクリエイターたちを紹介する「invitation to MAKERS」。第5回は、VAQSO Inc.のCEO川口健太郎さんへのインタビューです。同社が開発した、VR用ヘッドマウントディスプレイに装着することでVRコンテンツと連動させた匂いを再現できる「VAQSO VR」の紹介とともに、VRコンテンツがもたらすイノベーションの可能性や香りがユーザーにもたらす心理的効果、まだ見ぬ未来への展望まで語っていただきました。(構成:高橋ミレイ)
▲VAQSO Inc. CEOの川口健太郎さん
――今回、「VAQSO VR」のお話をお伺いしたいと思います。まず最初に「VAQSO VR」の製品についてのご説明をお願いします。
川口 「VAQSO VR」はVRの映像やゲームコンテンツと連動して匂いが出てくるデバイスです。シューティングゲームの時に銃の火薬の匂いがしたり、恋愛ゲームで女の子に近づいた時に女の子の髪の香りを漂わせることなどができます。今までのVRコンテンツに匂いという感覚が付加されることにより、よりリアリティが高まったり不思議な感覚を体験することができます。私たちの会社VAQSO Inc.が2017年1月17日に設立され、その日に開催した記者向けの発表の記事が、世界約20カ国、約500媒体近くのメディアに掲載されて日本だけではなく海外でも大きく話題になりました。これまでのゲームで得られるユーザー体験は視覚情報と聴覚情報、コントローラーの振動の3つの感覚だけでした。今再現されていないのは、匂いの部分と味覚の部分です。我々はその部分を開拓できればと思っています。
「VAQSO VR」は、お菓子の「スニッカーズ」と同じくらいの大きさで非常にコンパクトなデバイスです。3箇所ある小さい穴から、あらかじめセットされたカートリッジから匂いが個々に出てくるようになっています。3種類のカートリッジをセットした時は、それぞれの香りが楽しむことができます。今さまざまなVRデバイスが出ていますが、「VAQSO VR」は、どのデバイスにも装着できます。たとえば「Oculus Rift」や「HTC Vive」「PlayStation®VR」といった少し高めでハイスペックなヘッドセットや、「ハコスコ」や「Google Cardboard 」のような簡易的なヘッドセットにも装着できます。
カートリッジについてですが、開発できる香りのラインナップはBtoB向けとBtoC向けの2通りあります。BtoC向けはあらかじめ既成の匂いを用意して、その中からお客さんが選びます。BtoB向けはクライアントに依頼された香りを作っていくオーダーメイドです。BtoC向けの発売は年内を予定しています。
――ありがとうございます。「VAQSO VR」は、どのような動機から開発されたのでしょうか?
川口 「VAQSO」という会社をアメリカに登記するまでは、「ZaaZ VR」という製品名でした。私が「ZaaZ」という匂い関係の製品やサービスをたくさん作っている会社を経営していましたから(「ZaaZ」と「VAQSO」は資本関係のない別会社)。その中で、VRが今トレンドですごく伸びてきているので、VRデバイスを作ったらいいと思って作りました。
――「ZaaZ」を設立した時から匂いへの関心を持って会社を立ち上げたのですか?
川口 そうです。最初に設立した「ZaaZ」は、私が大学6年の時に立ち上げました。その頃にチャールズ・ダーウィンの「種の起源」を読んで、インスピレーションを得て、生物もコンテンツも企業もオリジナルが一番強いという「オリジナル論」というロジックを作りました。たとえばフィンセント・ファン・ゴッホの絵を、パブロ・ピカソが同じように描いたとしても、ゴッホが描いたひまわりの絵をなかなか超えることができない。音楽でもThe Beatlesの曲を優れたバンドマンが同じように演奏したとしても、やっぱりオリジナルを超えた作品にするのは難しいと思います。これと同じことが、ビジネスでも言えると思っています。
ビジネスのオリジナルは人間の感情が動いた時に生まれます。その感情の源泉となるのが五感です。五感のうち、視覚に訴えるビジネスはメディアの産業や広告の部分など、味覚は飲食業、肌は美容やマッサージ、耳だと音楽などがあります。では嗅覚でどんなビジネスがあるか考えると、お香や香水、アロマセラピーなどがあります。嗅覚に関わるビジネスに共通しているのがBtoCのモデルだということ。ですから、まだ参入者が少ない匂いに特化したBtoBビジネスに可能性を感じました。その領域を切り開くためのキラーコンテンツが、いろいろな食べ物の匂いが出るデバイスです。それを自力で考えて作ることで会社になりました。
――過去の事例など何もない状態から匂いに関わる事業を起こすために、どのようなジャンルを勉強されましたか?
川口 私は4歳から10年ほどアトリエで絵を習っていたのですが、絵の具を混ぜることと匂いを作るのって似ているんです。たとえば、絵の具の赤と黄色を混ぜたらオレンジ色になりますが、オレンジ色にもいろいろなバリエーションがあります。絵をやっていると「この感じのオレンジ色を作りたい時にはこのくらいのバランスで色を混ぜればいい」というようなことがフィーリングでわかります。色と同じように、匂いはカクテルみたいにケミカルを混ぜて作っていきます。絵を習っていたことで、匂いの調合の感覚がわかりやすかったんです。
――匂いの元となる化学物質があって、それらをミックスするためのノウハウがあるんですね。
川口 そうです。ミックスしたものが香水でいうところの原液になります。それをエタノールで希釈した時の濃さによって、パルファムやオーデトワレになります。
――ビジネスが軌道に乗るまでは何年くらいかかりましたか?
川口 そうですね。2009年に始めたのが最初で、その頃はハードウェアやスタートアップという言葉が今ほどスタンダードではなく、「ものづくり」と言われていました。3Dプリンターもメジャーではない頃、最初はどういう風に作ればいいかを模索しながら設計を考えて、加工業者を自分で探して話を詰めていきました。
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