『らき☆すた』や『かんなぎ』で知られるアニメ監督・山本寛さんの、これまでの活動を総括するロングインタビュー「いまだからこそ語るべきアニメのこと」。第2回は、京都大学を卒業後、京都アニメーションに入社し、天才アニメーターとして知られる木上益治氏に師事しながら演出助手を務めていた時期のお話を伺いました。(◎取材・構成:高瀬司)
アマチュアからプロの世界へ
――大学卒業後は京都アニメーションに入られますが、その経緯というのは?
山本 ある意味、タイミングが悪かったんですよ。『ルサンチマン』は大学4年時の秋の学園祭で発表したので、その前に内定は出てしまっていて。もう1年留年などしていれば、それこそ「DAICON FILM」が「ガイナックス」につながったように、自分たちで会社を立ち上げていたかもしれない。
春に行った就職活動では、第一志望は当然スタジオジブリで、そのほかサンライズや東映動画(現・東映アニメーション)、TV局などを受けたのですが、就活をしていくなかで京都にもアニメ制作会社があることを知って。当時の京都アニメーションは『クレヨンしんちゃん』(1992年-)の動画・仕上げで名前を見かけるくらいで、ほとんど存在感のない知る人ぞ知る小さな会社でしたが、せっかく同じ京都なのだからと軽い気持ちで受けてみたんですよ。実際行ってみたら、宇治の木幡(こはた)という何もない田舎に、いまある社屋へと建て替える以前の、掘っ立て小屋のような本社があって。それで面接にもTシャツ・ジーパン姿で行き、「ジブリの滑り止めに受けていいですか?」なんて聞くような生意気な態度で臨んだんですが、にもかかわらず八田(はった)社長は「いいよ」というんですね(笑)。
――山本監督に何か感じるところがあったということでしょうか。
山本 「こいつおもしろそうだな」と思ってもらえたんだと思います。それで本当に内定が出てしまい、そうなると今度は僕も義理を感じるので、他社も三次試験くらいまでは進んでいたのを全部断って。ジブリだけは約束どおり受けましたが、その年は動画と仕上げのみの募集だったので、演出志望だった自分は案の定不合格に。そうして大学卒業後は京都アニメーションに入社することになりました。1998年のことです。
――京都アニメーションへはどのような職種で?
山本 内定時で言うと、「制作・演出」ですね。面接では、自主制作で監督もやっているので、アニメーターとしてではなくゆくゆくは演出を、という話をしていたので。ただ、入った当初はやることがなくて、最初は撮影部に回されたんですよ。撮影台ではない、デジタル撮影部の第一号です。 「CoreRETAS」での作業だったのですが、これがまったくわからなくて(笑)。セルやレイヤー、タイムシートの扱いなど、自主制作を通じてある程度わかっているつもりではいましたが、かなり戸惑いましたね。
――ではプロとしてのスキルというのは、現場での実践のなかで身につけられた?
山本 そうなりますね。それはのちの演出に関してもそうです。僕の師匠である木上益治(きがみ・よしじ)さんに徹底的に鍛え上げられました。
――撮影から演出へはどのように移られたのでしょうか。
山本 京都アニメーションに入って半年くらい経ったとき、まだ撮影の修行中だったのですが、当時制作部長だった八田(陽子)さんから急に「山本くん、演出試験受けないの?」と言われ受けることになって。
――どういった試験内容だったのでしょう?
山本 ワンシーンの絵コンテを描くというものでした。それで結果としては合格点ではなかったんですが「演出助手」ならいいと。そうして木上さんの下に演出助手としてつくことになったんです。木上さんというのは、言わずと知れた、京都アニメーション全スタッフの師匠であり、京アニクオリティーの土台を築き上げた天才アニメーターですね。
ただ、最初に演助として参加したのは『ジェネレイターガウル』(1998年)の第7話だったんですが、当時はまだ作画中心のスタジオだったということもあって、木上さんからは開口一番「どうやったら演出になれるかわかんないから、勝手に学んでよ」と言われて(笑)。しかしそれでは困るので、どうしたかというと、質問攻めにしたんですよ。一日中、木上さんの後ろに張りついて「これ何やってるんですか?」「これ何に使うんですか?」と。当然途中で「仕事になんないから!」と怒られるわけですけど、そうしたら一旦は離れて、でも1時間くらいしたらまた戻ってきて「これ何ですか?」と(笑)。そういうふうにして木上さんの下で徐々に演出のノウハウを身につけていきましたね。
知られざる木上益治伝説
――ちなみに、少しお話がずれますが、京都アニメーションのスタッフ全員が木上さんのお弟子さんだというのは、具体的にはどういった状態なのでしょうか。
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