TSUYOSHIと西崎信太郎のR&B談義

R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第5編『Joe』

2015/01/20 20:38 投稿

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『Joe』(ジョー)

アメリカ合衆国のR&Bシンガーソングライター兼音楽プロデューサー。1993年デビュー。2002年にはグラミー賞最優秀R&Bアルバムなど合計7部門にノミネート。2007年発表のアルバムはBillboard Hot 200で2位を獲得、2008年にも8位を獲得し、移り変わりの激しいR&B界の中でその貫禄と存在感を見せつけている。今月2015年1月に来日公演も。


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<TSUYOSHI評>

Joeは1973年生まれであると、つい最近知った。自分と同い年。何気に追いかけてきた存在だったので、この事実は色々とショックである。Joeは20歳で1stアルバムをリリース。23歳の時、『Don't Be a Menace』という映画のサントラに収録された『All The Things (Your Man Won’t Do)』のヒットをきっかけに、翌年24歳でリリースした2ndアルバムで大ブレイク。自分の事に置き換えて恐縮だが、私は20歳の時に名古屋で本格的に音楽を始め、23歳の頃はハウスバンドで365日無休で往年のSoulやDiscoやR&Bのヒット曲を歌い、24歳で、さて自分の人生どうしたものかと悶々と過ごしていた。比べる類の事ではないのかもしれない。でもまあ人それぞれではあるな、と。ただ、表立った肩書きはシンガーでありつつも、ソングライター且つプロデューサーでもあるというスタンスは自分も同じなので、在り方として強烈な憧憬の念を抱いていることに何の変わりはないのだが。

私は自分のオリジナル曲が無い時分から『All The Things (Your Man Won’t Do)』をよく歌っていた。事の成り行きの細かな部分は割愛するが、これを吹き込んだデモテープを聴いてくれた故DON勝本氏のおかげで今の私が存在していると言って過言ではない。地元にいた頃に出たイベントでこの曲を歌った後、ゲストで出演していたデビュー間もないFull Of HarmonyのHiro君と歌談義が出来たのもいい思い出である。人前で初めて弾き語りをしたのもこの曲だったりする。

他にも何かと私の音楽人生にトピックをくれた『All The Things (Your Man Won’t Do)』という曲(http://youtu.be/VVIpBCaZJVI)。なにかとよく出来た曲である。『Don't Be a Menace』のサントラを買って初めて聴いた時の衝撃ったらなかった。まず、とりあえずのフェイド・インからのスタート。ちなみに、この曲の1曲前に収録されているThe Isley Brothers『Let’s Lay Together』(http://youtu.be/AqlQ1eqLRmk)からの流れもたまらない。

実のところ、この曲はブラックミュージックの世界においてエポックメイキングな意味合いを持つ曲なのではないかと個人的に思っている。なぜなら、この曲が世に登場するまでこのような感じの曲はなかったからだ。今現在認知されている”R&B”というカテゴリーは90年代初頭から始まったイメージではあるが、その頃のブラックミュージックの歌モノは大きく言えばニュージャックスウィングやヒップホップ・ソウルやL.A. & BabyfaceやJam & Lewisなどが主流。それ以前のブラック・コンテンポラリーやクワイエット・ストームのような主にシンガーの歌力がまずありきのモノ達は、Brian McKnightなどは既にいたが、やはり陰に隠れ気味だった。そこにこの曲の登場である。かつてのブラック・コンテンポラリーやクワイエット・ストームの香りが根幹にありつつ、フワリとストリートな香りも漂わせつつ、それまであまりポピュラーなジャンル感では使われてこなかったコード進行を新たに織り交ぜつつ。この様式美の要素は、”R&B”と呼ばれ始めた時以来、その時代時代で音の流行り廃りはあっても基本的にその根本は変わっていない。もちろん違う見解もあると思う。『All The Things』も収録されている2ndアルバム『All That I Am』自体が佳曲揃いであるし、今で言う”This Is”R&Bな曲ばかりで素晴らしい。だが、どうしても『All The Things』だけはこのアルバムの中に於いても毛色が違うのだ。Joeが作り歌った曲にもかかわらず、Joe以上の「何か」を感じるのである。JoeであってJoeではない、もしかしたらジャンルなんてものを超越した「何か」。しかしながら、その「何か」こそが”R&B”の座標軸のど真ん中である気がしてならない。

Joeの歌力は言うまでもないし、個人的にも歌の部分で少なからずの影響を受けている。でもJoeは、私にとっては『All The Things (Your Man Won’t Do)』ありきなのだ。


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<西崎信太郎 評>

昨年末、Billboard Japanさんにてジョーの来日特集記事を書かせて頂きましたが(http://www.billboard-japan.com/special/detail/742)、「一番好きなアーティストは?」の問いには、常に「ジョー」と答えてきました。この記事を書かせて頂いてから1年経ちましたが、今でも浮気せずに変わっていません(笑)。好きなものに理由なんてないっていうシンプルな結論ですが、デビュー時から変わらずにR&Bを貫くスタイルは、大袈裟に言ってしまえば僕にとってはヒーローなんでしょう。同じ一人の男として、その生き様に憧れを持ってしまうという私情も、その「好き」には少なからず含まれていると思いますが。

ジョーのファンの方は、かなり多いと思います。それこそ、僕よりジョーに対する愛情が大きい方も沢山いらっしゃると思います。皆さんはジョーの曲の中で、どの曲がお気に入りですか?ジョーのファンの方を集めて、ジョーの座談会をやったらめちゃくちゃ面白そう。僕は一番好きなジョーの楽曲は"Good Girls(1997)"ですが、その他にお気に入りの楽曲を挙げてみると、"My Love(2007)"、"Something For You(2013)"、"Very Special Friend(2009)"、"I Understand(2001)"。このラインナップとピッタリ一致する人がいたら、絶対に話が合いますね(笑)。ライブでは中々披露まで至らない曲ですが、この辺りの曲が好きな僕としては、ジョーのイメージは完全にバラーディアであり、ロマンサー。以前、ニコ動にてHI-Dさんが出演した時も、ジョーがR&Bシーンに登場後、スタイリッシュにR&Bを歌いこなす紳士的なスタイルがある程度確立されたという話題になりましたが、これは僕も同感。ジョーがいなかったら、ニーヨも存在しなかったかもというくらい、ある意味ジョーのスタイルはセクシーR&Bの決定版だったかもしれません。

そんなジョーが今年も来日(正確には2014年は来日無し)。今年もジョーの麗しき立ち振る舞いに酔いしれたファンの方々のお顔を想像するだけで、現役のベテランR&Bシンガー/ソングライターとしては別格のポピュラリティーを持つ方かなと思います。コンスタントに良音を届けてくれるアーティストだけに、次の作品の方向性も今から楽しみです。

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