『らき☆すた』や『かんなぎ』で知られるアニメ監督・山本寛さんの、これまでの活動を総括するロングインタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」。第3回では、山本監督の作家性確立の契機となった『AIR』や、これまで公にされることのなかった『涼宮ハルヒの憂鬱』の制作秘話を伺いました。(取材・構成:高瀬司)
山本寛監督インタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」第3回 作家性の確立と『ハルヒ』の秘密【不定期連載】
――公には初披露となるだろう貴重なお話ありがとうございます。ここであらためてもう一度山本監督のお話に戻りたいのですが、『POWER STONE』ではじめて演出をやられてみて手応えはいかがでしたか?
山本 第10話の次が第18話だったんですが、ちょうど『天使になるもんっ!』(1999年)の演出助手の仕事と時期が重なってしまい、うまく回すことができなかったんですよ。それが原因で、そこから半年ほど演出を干されてしまって……。その間、制作進行のようなことをやらされたり、アニメーションDoという大阪にある関連会社に所属替え、というか実質左遷させられたりして、それが悔しくて「絶対認めさせてやる!」と、そこからは猛勉強ですよ。毎日必ず映画を観ることを自分に課して。家に帰るのは毎日だいたい23時くらいだったんですが、コンビニで買った飯をかきこんで、どれだけ眠くても必ず観る。4時までは必ず起きていて勉強する。そういう生活をつづけていましたね。
――ちょうどご自身の日記サイト『妄想ノオト』を書かれてた時期ですね。
山本 そうです、あのころは本当に荒れていましたね。いまと比べてもはるかに過激に、恨みつらみを書き散らしていましたから。でも口が減らないのはもうしょうがないんですよ。それが師匠の教えだし、自分の原動力にもなっているので。ただ、『妄想ノオト』は観た映画の備忘録としても活用していたので、あそこで一度文章にすることで考えをまとめたり、さらにあとから読み直すことであらためて思い返すことができたりと、プラスになった面も大きかったですね。
――あらためて当時ご覧になっていた映画を教えていただけますか。
山本 まずは黒澤明監督作品です。以前から好きでしたが、未見のものもあったので全作品を観ました。『どですかでん』(1970年)はその時期にはじめて観て、ものすごく影響を受けましたね。またちょうどそのころ、蓮實重彦さんの『映画狂人』シリーズ(2000-2004年)という映画批評書が刊行されはじめて、それを読み漁ったんですよ。そうしてこれまで敬遠していた小津安二郎も観るようになり、溝口健二やジャン=リュック・ゴダールといった監督の作品にもハマりました。
――カール・ドライヤーはいかがですか? 山本監督が立ち上げられた制作会社「Ordet」は、ドライヤー監督の『奇跡/Ordet』(1954年)から取られていますが。
山本 ドライヤーはもう少しあとですね。演出の仕事で東京に出張するようになってからです。ポストプロダクションは声優や音響監督のいる東京で行う必要があるので、必ず月に一度出張があったんですが、そのとき渋谷のユーロスペースという映画館で観ました。
――そのころ観られたもので、ご自身の作風に直接影響を与えた作家や作品というと?
山本 小津安二郎と北野武は大きいですね。僕のFIX主義はこのお二人からの影響です。それまでは木上さんの絵コンテを教科書に、背景しかないカットでPANしたり、キャラが会話しているだけなのにPANダウンしたり、そうしたいわゆるアニメ的なカメラワークで撮っていたんですが、途中で「これ意味あるのかな……」と思うようになって。黒澤明も「カメラが芝居するな。人物が動くからカメラが動くんであって、人物が止まったらカメラも止まれ」というようなことを言っていますよね。そんなとき、小津安二郎の作品を観て、本格的にFIXのよさに気づいたんですよ。それで、『AIR』(2005年)の絵コンテ・演出を担当したときにFIX中心に組み立ててみたら個人的にもすごく手応えがあって、そこで僕のFIX主義が固まりましたね。
――個人的にも『AIR』で担当された第2話・第5話・第8話は、山本監督のお仕事のなかでも一つの極北に位置づけられるように思います。
山本 演出家として一番脂が乗っていた時期ですね。FIX主義が固まり、またカメラワーク以外にも、それまでの僕の演出は、魚眼レンズっぽくパースを強調したり、エキセントリックなカッティングをしたり、変な間やテンポを作ったりして受けを狙っていたんですが、そういった装飾を全部剥ぎ取って、真摯に、誠意をこめて被写体と向き合うようにしたんです。だから『AIR』以前/以後では演出スタイルが大きく切り替わっているんですよ。自分では「ドキュメンタリー的」という言い方をしているのですが、その後の『Wake Up, Girls!』シリーズ(2014・2015年)まで受け継がれていくスタイルです。
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