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キッズアニメは「闘争性」を脱臼させる
(『石岡良治の現代アニメ史講義』
キッズアニメーー「意味を試す」〈4〉)
【毎月第3水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.4.20 vol.569
今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。4回にわたってお届けしてきたキッズアニメ編のまとめとして、健全/不健全のあいだで揺れ動くキッズアニメならではの機能と面白さについて解説します。
▼プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に
『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、
『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
■ シュール系コメディは欲望が着地しないことに意味がある
これまでの部分では、女児アニメの考察が多めでしたが、まとめると、『妖怪ウォッチ』なども含めて、キッズアニメはシュール系コメディの宝庫と言って良いと思います。なぜキッズアニメはシュールな作風になりやすいのでしょうか? 私の仮説を述べると、要するに「有意味な行動のあり方が試されている」からだと思います。「アニメが意味を試す」とでもいえるでしょうか。その結果、わたしたちが試されるんですね。『ジュエルペットサンシャイン』に出てくるヤギの八木沼くんなんかもそうなんですけれども。だから、私としては何かのパロディよりも、八木沼くんとか囲碁パンダといった、即席で出てきたような意味不明キャラに可能性を感じています。
さて、シュール系コメディのポイントは、とりわけ性的な意味にはなかなか着地しないところです。そして浮遊し続けるんですね。つまり、簡単に「ふぅ……」ってならないということです。「シコリティ」とか、エロ周辺のネットスラングは数多く、私自身は下ネタとかエロ表現を、もちろん深夜アニメの重要な宝だと思っています。だから今回の言い方だと、あたかもエロネタをディスっているように思えてしまうかもしれませんけれども、そういうわけではありません。それでもやはり、一面でエロはやっぱり目的性がはっきりしているわけです。要するに動物では本能とされることが多い領域だし、性行為の結果、実際に人間が増える、という有用性があるわけですよね。
『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』といった著作で知られるジャレド・ダイアモンドに『Why is sex fun?』という本がありますが、これは日本語ではタイトルを変えているんですよね。直訳すると『なぜセックスは楽しいか?』という本です。人間にとってセックスはソロプレイであっても楽しいわけですけれども、そういいつつも日本人は、諸外国の人々と比べて、パートナーがいても性行為の回数が少ないと言われていますね。さて、この本は文庫になっています。『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』です。単行本では『セックスはなぜ楽しいか』なんですが、おそらく売れなかったか誤解されたか、とにかくなんらかの理由でタイトルが変わったんでしょう。
おおむねみんな性的な話や内容が大好きなんですけれども、キッズアニメはそこに着地しないのが重要なんです。だからこそ『おねがいマイメロディ』の「おねがい」がじんわり来るんですね。なんて言えばいいのかな、よくオタサーの姫が色々おねだりとかする光景があるわけですけれども、あれは一見関係ない風情を見せつつも、コミュニケーションが性的な雰囲気で満たされるところが特徴といえるわけで、「性の有用性」が場を回すポイントになっているわけです。だからこそオタサーの姫の表象が、多くの場合露悪にとどまってしまうのではないでしょうか。ひたすら「おねがい」をするマイメロさんと比べると、生ぬるく感じられるんですね。マイメロさんはやばいですよ。だってオタサーどころか、マイメロさんのお願いは、しばしば宇宙の秩序を危うくしますからね。だから、超合金マイメロが快調に宇宙巡航モードで動きまわる姿は、昔のコピぺであった「宇宙ヤバイ」【1】みたいな感覚に近いんだと思います。
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