『Musiq Soulchild』(ミュージック・ソウルチャイルド)
アメリカ合衆国のR&Bシンガー。R&Bやソウル、ジャズ等を混ぜたオリジナリティーの高い楽曲が特徴。その先鋭的な音楽性から、”ネオ・ソウルシンガー”と表現される事が多い。2000年にデビューし、いきなりプラチナム・ディスクを獲得。2013年時点で、累計11部門ものグラミー賞にノミネートされている。
<TSUYOSHI 評>
ビジュアル、ドラえもん。
この方の音楽性は独特に聞こえる。90年代からのいわゆる『R&B』のテイストの影響がとても薄い印象を受ける。それまでのブラック・ミュージックの系譜は漏らさず辿ってきていたのに、90年代R&Bを軽く無視したかのような音楽性。Hip Hopにしろ歌モノにしろ、多分フィリーや、下ってもNYなどのアメリカ東海岸辺りというのはHip Hop踏襲後のニュー・クラシック・ソウルな雰囲気がたぶんに強いイメージがあるが、彼も基本はこの範疇。70年代のスティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、カーティス・メイフィールドとかが好きなんだろうな、加えてスライ&ザ・ファミリーストーンやPファンク周りやオハイオ・プレイヤーズやプリンスとかも好きなんだろうな、Jazz方面やHip Hopも近くにあるよね~って印象。と、ここまでならばD’Angeloと方向性が一緒に思えるが、Musiq Soulchildの方が70年代ソウルのエッセンスが強い。若干ポップ。プラス、初期の頃だが、若さ故か少し小洒落ようとしてる感があった気がする。その逆、D’AngeloはFunk色がちょっとだけ強くて、匂うくせに常に洒落ている。ベクトルの違いでこれだけ別物になるというところが面白い。別角度の話だが、1stアルバムのタイトルは『Aijuswanaseing』。"I Just Wanna Sing”と読む。雰囲気としては『歌いたいんだよぉ』って感じか。ちなみに、彼のアルバムタイトルは字面遊びが基本のようで。6枚目のアルバムタイトルの『MusiqInTheMagiq』は字面以外に意図を感じるから面白いと思うけど、『Aijuswanaseing』ってどうなんだ?なんか小洒落た感がある気が。
誰かに聞いた話だと、とても歌うことが好きな人なんだそうで。レンジが狭く、しかしながら一度聴いたら忘れられない声でもって特徴のある歌を歌う人ではあるのだが、私個人としてはあまり『シンガー』という印象を持っていなかったので、この話は少し意外だった。フェイクでドリアンスケールを入れ込んできたりとか、歌に対するこだわりも確かにありそうだが。けれども、なんせ歌以外の音楽的なところに耳がいってしまうので。音は魅力的な要素が満載である。是非色々と聴いて欲しいところ。個人的には初期より今の方が好き。曲の良さは以前も今も変わりはない。しかし歌もサウンドも落ち着いたと言ったら語弊はあるが、地に足がつきだしたといった具合か。にもかかわらず、変わらず個性的。音楽をやっている身からすると、個性的であり続けながら結果も伴っている事がことのほか羨ましい。音楽の範疇に留まらず、優れたアンテナを持っているのだろうか。
Musiq Soulchildは1stアルバムリリース当初からCDを買って聴いてはいたが、個人的にハマりだしたきっかけは2ndアルバム『Juslisen』収録の『Halfcrazy』(http://youtu.be/IP4V3TTC3fw)。メロディーがどうのではなく全体的にメロディックな印象。聴きやすい。歌詞もベタ。ここから入ったリスナーも多いのではないか。そしてこのアーティストは、こと日本においては全体的にバラード系の受けが非常に良いのではないかと思う。むしろそちら側から彼を捕えている方も多いのかも。美しいバラードも数多くある。私が好きな傾向の一つに”グルーヴィーなバラード”と位置づけているモノがある。スロージャムに近いが、音的にはグルーブありきな感じ。例えば彼の6枚目のアルバムに収録されている『Yes』(http://youtu.be/bM9fzser6RY)。気持ちのいいグルーブは心が落ち着く。そしてオノ・ヨーコばりに”Yes”。曲だけ聴いたら良い曲だね~で終わるが、MVの内容はシリアスで前向き。人って悪くないね、と思う。楽曲の制作開始段階から既に様々な意図があったかどうかは分からない。しかし、MVを含めたこの『Yes』という作品の在り方はとても素敵である。
<西崎信太郎 評>
一枠に"ネオ・ソウル"のサブジャンルにカテゴライズされる事が多いミュージック・ソウルチャイルドですが、その主張とは裏腹にリスナー層はもっと幅広いと思ってます(特にここ日本では)。マクスウェルやエリカ・バドゥらのようなヒップホップ、ジャズに影響を受けた"ザ・ネオソウリスト"のファン層に愛される事は無論、タンク、ジョーといった円熟味を増したロマンティストや、アッシャー、トレイ・ソングスのようなアイドル路線のファン層(比較的年齢層が若い)にも愛されているような印象。いつも良いポジションだなーと勝手に思っています。
その背景の理由の1つとして、ヒットが命題のシングル曲の間口を狭めずに、ラジオ・ヒットを狙えるポップス的エッセンスをしっかりと含んでいる事。プラチナム・セールスを記録したセカンド・アルバムに収録の"If I Woulda Knew"はデバージの"I Like It"ネタ、ミュージックのキャリア初期の名スムース・ダンサー"Forthenight"、デ・ラ・ソウルのネタをサンプリングした"Buddy"、スウィッズ・ビーツを迎えた"Anything"などなど、ラジオ・ヒットはもちろん、何れの楽曲もクラブ・ヒット。DJ目線で見ると、ミュージック・ソウルチャイルドを「ネオ・ソウル・シンガー」や「フィリー・ソウルの申し子」として捉えて認識されているというより、グッド・シンガーの1人という認識の方が強いのかなーと。ミュージック本人はスティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイらのサウンドを系譜したソウル・シンガーとしての認識があるのかもしれないが、結果的にファン層を限定しないアーティストへと向かっていったという事でしょう(生音主義者にもDTMを好む層にもしっかりファンが付いた)。
「第1線で10年活動出来れば本物」(←そうなのかは知りませんが)と、ミュージック・ソウルチャイルドもアルバム・デビューしてから15年経つんですよね。そう振り返ると早いですけど、時が止まったかのようなフレッシュさを僕はミュージックに対して常に感じています、ミュージック・マジックでしょうか。デビューの年は2000年、音楽業界に限らず「ミレニアム」という言葉が飛び交っていた時期で、ことR&Bシーンを切り取ってみれば、90年代に市民権を得たR&Bが成熟し、ヒップホップとの距離感もグッと近づいた時期。シーンから消えたアーティストの方が断然多いですよね、きっと。同期のシンガーでいうと、カール・トーマスやジャヒーム辺りでしょうかね。総体的に見たミュージック・ソウルチャイルドの魅力って、安定感かなと思います。寧ろここからの15年が楽しみ、そう思えるシンガーです。全然関係ない話で終わっちゃいますけど、1970年代、1980年代、1990年代って10年刻みで音楽史を振り返られる事が多いですけど、2000年代も2010年代も、一括りですよね、今のところw
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TSUYOSHIと西崎信太郎のR&B談義
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