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今朝は、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦さんのインタビューをお届けします。「身体拡張」や「超人スポーツ」で知られる稲見先生が、自身の関心領域についての議論を縦横無尽に展開。哲学的な領域を包括しつつある昨今の工学的知見を元に、テクノロジーによって拡大化・細分化される人間の「自己」あるいは「身体」の新たな定義について考えます。
▼プロフィール
稲見昌彦(いなみ・まさひこ)
1994年、東京工業大学生命理工学部生物工学科卒。1996年、同大学大学院生命理工学研究科修士課程修了。1999年、東京大学大学院工学研究科先端学際工学専攻博士課程修了。東京大学リサーチアソシエイト、同大学助手、JSTさきがけ研究者、電気通信大学知能機械工学科講師、同大学助教授、同大学教授、マサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所客員科学者、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授等を経て2016年より東京大学先端科学技術研究センター教授。自在化技術、Augmented Human、エンタテインメント工学に興味を持つ。現在までに光学迷彩、触覚拡張装置、動体視力増強装置など、人の感覚・知覚に関わるデバイスを各種開発。米TIME誌Coolest Invention of the Year、文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。超人スポーツ協会発起人・共同代表。著書に『スーパーヒューマン誕生! ―人間はSFを超える』(NHK出版新書)がある。
◎聞き手:宇野常寛
◎構成:神吉弘邦
■3層のレイヤーから見える世界
宇野 2月に刊行された稲見先生のご著書『スーパーヒューマン誕生―人間はSFを超える』、拝読いたしました。この本の中で扱っている話題と、今の稲見先生の研究領域とは、どのくらいつながっているのでしょうか?
稲見 これまで主にやっていたテーマは「人間拡張」でしたが、現在の研究テーマは「人体の再設計や再定義」や「心の身体の問題」です。今回の書籍では、前者の方が今の時代に多くの人に伝わる話題だという判断で、そちらをメインに書いています。
今の研究分野に名前を付けるなら「身体情報学分野」でしょうか。今年春に、東京大学先端科学技術研究センターに異動したときに、研究分野名を自由につけて良いというので、そう名乗っています。今は興味の対象がそちらに向かっているので「人間拡張工学分野」とは付けませんでした。
宇野 この本では、ヴァーチャルリアリティとロボットの話題が一冊にまとめられていますが、この分野を包括的に表すような言葉はないんでしょうか?
稲見 私はVR、ロボットを包含する学問領域名として、「身体情報学」と名付け、身体を情報システムとして理解、設計することを目指しています。身体拡張はその第一段階と考えています。旧来的には「ヒューマン-マシン インタフェース」や「コンピュータ-ヒューマン インタラクション」になるんでしょうが、こういった伝統的なヴァーチャルリアリティの分野が研究していたのは、情報世界と物理世界、つまりデジタル-フィジカルの関係をどう設計していくかでした。
情報技術はニコラス・ネグロポンティの著書『ビーイングデジタル』で語ったように、すべてがデジタルに移行しようとしています。その両者の中間的なところに「タンジブル」があったりして、物理-情報界面領域はいま落合陽一先生も取り組んでいるところですね。
この物理世界と情報世界を対比する考え方に対し、私は最近サイバネティクスの始祖であるノーバート・ウィーナーに倣って、世界を「自分が直接制御できるもの」と「自分が直接制御できないもの」に分けて捉えることを提案しています。そして自らの可制御領域を押し広げて行こうというのが「人間拡張」の考え方です。
その考え方を基本とし、”We”という概念を考えます。「自分が直接制御できるもの」と「自分が直接制御できないもの」は、「自己」と「それ以外」と言い換えることができます。ここで主語を「自己」ではなく「我々」に転換する、つまり"I"から"We"へと考え方を広げることで、これはまさに我々人類が制御可能な領域を広げるというエンジニアリングによって目指すべき目標となります。
このエンジニアリングの世界にも界面があって、それは「可制御界面」と捉えられます。その外側に広がっているのは「観察できるもの」と「観察できないもの」の世界で、ここでも主語を"We"に置き換えることによって、新たな技術により観察可能な世界つまり「可観測界面」を広げるという、サイエンスの目標と捉えることができます。そして、学問全般が目指す目標は人類にとっての「理解界面」を押し広げることかもしれません。
まとめると「制御できる世界」「観察できる世界」そして「理解できる世界」。この3層のレイヤーが、テクノロジーによってどう変わっていくかに興味があります。
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